人間と地球環境問題

 生物がこの地球に誕生して以来、気の遠くなるような長い時間をかけて地球環境のもたらす様々な変化に適応・順化し、今日の人間を中心とした文明社会を築き上げてきた。しかし、この百年単位の短い期間で先進国における大量消費、大量破壊型の社会構造、途上国における爆発的な人口増加、急激な都市化・工業化などによって私たちの住む恵の地球環境が大きく変貌しようとしている。いわゆる地球環境問題として、オゾン層の破壊、地球の温暖化、酸性雨など越境大気汚染、海洋汚染(地球規模の化学物質汚染を含む)、自然資源の劣化(熱帯林の減少、生物の多様性の減少、砂漠化など)など生物の生命に直接関わる深刻な問題が多数発生しているが、これらはすべてお互いに関連しあっている。 (近藤雅雄:平成27年9月5日掲載) 以下のpdfに原稿を掲載した。 人間と地球環境問題

伝統医学と日本の医療の方向

 戦後の急速な社会変化から、次代に向かっての社会と共に歩む幅広い医療の改革が進められている。一方で、世界各地で伝統医学従事者を中心とした「伝統医学(traditional medicine)」を見直す機運が起こっている。こうした中で、日本の伝統医学の今後の方向性を考える動きも起こり始めている。

1.世界での伝統医学の現状 
 西洋医学はギリシャ、ロ-マで発祥し、そしてそれが西洋に芽生えた伝統医学の一つである。この西洋で誕生した一伝統医学である西洋医学が今日の世界の主流をなしてきた背景の一番大きな要因は近代科学的手法(分析的手法)を取り入れるのに成功したことによる。すなわち、西洋医学では、臨床と基礎の各研究がうまく合体し、その成果は現在の多くの病気の原因やその発症機構を明らかにし、病気の診断・治療・予防など医療のあらゆる面で大成功を収めてきた。この事実は誰も否定することはできない。
 しかし、近年の病気の多様性や文化の多様性から(原因の明らかでない慢性的な疾患、ストレスなどの精神的な要素が反映される疾患、再発性疾患などは西洋医学的手法では困難な場合が多い)、これまでの近代科学的手法に基づいた西洋医学だけで、全人類的医療が行えるかの疑問が世界中で沸き起こってきた。そこで、近年、世界各地の伝統医学、民族医学を見直そうとする機運が国際的に起こってきている。
 中国では数千年の歴史を有する中国医学主体の医療から、文化大革命(1966~1976年あるいは1977年)以降、西洋医学と中国伝統医学の融合政策に政府が積極的に推進し、一応の成功を収めている。しかし、近年の急速な経済発展・開発に従い、此れまでの中国の伝統療法に変わって西洋医学が主流になりつつあることは否めない。
 一方、他国ではしだいに積極的に民族医学を取り入れ、その土地、風土に合った医療を推進しようとする国が増え、国際機関も積極的にこれを支援する方向にある。すなわち、現代西洋医学以外のすべての医療を含む多種多様な治療法である補完・代替医療が急速に進展している。日本では漸く他国での伝統医学を含む代替療法の調査・研究が行われ、現代の医療に活用するためのプロジェクトが動きだし、伝統医学(東洋医学:主に漢方)を正規カリキュラムに取り入れているところも増えてきた。しかし、これらはすべて医師教育(日本では、医師はすべて大学の医学部での医学教育を受けたものだけを指す)の一環として取り組まれており、一般的に東洋療法に携わる専門家(あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師などの治療師)の身分は残念ながら極めて低い。その最大の理由は、わが国の医療行政が西洋医学の医師主体の構造国家として機能しているためである。

2.欧米での民間医療ブ-ム(代替・補完医療)の背景
 1998年に米国国立衛生研究所(NIH)に国立補完代替医療センター(NCCAM)ができたことをきっかけに広まり、世界各地で現代医学を補完・代替する医療として利用されている。1999年の11月に米国・ワシントンで「第1回チベット医学国際会議」が-伝統医学と西洋医学の対話-と題し、世界中から2500人の参加で開催された。日本でも、1998年に「日本代替・相補・伝統医療連合会(JACT)」、2000年「日本統合医療学会」などが結成され、伝統医学および補完・代替医療(complementary medicine, alternative medicine)が世界的なブ-ムにあることは事実である。このような背景としては、これまでの西洋医学主体の医療は①検査、薬などの医療費が高く、副作用が多い、②即効性があるが、病気の局所しか診ない、③検査の結果が中心で全体(とくに患者のこころ)を診ない、④貧しい人は西洋医学にかかれない、⑤医師の職業意識に対する個人差が大きい、⑥その土地の風土・文化に則した医療が欠けている、⑦患者の健康・医療に対する意識の高まりなどであるが、その最大の根拠は⑧医療費の高騰と思われる。そこで、現在、厚生労働省、医師会を中心とした病気の予防、健康増進という健康政策が民間企業および国民における健康医学ブ-ムを起しているものと思われる。

米国と日本の現状
 米国では6種の医療職 ①医師 ②歯科医、③オステオパス、④カイロプラクタ-、⑤ポタイアトリスト、⑥検眼師があり、これらは大卒あるいは短大卒後4~6年の専門課程の履修を経た後授与される学位であり、学位取得後に国家試験にパスして免許を受けなければその業務が行えない。この内、日本的な感覚で、いわゆる普通の医者と呼べるのは医師とオステオパスであり、投薬・手術を含む人体に対するありとあらゆる医療行為が法的に認められている。検眼師は眼科医の業務から投薬・手術を除いたものすべてを行うことができる。ポタイアトリストは足の医者で、足のみを治療の対象として、麻酔を含む投薬及び手術も行うことができる。
 一方、米国で生まれたカイロプラクティクは、今日では多くの国で正規医療の一部となっている。カイロプラクタ-は一般的診断権とX線撮影権を持ち、州によっては簡単な外科手術や死亡診断書の作成なども認めているが、自由競争・独占禁止を国是とする米国ならではの住み分けぶりといえる。さらに、米国では「インディアン伝統医学」、「仏教医学」、「アロマテラピ-」が現在静かなブ-ムとして広まっている。

 日本では国家資格として国が一般開業(独立)権を認めた職種として、歯科医師以外に、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師があり、日本の伝統療法と言える。このうち、指圧は昭和15年に現在の日本指圧専門学校浪越学園の前身である指圧学院を設立した浪越徳治郎氏によって普及され、現在に至る。柔道整復術は日本古来固有の伝統医療、民間療法、代替医療であり、柔道整復師は、骨折・脱臼・打撲・捻挫の治療を行うことができる。ただし、これらの療法については、医師はすべてについて実施可能であるが、日本独自のこれら伝統療法の発展並びに治療師からなる医療行政の今後の進展が期待される。

3.日本の医療の方向性
 米国ではアメリカ人の健康づくりをまとめた米国健康政策の指針である「ヘルシーピープル2000」が10年ごとの見直しで米国保健社会福祉局より提出された。一方、日本の医療も西洋医学を基軸に進化してきたが、米国と同様に近年の生活習慣病を始め慢性疾患の増加に関連した健康政策が重要視されるようになり、米国に追従した形で、厚生労働省から「健康日本21」と題し、21世紀における国民の健康寿命の延伸を実現するための新しい考え方による国民健康づくりの策定に対する取り組みが行われるようになった。
 また、これまでの医療は、プライマリ・ケアについては軽視の傾向であったが、プライマリ・ケアの専門医として、2013年4月に厚生労働省は「総合診療専門医」という新しい専門医を養成・認定することを決定した。2017年から後期研修がスタートし、2020年に新制度の下で、初めての専門医が誕生する。すなわち家庭医(family doctor)制度とも言える。これによって、①患者中心の医療、②家庭志向型のケア、③地域包括プライマリ・ケア、④健康問題の心理社会的アプローチ、⑤共感できる人間関係の維持・強化等が図れることが推測される。
 したがって、これからの医療は各種疾病に対する治療対策は勿論のこと、健康向上・疾患予防(予防医学)という概念が大きく広がってきていることは癌、生活習慣病の概念でもすでに証明されていることから、これを家庭医にて個人の健康管理を徹底しようとする時代にあると言える。
 一方、日本独自の伝統療法の充実についての対策は未だにみられない。これを早急に充実させ、西洋医学と東洋医学(日本の伝統医学)の両者の発展を目指した日本独自の総合医療の発展を期待したい。
参考文献:①今西二郎編集:補完・代替療法、金芳堂、2003、②葛西龍樹著:医療大転換―日本のプライマリ・ケア革命、ちくま新書、2013、③アンドルーワイル著、上野圭一訳:癒す心、治る力、角川書店、1995年。(近藤雅雄:平成27年9月2日掲載)


主な世界の伝統医学
①中国:中国医学(気功などを含む:黄帝内経、神農本草経、傷寒論を基本典籍とする)漢方、鍼灸、チベット医学、太極拳など、②インドその他:ア-ユルヴェ-ダ、ユナニ、ヨガなど、③ミャンマ-:ビルマ伝統医学(土着医学)、④インドネシア:スクン・バイ(伝承治療薬:ジャムウ、ウコン)、⑤アラブ諸国:ユナニなど、⑥アフリカ:薬草学など、⑦欧州諸国:アロパシ-、ホメオパシ-、鍼灸、温泉療法、カイロプラクティク、アロマテラピ-など100 種類以上、⑧米国:インディアン伝統医学、カイロプラクティクなど、⑨日本:あん摩マッサージ指圧、柔道整復、鍼灸など

補完・代替医療の種類(今西二郎編集:補完・代替療法,2003)
①食事・ハーブ療法:栄養補助食品、絶食療法、花療法、ハーブ療法、菜食主義、メガビタミン療法、②心を落ち着かせ、体力を回復させる療法:睡眠療法、瞑想療法、リラクゼーション、バイオフィードバック、イメージ療法、漸進的筋弛緩療法、③からだを動かして痛みを取り除く療法:太極拳、ヨガ、運動療法、ダンスセラピー、④動物や植物を育てることで安楽を得る方法:アニマルセラピー、イルカ療法、園芸療法、⑤感覚受容器を介した療法:アロマセラピー、芸術療法、絵画療法、ユーモアセラピー、光療法、音楽療法、⑥物理的刺激を利用した療法:温泉療法、刺激療法、電磁療法、⑦外力で健康を回復させる療法:指圧、カイロプラクティック、マッサージ、オステオパシー、リフレクソロジー、頭蓋骨調整療法、⑧宗教的療法

こころとからだの健康(9)治療と治癒

 生体には様々なバイオリズムがあり、そのリズムの乱れは、脳の視床下部を中心とした体内の恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)によって常に無意識的に自己診断、修復、再生の3つの機能が働き、健康状態に戻そうとする治癒力が働いています。
 健康とは完全にバランスの取れた状態であり、これが崩れたときに健常な状態に戻そうとします。この勢いは人為的に作用させることが可能であり、それは治療によって成すべきです。治療と治癒との関係は、治療は受身的であり、病を外部から叩くのに対して、治癒は能動的であり病を内部から除去することを指します。

1.医学誕生における2つの神話
1)医神 アスクレピオス(Asclepius)
 病気の治療は基本的に抗医学であるというのが現在西洋医学思想の根本であり、病気のプロセスを内部に押しやるという本質的に対抗的・抑圧的な医学です。

2)健康神 ヒュギエイア(Hygeia)
 治癒力の強化(自発的治癒、spontaneous healing)は東洋医学をはじめとした西洋医学以外の伝統医学の根本思想です。この思想は現在の西洋医学の一分野である衛生学に見られ、衛生学を健康神の考えを取り入れHygieneと命名されましたが、現代の衛生学は疫学や中毒学が主流であり、ヒーリングシステム(治癒系)、すなわち、自己診断、修復、再生の機序解明に関する研究はこれまであまり行われてきませんでした。また、衛生学は予防医学としての代替、補完、相補医療の領域が重要と思われますが、広く公衆衛生学という見地からすれば、医学部のみで究明できるものではなく、理工学、人文科学、家政学、栄養学、人間科学など多領域に渡る学際的研究分野であるべきです。

2.主な伝統医療 
 日本には貝原益軒(1630~1714)の「養生訓」が有名ですが、明治時代以降医師の権力が著しく増大し、西洋医学一辺倒となっていきました。一方、世界では、アーユルヴェーダ医学、鍼療法、バイオフィードバック、ボディーワーク、中国医学、カイロプラクティック、イメージ療法、生薬医学、ホリスティック医学、ホメオパシー、睡眠療法など多数が知られています。このうち、よく知られているのがインドの伝統的医学であり、ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)、中国医学と共に世界三大伝統医学の一つでるアーユルヴェーダです。サンスクリット語で長寿の知恵と言います。問診、触診、脈診など患者の様子を細かく観察して診断し、食事療法、薬草療法(生薬、動物薬、鉱物薬)、スチームバスやオイルマッサージなどがあり、インドの庶民の医学となっています。

3.ボブ・フルフォードの教え 
 フルフォードの医学は病気を抑圧するのではなく、からだに備わっている潜在的な治癒力の発現を助長する、非侵襲的な医学であり、古代ギリシャの医師であったヒポクラテスの2大訓戒「①Primum non nocere:傷つけてはいけない、②Vis medicatric nature:自然治癒力を嵩めよ」を遵守し、「①からだは健康になりたがっている、②治癒は自然の力である、③からだはひとつの全体であり、全ての部分は1つに広がっている、④こころとからだは分離できない、⑤治療家の信念が患者の治癒力に大きく影響する」の五つの知恵を実践した。このフルフォードの教えについてはアンドルーワイル著の「癒す心、治る力」は、「自発的治癒とは何か」、「8週間で甦る自発的治癒力」の2冊からなる書物に記載されています。医師をはじめとする治療家には一度は必読されることを望みます。

参考文献:①アンドルーワイル著、上野圭一訳:癒す心、治る力、角川書店、1995年。 (近藤雅雄:平成27年9月2日掲載)

こころとからだの健康(8)肥満対策

 肥満とは単に体重が多いということではなく、脂肪量(中性脂肪)が過剰に蓄積した状態をいい、脂肪が増量している組織および場所(分布)によって皮下脂肪型(下半身型、洋梨型)肥満と内臓脂肪型(上半身型、りんご型)肥満に分類されます。生活習慣病との関わりがあるのは内臓脂肪型肥満です。
 肥満発症の原因は①食べ過ぎ、②誤った食事パターン、③運動不足、④遺伝、⑤熱産生機能障害などが挙げられますが、生活習慣による影響が多いことが分かっています。

1.肥満のメカニズム
 肥満のメカニズムの研究は1994~1995年に肥満の遺伝子およびその受容体遺伝子などが相次いで発見され、漸く肥満のメカニズムの概要がわかってきました。ヒトの体重は身長に対して設定されたように遺伝子によって食欲や消費エネルギーが調節されています。その調節には主に①レプチン(白色脂肪細胞から内分泌される蛋白質で摂食中枢を抑制する。すなわち、もう食べなくても良いという信号を脳に伝える。レプチンとはギリシャ語で“やせ”の意味です)、②レプチン受容体(視床下部の摂食中枢に存在する)、③β3アドレナリン受容体(エネルギー倹約遺伝子)、④脱共役蛋白(UCPファミリー;ミトコンドリア内膜に局在する蛋白で、ATP生産を伴わずに熱産生を行う)などが関与し、これらの遺伝子の異常と様々な環境要因が肥満を発症させる原因となります(肥満に関連した遺伝子は約70種類存在するという)。
 近年、急速に肥満者が増加(とくに小児の肥満が多い)し、社会問題となっていますが、その原因は過食や運動不足などが考えられます。

2.小児肥満の対策
 小児肥満の問題点として、①成人肥満への移行、②生活習慣病の発現、③いじめの対象となるなどがありますが、これらの対策として、こころの教育が最も大切です。小児肥満は、①家族、学校での教育(共育)、育児(育自)、②食生活改善、③糖質、脂質の摂取量を減らす、④積極的に運動を奨励する、⑤ダイエットの自重などによって予防することができます。

3.食事と健康
 こころとからだの健康を堅持していくために最も重要なのが食です、日頃から食に対する考え、興味を持ち、栄養についての正しい知識を身に付けたいものです。
 栄養は生命を維持するために必須な行為であり、その目的は生体機能の調節、生体組織の修復・再生、体温生産およびエネルギーの獲得などです。栄養素の摂取が十分であるかないかは、年齢に適した発育(身長・体重)、日常作業に十分見合った体力(作業能力)、病気に対しての抵抗力(免疫力)、などによって栄養状態が判定されます。
 これらの栄養状態が適正であるためには栄養素の過不足がないようにバランスよく食事摂取することが重要です。特に、食事は日常の生活習慣に欠かせない現象であり、生活習慣と深くかかわる病気の予防や改善のためには、毎日の食生活、食事に気を配ることが重要です。

4.肥満を誘発する原因が氾濫
 近年、24時間営業のコンビニエンスストアで外国の食材、加工食品、健康食品が氾濫し、気安く購入できることから需要が急増しています。しかし、これらの食品には一時のファッション的な、科学的裏づけのないものが多く出回っています。また、外食産業が発展し、今や欧米と同じように日本人の食生活並びに健康管理は個人に委ねる時代となりましたが、その結果、日本人の肥満人口が増加し、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病が蔓延することとなりました。

5.太らないための10か条
 肥満は①生活習慣病に直結する、②免疫力が低下する、③動きが鈍くなる、④息切れがするようになる、⑤やたらに汗をかく、⑥寿命が短くなる等、デメリットが多く、メリットがあまりありません。私も、青年期に56㎏であった体重が、中年期には過食と運動不足によって70kgと過体重となり、様々な生活習慣病を発症すると共に、先に挙げたデメリットが出てきました。そこで、健康について意識するようになり、これまでの生活習慣、特に食に対する意識を変え、日本人本来の日本型食生活に変えてから体重が減少し、現在は青年期の56㎏に戻すことに成功すると同時に生活習慣病もなくなりました。以下に、私の経験に基づき作成した太らないための条件を挙げます。

太らないための10か条
1)自分の体質を知る
2)1日3食、時間をかけて楽しくいただく
3)食塩、脂肪類は控えめに
4)刺激物、甘物、アルコール類などの嗜好品は控えめに
5)毎日野菜、海産物を多く食べる
6)寝る2~3時間前までに食事を終える
7)1日30分以上の運動(有酸素運動、徒歩1万歩)を行う
8)からだをこまめに動かす
9)体重計に乗る習慣をつける
10)入浴中は腹式呼吸を行い、ストレス解消を図る

6.健康度に対する健康指数
 標準体重は身長(m)×身長(m)×22によって、また、肥満度(BMI:体格指数)は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によって求められます。評価は、BMI 18.5~25が正常で、18.5以下がやせ、25以上が肥満です。やせすぎの場合も病気の罹患率が高く、BMI=22が最も病気の罹患率が低いと言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(7)摂食障害

摂食障害 拒食や過食などの摂食障害は年々増加の傾向にあります。その病因は成熟恐怖や家族問題などの心理的要因(心因説)、摂食調節因子異常などの生物学的要因(身体因説)、ダイエット流行などの文化・社会的要因(文化・社会因説)などが考えられ、また、これらの要因が相互に関連しあって発症する多元的モデルが広く受け入れられています。
 一方、拒食と過食は相反するもののように捉えがちですが、拒食症から過食症に移行するケースが約60~70%出現し、「極端なやせ願望」あるいは「肥満恐怖」などが共通し、病気のステージが異なるだけの同一疾患と考えられています。

1.拒食症(神経性食欲不振症、神経性無食欲症)
 とくに若年層(思春期)の女性に多く、また、先進国に多いことから文化的要因も含まれていることが推測されます。
 この病気は体重増加への強い恐怖心を持つものが多く、その発症には第2次性徴期における特有のこころとからだの成熟のアンバランスからくる不安定な心理状態が関与しているといわれています。症状としては、女性の場合は拒食のために体重減少(標準体重の-20%以上)、無月経、性ホルモン低下、糖質コルチコイド(ステロイドホルモン)上昇などを引き起こし、「うつ」に移行することもあります。また、時には隠れ食いをしては嘔吐を繰返すこともあります。重症例では死亡することもあります。

2.過食症(神経性大食症、神経性過食症)
 過食症の場合は1週間に2回以上ヤケ食いやドカ食い(俗に週末過食症候群などと言われる)が見られ、結果的には肥満(単純性肥満)となりますが、体重増加を止めるため食べたあと吐くこともあります。原因は不明ですが、認知行動療法(体重と自己評価)や抗うつ剤が効く場合もあるということです。
 拒食症や過食症はこころの病が中心であることは間違いなく、その治療には、体重を調節するだけではなく、摂食障害についてよく理解し、ストレスとなる原因を早期に発見、その対処を考えることがなによりも大切です。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(6)ストレスと心身の障害

ストレス 現代社会はストレスに満ち溢れ、社会生活上、学校、会社、家庭内などでよく遭遇する不安、悲しみ、失望、恐怖、また、突発的な事件に巻き込まれたり、大きな災害に遭遇したりなど、後天的にこころが傷害されることが多く見られます。これは日本が抱える課題の一つである自殺者の増加と決して無縁ではありません。
 こころが健康であるということは、感情(気持ちや気分)と精神(理性)が健全で、社会と調和した生活を営んでいる状態と言えます。このような状態から外れるとこころの健康に異変が生じ、やがて「こころの病」へと進展します。
 ストレスが原因で起こる「こころの病」の代表が「心身症」「神経症」「うつ病」ですが、これらは関連している部分も多く、厳密に区別できないことがあります。この中で、「うつ病」はこころの風邪と言って誰でもなる病気ですが、年々患者数が増加し、放置すると自殺へと進展するので、予防医学上早期対策が望まれています。
 一方、からだの疲労がこころの疲労に移行する「累積疲労」が知られています。また、「慢性疲労症候群」も知られていますがこれらこころとからだの疲労には必ずその原因が存在します。まずは、睡眠時間を十分に確保し、成長ホルモンの分泌を高め、疲れを解消してから、疲労の根本となる原因について相談し、早めに除去または対策を講じることが必要です。

1.心身症
 心身症はどの年齢層でも発症しますが、特に働き盛りの中高年齢者に多く見られ、こころの過度の負担(心理的、社会的ストレスが過剰に加えられた状態)が、内臓諸臓器に器質的ないし機能的障害となって現れる病気を言います。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、神経性狭心症、自律神経失調症、円形脱毛症、睡眠障害、片頭痛、高血圧症、糖尿病、気管支喘息、更年期障害、性機能不全症、メニエール症候群、単純性肥満、慢性関節リュウマチなど多くの病気が関連し、ヒトによって病状は様々です。心身症はストレスとうまく付き合うように工夫し、早めに病気の原因を取り除くことによって、様々な病気の発症を未然に防ぎたいものです。

2.神経症
 神経症は性、年齢に関係なく発症しますが、特に10歳代後半から30歳代にかけて起こりやすい病気です。神経症の発症には心理的・社会的ストレスが大きく関与し、精神・神経症状として現れるもので、一般にノイローゼと言われています。心身症と異なり、内臓諸臓器には異常が認められません。また、躁うつ病や統合失調症のような内因性の精神病と異なって幻覚や妄想は見られません。
 神経症には①絶えず漠然とした不安感を持つ不安神経症(パニック障害)、②ささいな病状でも重病と思い込む器官神経症(心気症)、③自分の意思に反してまるで強迫観念に取り付かれたようにある行為や考えから抜け出せない強迫神経症、④対人恐怖や赤面恐怖、異性恐怖などの恐怖症、⑤健忘状態になったり、人柄が急に変わったり、無表情になったりする精神的症状および座れなくなるなどの運動麻痺や物が見えない、耳が聞こえないなどの知覚麻痺が起こり、これがヒステリーとなって現れることがあります。これらの根底には不安が共通して見られますので、不安となる原因を除去または考え方を改めることが早期治療につながります。

3.うつ病
 うつ病は近年増加傾向にあり精神心理的、社会的ストレスが発症や増悪に深く関与する病気で、脳の心身症とも言われています。発症年齢は時代と共に低年齢化し、20歳から50歳代で発症し、女性の方が男性に比べ約3倍高く、我が国の自殺増加との関係からもその対策が急がれます。女性では産褥期や更年期に比較的発症頻度が高いと言われています。
 うつ病の発症機序は不明ですが、こころとからだを活性化するセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経化学伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。したがって、薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)を投与し、シナプス内セロトニン濃度を増やすための療法が中心となります。診断基準としては、米国精神医学会が作った診断マニュアルやWHO(世界保健機構)が作ったものがあります。
 表に示した様に、うつ病の症状は神経症や心身症とうつ病と神経症似た点も多く見られますが、生きる気力がなくなり、こじらすと自殺につながることが特徴です。うつ病患者の自殺率は高く、患者の14~37%が自殺企図し、15~25%が自殺する。合併症として不安障害、アルコール・その他の薬物乱用、社会恐怖、人格障害、摂食障害などが知られています。うつ病の場合は薬(抗うつ剤)や休養をとり、安心(癒し)を与え、治る病気であることを認識することが重要であり、励ましや叱責は本人の気持ちを追いつめることになり逆効果となります。予後は良好ですが、患者の約20~30%は慢性化すると言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(3)12か条

 生活習慣病、感染症、癌等に罹患しない丈夫なからだ作り、ストレスを溜めないこころの健康作りが各個人、社会に求められています。個人ならびに集団社会が惰性的であったり、依存的である場合、あるいは個人が身体を動かさなかったり、偏食、喫煙、薬に頼るようなことになると、生きがいを持たない、暗い性格(キレ易い、悲観し易いなど感情の変化が著しい)を持ったヒトが多くなり、社会全体が非活動的・非生産的になるばかりでなく、医療費の高騰を招きます。個人においてはストレスを溜め易く、不定秋訴→籠もり易い→病気(こころとからだの病気)によって健康寿命をはやめる結果となります。
 こころとからだの健康には日頃から報恩、感謝の気持ちを抱くこと、いのちの尊さを理解すること、愛情を持つこと、ストレスを貯めないで前向きであること、目標(夢、志)を持つこと、自然のリズムを大切にすることなどが重要です。これらはすべて酸化ストレスを少なくし、免疫能を増強させ、こころとからだを軽くし、毎日がウキウキと生きがいの満ちた生活となり、人生を楽しく、また素晴らしいものにしてくれます。
 そこで、私の考える健康増進の処方箋として「こころとからだの健康」12か条を以下に挙げました。

1.栄養(バランスの取れた食生活:団欒、育自、共育、神経・内分泌・免疫機能の維持)
 厚生労働省から提出されている食事摂取基準には年齢に応じた栄養素の摂取が記載されています。第一次・第二次性徴期、青年期、中高年齢期には栄養のバランスを考えた食事摂取が重要であることは言うまでもありませんが、特に中高年齢期になると基礎代謝が低下しますので、カロリーの過剰摂取は肥満につながります。肥満はメタボリック症候群と直結しますので、高血圧症、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病のリスクが高まります。また、過剰な食事制限(ダイエット)は生体のリズムの乱れにつながり、若い女性では月経困難症、貧血、感染症など多様な疾病の原因となります。したがって、バランスのとれた食生活が大切です。さらに、食事摂取時には団欒が大切です。食事を通して家族、友人などの人間関係を形成するこの上ない貴重な時間となります。家族であれば、育児(自)、教(共)育の時間となり、食事時間のリズムを遵守することによって、神経・内分泌・免疫の各機能が適切に働くだけでなく、食及び他者への感謝の気持ちを持ち、ストレス解消に役立ちます。

2.運動(身体を動かす:神経、循環、免疫機能の増強)
 人は動物です。動物は動く物と書きます。筋肉は第2の心臓とも言うように、適度な筋肉をつけることが大切です。とにかく身体を動かすこと。運動は定期的に3メッツ以上の強度の身体運動を毎日1時間は行いたいものです。運動によって、脳や筋肉が喜び(心身一如)、循環機能を高めるだけでなく、こころもすっきり、免疫力も高まり、まさにこころとからだのアンチエイジングに繋がります。糖尿病や心臓疾患などの基礎的疾患を抱えている場合は医師の指導に従ってください。

3.休養(疲れる前に休む:脳と全身筋肉の機能保持)
 思春期以降、1日約90分の時間のリズムがあります。90分前後仕事をしたら、10分前後の休息をとることが大切です。すなわち、疲れる前に休むことが大切で、疲れ果ててしまってからの休養は回復力が悪く、健康を取り戻すのに多くの時間がかかります。
 睡眠においても約90分のリズムがあります。就寝してから深い睡眠のノンレム睡眠が現れ、約90分後に浅い睡眠のレム睡眠が出現します。レム睡眠というのはREM(rapid eye movement)と言い、寝ていながら筋肉は弛緩(脱力症状)していますが、眼球が動いている状態で、この時に夢をみます。また、歯ぎしりをしていたり、寝返りを打っていたり、寝言を言っていたりする時の睡眠で、逆説睡眠といって体の睡眠を指します。一方、ノンレム睡眠は脳の睡眠(徐波睡眠)と言って、筋電図は動いていますが、眼電図はプラトーとなっています。この時に成長ホルモンなどが分泌され、生体がリセットされます。成長期の子どもは寝る子は育つと申しますが、まさに成長ホルモンの分泌が高まります。
 一日のスタートとして、目覚めは重要です。朝起きるときにはレム睡眠時の浅い睡眠時に目覚まし時計などを設定して起きると快適な朝を迎えることができます。逆に、深い睡眠のノンレム睡眠時に起きたりすると、一日中頭が働かないなど、不愉快なことが多々起こります。さらに、この2つの睡眠は記憶力にも関与していると言われていますので、良い睡眠を心がけるようにしたいものです。このように、良い睡眠を取ることは脳と全身筋肉の機能が改善し、こころとからだがスッキリします。

4.体質を知る(遺伝子・環境因子相互干渉作用)
 米国などの他の先進国に比べて日本は島国として、また長い間鎖国を通して比較的単一民族にて長年種族を保存してきました。すなわち、日本国民は比較的純粋培養され、遺伝子による影響はその血筋(家族・親戚)に左右されることが推測されます。
 自分の家族親戚(血筋)の中に癌や高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満などがあれば、その体質を受け継いでいると考え、「生活習慣を考える」または「見直す」必要があります。もしも、大腸癌が家族にみられれば、大腸癌の体質を受け継いでいると考え、食物繊維や抗酸化食品の積極的な摂取やストレスに対する対処によって病気を予防できます。また肺癌の血筋であれば喫煙を止め、また副流煙(受動喫煙)や大気汚染からからだを守り、抗酸化食品を積極的に摂取するなどして病気を予防することが可能です。これを遺伝子―環境因子相互干渉作用と呼んでいますが、遺伝子の働きには生後の環境因子が最も大切であることを意味しています。
 一方で、近年生殖工学が進展し、匿名の第三者の卵子からの体外受精などによって誕生した人については遺伝的な背景に対する情報が少なく、体質について考えることは困難です。今後さらに増加する傾向にありますが、この場合には自身の「からだからのサイン」を修得し、自分なりの健康法を身に付けると、よい結果につながるでしょう。

5.危険因子からの予防(自己防御:遺伝的素因、食生活、アレルギ-、タバコなど)
 「体質を知る」ことと共通しますが、ここでは体質とは異なって、人間として、日常生活の上で必要な対処について延べます。例えば夏の猛暑の中を活動したりすると熱中症のリスクが高まりますが、そのようなときに水分、塩分の補給を怠らず、また帽子などを被ることによって熱中症からの予防できます。同じように紫外線等の環境因子だけでなく、食べ物などの生活因子等、経済・産業・文明の発展に伴って、健康を脅かす多くのリスク因子が満ち溢れていますが、これらのリスク因子からの予防、すなわち自己防御が現代社会に住む私たちにとって大変重要です。

6.からだからのサインを習得する(早期診断:感染症、遺伝病、癌、生活習慣病の予防)
 妊娠可能な女性は排卵後、基礎体温が上昇します。これと同じように、体内に異物が侵入したり、異物が発生したりすると熱が出ます。これらはすべて、からだからのサインを意味していますので、これを早く自覚することによって、その場への対応が可能になります。特に後者の場合に、熱が出たからと言って無理をすると、本来すぐ治るべきものが病気となって長い間寝込むことになります。からだは異常を起こすとすぐに何らかのサインを体に伝えます。そのサインを修得し、早目に対処することによって、自然治癒力が増して、感染症、遺伝病、癌、生活習慣病、ストレス病等の予防につながります。

7.環境の向上を図る(生活・社会環境の改善、ストレス解消、スローライフなど)
 こころとからだの健康は自らが考え保持し、常に最適な状態を維持しなければなりません。すなわち、自分の体は自分で守ることが、今求められています。例えば、アレルギー体質であれば、体質を改善すべく、生活環境・習慣を見直し、自分に合った環境の向上を図ることによって、多くのことが改善されます。そのような努力が日々必要であるという意味です。環境の改善によって、また新たな問題が出てきた場合は、あきらめないで再度検討することが重要で、自分自身が納得するまで、前向きに健康を意識して生活・社会環境の改善に取組むことが大切です。人間環境についても同じで、十分にコミュニケーションを取り、環境の向上を図ることによってストレス解消が果たされます。

8.自然との対話(自然環境との融合、マイナスイオン、アロマテラピー、音楽など)
 日本は木造建築の中に3世代が住むのが通常でしたが、戦後のコンクリート住まいの中に少数住む共稼ぎ夫婦といった核家族や一人住まいが進展し、家族のコミュニケーションも少なくなりました。このような無機的な住まいの中に観葉植物や木製の家具、またはペットとして小鳥や金魚などの生物をコンクリート部屋の中に同居することによって、私たちと同じ遺伝子を共有することができます。そのことは、自然環境との融合を意味し、遺伝子同士の不可思議なコミュニケーションが起こり、気分が楽になったり、ストレスが解消されたりすることがあります。私たち自然界に住むすべての生物はすべて共通の遺伝子を持ってそれぞれの種族が保存されています。したがって、本来自然の中で済むことが一番の快適環境ですが、産業の発展と同時に私たちの身の回りにはプラスチックやコンクリートなどの無生物が生活環境に満ちあふれております。そのような中にあって、ちょっとした自然環境の融合がストレス解消に大きく役立つことがあります。

9.生きがいを見出す、夢を持つ(趣味、家庭、仕事等将来設計、希望、明日に向かって)
 人生50年の時代から80年の時代に突入している。女性でいえば、更年期以降30年以上の平均寿命を要している。少子化、核家族化の今日、幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期、中年期、高齢期といった、それぞれのライフステイジにおいて、生きがいや夢を持つことが大切な時代に突入しています。生きがいや夢を持つことによって当面の目標が設定され、明日への希望が出てきます。とくに男性の定年退職後の生き方においては、ボランテア活動などをすることによって、いつも教育(今日行くところがある)と教養(今日用事がある)を心がけ、人のために自分が必要であると思うことと毎日目的を持つことが一番の生きがいとなることでしょう。

10.自信を持つ、前向きである(免疫、こころの機能維持)
 生きがいを見出す、夢を持つとも共通していますが、ここでは、とにかくも一歩前に進むことが大切であることを言っています。前に進めば、必ず結果がついてくる。結果が出れば、自信につながり、次の行動への対応が可能となります。それを繰り返していると、生体の機能は前向となり、自然治癒力も向上し、ストレスもよい方向に働き、免疫力も向上し、こころの機能維持につながります。成功体験がないからと言って、自信を喪失しないで、身近なことから一歩一歩前に踏み出していく力が必要です。そうすれば、いつの日か、自信へとつながり、必ず、成功体験を獲得し、大きく前進する力となります。

11.概日リズムを守る(約1日のリズム、バイオリズム、睡眠リズムなど)
 地球における生命の誕生以来、生命は太陽のリズムに従ったいのちのリズムが獲得されてきました。すなわち、地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがあります。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(Circadian rhythm, 概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっています。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切です。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、何らかの病気となってあらわれてきます。

12.感謝の気持ちを持つ(健康への感謝とこころへの感謝)
 いのちに対する感謝、家族への感謝、仕事に対する感謝、人間関係に関する感謝など人間としての基本を考えることです。この世の中は自分を取り巻く環境が日々変化しています。そんな中で、言葉の使い方が最も大切です。こころは言葉の影響を最も受け易いため、日常的に前向きな、きれいな言葉を使うよう心掛けるようにすれば、一日が大変充実して、楽しくなります。
(近藤雅雄:平成27年8月12日掲載)

有害元素5.鉛(Pb)

 鉛の使用量は1991年で42万トンと言われているが、その大部分は蓄電池製造用に、残りは無機薬品、はんだ、鉛管、鉛板などに利用されている。わが国の産業現場では作業環境の改善と鉛予防規則による健康診断の実施が行われているが、零細な職場での慢性鉛中毒やときには漢方からの鉛中毒が散発しているので、以下のことを認識し、中毒症状が出現した場合は適切な処置をとることが必要である。
 鉛は粉じんまたはヒュームの形で存在することが多く、気道が主たる進入経路で、その40~50%が肺に取り込まれ、体内に残留すると考えられている。血流中の鉛の大部分が赤血球とともに存在し、全身の臓器や組織に運ばれる。特に、骨への蓄積の割合が大きく約90%を占めるが、大部分は不活性の形で沈着する。骨への平均滞留時間は27年と長い。
 吸入された鉛の一部には、経口摂取され消化管に入るものもあるが、消化管からの鉛の吸収は5~10%で、ほとんどは腸管を素通りして糞便とともに排泄される。その他、不感蒸泄、汗、落屑皮膚、脱落毛、爪などへも排泄される。

1.中毒の発症機序
 生体内ヘム合成・代謝系の酵素、とくに5-アミノレブリン酸脱水酵素と鉄導入酵素を強く阻害するため、ポルフィリンの代謝異常を中心とした様々な中毒症状が出現する。

2.中毒症状
 鉛中毒の主要症状は、貧血、腹部症状、神経症状の三つである。 腹部症状としては便秘、下痢、食欲不振、腹部膨満感、悪心、嘔吐、腹部の鈍痛、圧痛と多様な症状を引き起こす。特に鉛疝痛といい、小腸の痙攣性収縮に伴う発作性の激しい腹痛をおこす。神経症状としてはしびれ、筋力低下、筋萎縮などの末梢神経障害、頭痛、めまい、見当識障害、錯乱、意識障害などの中枢神経障害(鉛脳症)を起こす。その他、鉛顔貌(顔面が蒼白、貧血)、歯肉の鉛縁(歯肉への硫化鉛(PbS)の沈着)、垂れ手(下垂手)など、症状は多彩である。

コラム
○下垂手(垂れ手)

 鉛中毒の特徴的症状であり、指、手関節の伸展ができなくなり、両腕が垂れた状態となる(いわゆる幽霊の手)。垂れ足も起こる。すなわち、日本の幽霊は鉛中毒であり、肌が白いことが美人として呼ばれた時代に化粧として鉛白を利用していたことが原因であろうと思われる。現代は勿論、鉛白は使用されていない。(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素4.ヒ素(As)

 ヒ素は金属精錬、合金添加元素、特殊ガラス、農薬、顔料、半導体などに使われており、これらの製造に関与している人の場合、年に2回の健康診断が義務付けられている。ヒ素による毒性は、化学形に依存しており、一般に無機ヒ素は毒性が強く、有機ヒ素は毒性が弱い。海産物中のヒ素の多くは有機ヒ素化合物であり、人が摂取しても速やかに尿中に排泄される。また、無機ヒ素が微量に取り込まれたとしても、肝臓中でメチル化され尿中に排泄される。
 日本人が常食しているひじきには発がんのリスクが指摘されている無機ヒ素を多く含有している(22.7mg/kg)。そこで、英国食品規格庁(Food Standards Agency, FSA)は2004.7.28に英国民に対してひじきを食べないように勧告し、厚生労働省でも食品安全委員会、農林水産省など関係省庁と連携し、国際的な状況など調査を開始しようとしている(2004年)。

1.中毒の発症機序
 3価または5価のヒ素が、体内でシステインのチオール基(SH基)などに結合することにより、これを含む酵素やタンパク質の機能(とくにATP合成酵素と、呼吸鎖系酵素)を阻害するためと考えられている。

2.中毒症状
 急性中毒症状として、嘔吐、血性下痢、激しい腹痛などの胃腸障害(コレラ様下痢)、頻脈、血圧および体温低下などの基礎代謝の低下、痙攣、呼吸麻痺などの麻痺型の症状、腎不全、黄疸、末梢神経炎などが起こる。
 慢性中毒症状では全身の倦怠感、爪、毛髪の萎縮、欠損、皮膚の角化および色素異常(黒皮症)、鼻中隔穿孔、気管支炎、多発性神経炎(脚気)、発熱なども起こる。

コラム<中毒例>
○森永ヒ素ミルク事件

 1955年の夏に岡山、広島県を中心に起きた食品汚染による中毒事件。被災児は12,131名にのぼり、発熱、嘔吐、皮膚の色素沈着、黄疸などに苦しみ、130名が死亡した。生き残った者も、身長が同年齢平均より明らかに低く、脳波の異常所見や難聴の出現率が高いなどの重大な影響が残った。粉ミルクの安定剤に使用していた第二リン酸ソーダに、3~9%混入していた亜ヒ酸ソーダ(NaAsO2)が原因である。(2015年8月11日掲載:近藤雅雄)

有害元素3.水銀(Hg)

 水銀は無機、有機の形で広く利用されている。無機水銀としては各種の電極、計器、医・農薬、歯科用アマルガム、水銀灯などの製造、有機水銀としては種子の消毒薬、防黴剤、医薬品などの製造、殺菌剤などの製造に従事しているヒトは年に2回の健康診断が義務付けられている。
 水銀の代謝は、無機水銀は一般に腎臓に最も多く蓄積し、腎障害を引き起こす。次に肝臓に蓄積するが、脳にはあまり蓄積せず、中枢神経障害例はほとんどない。呼吸による吸収率は、75~80%に対し、経口による腸管吸収は5%以下と低い。全身の生物学的半減期は29~60日で、腎の生物学的半減期は、全身のそれよりも長い。一般に腎に集中する傾向があるが、低濃度投与では、水銀は胆汁および糞便中に排泄され、投与量の増加とともに尿中への排泄率が高くなる。
 有機水銀であるメチル水銀は、95%が腸管に吸収される。体内蓄積はほぼ全身に一様であるが、脳、肝臓、腎臓にやや多く、脳では低レベルでの蓄積障害がみられる。逆に、摂取されたメチル水銀の半量が体外に排泄されるのに約70日もかかり、毎日摂取し続ければ、摂取と排泄が等しくなるまで体内蓄積は増加する。

1.中毒の発症機序
 無機的水銀の毒性はタンパク質のSH基と結合し、細胞機能としての解糖系、酸化還元系、また神経伝達系などの酵素機能障害が原因とされるが、メチル水銀の作用機序は必ずしも明らかになっていない。
 ヒトが食物とともにメチル水銀を摂取すると、胃液の作用で塩化メチル水銀(CH3HgCl)となり、これから塩素の電気陰性度が高いためにCH3Hg+が生じ、これがタンパク質や酵素に含まれるSH基に強く働き、H+の代わりにS-に強く結合するため、タンパク質や酵素の機能が阻害される、と考えられている。

2.中毒症状
 無機水銀によるものと、有機水銀によるものとに大別される。両者の間には症状、病理所見、中毒の原因となっている毒物の体内分布(臓器親和性)、生体内滞在時間などに違いが見られる。
1)無機水銀中毒
○急性中毒

 口内炎、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢)、流ぜん(よだれをたらすこと)、腎臓の細尿管壊死が起こる。腎障害(無尿、尿毒症)でしばしば死に至る。水銀蒸気を吸入した場合、呼吸器が冒され、肺炎などを起こす。

○慢性中毒
 主として神経症状があらわれる。流ぜん、唇や歯茎の青い変色、歯の抜け落ち、頭痛、めまい、記憶障害、不眠、極度の内向性、情緒不安定(いらだち、不機嫌、怒りやすい)、神経過敏などの精神症状、振せん(手指の震え。順次、まぶた、唇、舌、頭、手足などに及ぶ)言語障害、歩行障害、運動失調などが起こる。ただし、アルキル水銀中毒のような強い運動失調や視野狭窄(メガホンで物を見るような)は起こらないとされている。

2)有機水銀(メチル水銀)中毒症状
 低レベルでの蓄積障害は、脳にのみあらわれる。脳の細胞膜が溶解し、大脳下部から細胞が破壊(軽石、空洞化)するので、回復不可能の中毒障害となる。
 症状は四肢・全身のしびれ、視力障害、難聴、自律神経・神経障害、運動失調、知覚障害、視野狭窄、言語障害が起こる。重度になると精神障害にまで及ぶ。催奇形性、遺伝的毒性があり、胎児期に大量暴露を受けると脳性麻痺、痙攣、盲目が起こる。これらの症状は、短期暴露者では、一時回復するが、長期暴露では不可逆的である。

コラム<中毒例>
○水俣病

 1953年~1960年に水俣湾沿岸の漁業家族に見られ、百数十人もの患者と、その内3分の1強の死者を出した。また、先天性水俣病22名を出した。これは無機水銀の有機化によるメチル水銀を生物濃縮して多量に含んだ魚介類を食べたために起きたものである。同様の事件が、1965年、新潟県阿賀野川沿岸でみられ、新潟水俣病(第二水俣病)と呼ばれている。

○イラクの種麦水銀中毒事件
 1971年秋から1972年にかけて、イラクで集団発生したメチル水銀中毒。6530人が病院に収容され、そのうち459人が死亡したといわれている。これは、多数の農民がメチル水銀で消毒した種小麦を自家製のパンにして食べたことが原因であり、臨床症状の細部においては水俣病像のそれと必ずしも一致しない。日本では、この中毒事件の2年後、1974年から種子の消毒に水銀剤が一切使われなくなった。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素2.カドミウム(Cd)

 精錬、加工、電池製造、顔料、はんだ、銀蝋、合成樹脂の安定剤などの作業に従事する場合は年に2回の健康診断が義務付けられている。カドミウムの主たる暴露経路は吸入と経口摂取で、亜鉛と同様に小腸から約6%吸収される。しかし、カルシウムやタンパク質、鉄が欠乏していると、10~20%程度にまで上昇する。
 カドミウムの代謝の特徴は、体内蓄積性が高いことである。カドミウムの生物学的半減期は8~30年と長く。体内のカドミウムのうち、その約3分の1は腎臓に、また6分の1が肝臓に蓄積する。腎臓に蓄積したカドミウムは腎臓の細胞を破壊するため、腎障害を起こす。

1.中毒の発症機序
 カドミウムは亜鉛と化学的性質が類似し、そのため、生体中の多くの亜鉛含有酵素の亜鉛とカドミウムが置換し、酵素の阻害を起こす。また、細胞中のタンパク質のイオウと非特異的に結合するため、生体内のイオウ(含流アミノ酸)を含む多くの酸化還元酵素の活性を阻害する。

2.中毒症状
 カドミウムは呼吸器を強く刺激するとともに、腎障害を引き起こす。多量経口摂取時には、催吐性がある。

1)急性中毒
 カドミウムのフュームに暴露すると、咽喉頭、気管の刺激症状、胸痛、頭痛、咳、呼吸困難(間質性肺浮腫)が、経口摂取により胃腸症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢)が生じる。また、悪寒、脱力感なども起こる。時には重症な肺炎を引き起こし、死亡する例もある。

2)慢性中毒
 中毒症状として、肺気腫、腎障害(尿細管不全)、たんぱく尿を3大徴候とする。呼吸器、消化器に関連した自覚症状を訴え、門歯、犬歯の歯茎の縁を取り巻く黄色環を認めることがある。
 呼吸器の症状としては鼻粘膜の潰瘍、無嗅覚症、肺気腫症状がみられる。
 腎症状は、尿細管機能障害によって低分子量のたんぱく尿、腎性糖尿、尿中アミノ酸の増加、尿濃縮力の低下、高カルシウムおよび燐尿、尿酸性化障害、高塩素血症、アシドーシス、低燐血症が認められる。その他、低血色素性貧血、肝機能障害、骨塩代謝異常など。
 疫学的研究によって、カドミウム作業者に肺と前立腺のがんの増加が認められている。ある動物実験では、肺がんと吸入によるカドミウム暴露との間にはっきりした量-反応関係が認められている。また、非常に高濃度に暴露された動物に催奇形性の影響が報告されている。

コラム<中毒例>
○イタイイタイ病
 
 富山県の神通川流域で、足腰に限られていた痛みがやがて全身に広がり、咳をしただけでも骨折するほど骨がもろくなり、骨の萎縮のために身長が20cm以上も低くなる、といった症状を呈する病気が発生した。
 この病気は1955年(昭和30年)にイタイイタイ病と名付けられ、1961年には、神通川上流の工場廃液、神通川流域水田土壌、農作物、河川魚類、イタイイタイ病患者の臓器や骨中に、カドミウム、鉛、亜鉛が高濃度に含まれていることが明らかになった。
 カドミウムの慢性中毒のもっとも顕著な症状は腎障害で骨軟化症は含まれていないが、イタイイタイ病ではカドミウム中毒による腎障害の結果、カルシウム・リン代謝異常が起こり、その結果、骨軟化症が引き起こされたと考えられている。

<カドミウムと亜鉛との関係>
 カドミウムは自然界において、亜鉛鉱とともに産出されるなど、亜鉛とともに行動することが多い。これは、両物質の化学的性質が類似していることに起因する。しかし、主体においては亜鉛とカドミウムは拮抗作用(薬物等を併用した場合、互いに薬効を減らす作用)を持ち、亜鉛をあらかじめ投与しておくとカドミウム毒性は軽減される。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素1.ベリリウム(Be)

 ベリリウムは工業用酸化ベリリウム(BeO)の製造、合金の製造に用いられ、これら作業に従事している場合は年に2回の健康診断が義務づけられている。
 ベリリウムの粉塵、フューム等は、肺から吸収されるものがほとんどで、消化器からの吸収率は低い。肺内から侵入したベリリウムの大部分は、血液中を移動し、骨や軟部組織に蓄積する。また、肺組織内、特に肺リンパ節内にも長期間残留する。体内に侵入したベリリウムの殆どは糞中へ排泄される。

1.中毒の発症機序
 生体内の重要な酵素類、特にアルカリ・ホスファターゼの阻害により、リン酸塩の代謝に影響を与える。また、核酸代謝系の酵素障害によって細胞増殖と複製を阻害する。

2.中毒症状
 ベリリウム症、ベリリウム病などと呼ばれる肺症状を伴う全身性の肉芽種性疾患を発症する場合があるが、ベリリウムに対する感受性には、個人差が大きい。

1)急性ベリリウム症
 急性中毒としては接触性皮膚炎および皮膚潰瘍、眼結膜炎、咽頭炎、気管支炎、肺炎などの障害が起こる。呼吸器障害(咳、痰)、労作時の疲れ、胸部痛と、食欲不振、全身倦怠感。症状が軽い場合には、風邪症状が出現する。また、可溶性ベリリウム化合物が皮膚に付着すると、接触性皮膚炎が、不溶性ベリリウム化合物が創傷面に付着すると、潰瘍や皮下肉芽腫が発症する。

2)慢性ベリリウム症
 慢性中毒としては肺肉芽腫性変化による慢性ベリリウム肺、皮下肉芽腫が起こる。呼吸器障害が主で、徐呼吸、慢性的な咳、発熱、血痰、胸と関節の痛み、心拍数の上昇、食欲減退、体重減少、疲労感、全身倦怠、全身衰弱などの症状が出現する。末期にはチアノーゼや心不全を伴う。
 心機能不全を伴う右心房の拡張、肝腫、脾腫、湾曲指肝機能障害、腎臓結石、骨硬化症、肉芽腫を伴う慢性肺炎、肺がんも認められている。(ただし、ベリリウムによる肺がんの誘発は動物腫に対して特異性が高く、ウサギ、ハムスター、モルモットなどの実験動物では、腫瘍は認められていない)
 胸部X線写真像上にベリリウム肺として知られる特異な変化が出現する。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素とは(環境医学)

 必須性が確認されてないが、微量で急性あるいは慢性中毒を起こすミネラルとしてベリリウム(Be)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ヒ素(As)、鉛(Pb)が広く知られている。このうち、水銀による水俣病、カドミウムによるイタイイタイ病、ヒ素によると宮崎土呂久事件はわが国の産業衛生の歴史上重大な公害病として語り継がれていかなければならない。
 また、これら金属に関連した職業に従事しているヒト、または従事していなくてもこれら金属は私たちの生活環境中に身近に沢山存在しており、これら金属中毒を起こす可能性はいつでも存在しているので、日頃からこれら有害元素についての基礎知識についても学習しておく必要がある。
 たとえば、和歌山カレー中毒事件や茨城の飲用水によるヒ素中毒事件など、また、他の金属による身近な装飾品からの接触皮膚炎、さらに必須元素であっても、サプレメントとしてセレン、クロム、亜鉛などなど過剰摂取することによって発症する中毒症例が多く報告されている。

 ミネラルの場合は他の栄養素と異なって、微量でも中毒を起こすことを念頭に、サプレメントとして摂取する場合は、成分を調べた上で(ほとんど記載されていないが)サプレメント含有当該元素による副作用(過剰症、あるいは中毒症状)を十分に考慮し、もしも症状が出現した場合には直ちに必要な処置を取ることが重要である。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

食生活と栄養と食育

戦後70年における「住」「食」環境の変化がもたらしたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次代をになう乳幼児・子どもの生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子どもの発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子どもたちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子どもの知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。
 さらに、最近の子どもおよび若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
 一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子どもたちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子どもは成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、食と栄養の専門家である服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開し、2007年食育基本法の制定に貢献した。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子どもであれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 例えば、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期にはリズムがあり、生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「食生活」の見直し、教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。
(近藤雅雄:平成27年8月1日掲載)

日本の食文化の変遷と食育~日本型食生活による健康寿命の延伸

はじめに
 連綿と引き継がれてきた日本の伝統的な食文化が戦後の約70年間で劇的に欧米化、依存化されるようになった。この結果は中高年齢者の免疫能の低下、がん、生活習慣病の発症および次世代をになう子どもたちの学習・記憶・体力の低下、対人技術の発達障害や摂食障害などといった心身への影響だけでなく、食糧自給率の低下、食品に関する偽装問題、薬物混入などといった食の安全・安心の問題まで発展し、国民として、日本国家として新たな様々な問題が出現してきているのが現状である。
 ここでは、科学的根拠を基に日本人としての食生活および食育のあり方について考える。

1.食文化の変遷と食育の必要性
 現在の日本の食生活は、経済成長と共にこれまでの日本型から欧米など世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択し、食べたいときに好きなものが食べられる豊かな自由型(洋風型)へと変わった。その反面、核家族化の定着と共に食糧自給率の低下、「こ食」(孤食、小食、固食、粉食、個食、濃食、戸食など)が習慣化し、さまざまな問題を生じさせている。これは、とくに次代をになう子どもたちの学習・記憶・体力の低下、免疫能の低下、対人技術の発達障害などと言った心身の問題を含み、また、将来、これまでに日本文化を通して獲得されてきた日本人体質に変化が生じ、生活習慣病や摂食障害などを誘発し、さらに、これが遺伝的体質として次世代へも引継がれかねない。
 現代人は、好きなものを好きなときに、あるいは今あるものを寄せて食べ、食あるいは栄養に関する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。そこで、これら諸問題の改善の方向性を探ると、最も根本的で緊急を要する課題が乳幼児期からの「食」のあり方である。食を通してからだと心の成長・健康が図られ、貧しい食事であっても団欒のある楽しい食生活や四季の旬のおいしい物を食べた時の自然と笑みがこぼれる幸福感・心のゆとりが得られ、そこからさまざまな知恵が伝承される。すなわち、「食育」は「職育」であり、各々のlife stageにおいて知力、体力、抵抗力、作業能率、正しい判断力、感性を育むための生涯に亘っての重要な営みであり、「いまこそ食育」が必要である。
 一方、政府は国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育む事ができるよう、食育を総合的かつ計画的に推進することを目的として、平成17年7月15日に食育基本法を施行し、国民運動として、家庭における食育、学校における食育、地域における食生活の改善のための取組および食育推進運動を展開している。

2.日本型食生活の解析と健康寿命の延伸
 日本人の免疫能はこの数十年間で低下してきている。免疫の中心である胸腺は酸化ストレスや加齢によって萎縮し、免疫能が低下する。これが、近年の生活習慣病、がんや自己免疫性疾患、感染症などといった様々な疾病を発症する原因の一つとして広く指摘されている。その主たるものの原因が前述した戦後の食生活の劇的な変化が挙げられる。すなわち、私たちの住む地球には時間的リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。一日のリズム(概日リズム)には睡眠のリズム、自律神経のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズム、摂食(食生活)のリズムなどがあり、日本人が長い歴史を通して獲得してきたさまざまな体内リズムの中心となっているのが「食」であり、生体の機能維持にとって最も重要な働きとなっている。近年、この「食」を中心とした生活習慣(リズム)の変化が生体のリズムを変化させ、肥満をはじめとした各種生活習慣病が起こることが分かってきた。したがって、これらの疾病は「食源病」といっても過言ではない。
 そこで、われわれは、国民栄養調査結果から日本人食生活の実態を解析した結果、免疫能に重要な影響を及ぼすタンパクの摂取量は男・女共に、成人後大きな変化が認められなかったが、タンパク質をどの様な食品から摂取しているかを年齢別にみると、40歳代以降から肉類と魚類の摂取量が逆転するという特徴的な食事摂取パターンを見出した。また、このパターンの変化が起こることで、高齢者のタンパク質摂取が保持できていることがアメリカ人の食生活パターンと比べることによって明らかになった。これは日本人がアメリカ人よりも高い平均寿命を有していることの一つの原因と思われる。
 しかし、免疫能および抗酸化能に影響を及ぼす微量元素量は加齢に伴って血中濃度が減少する傾向を見出し、これら元素の変動が不定愁訴などの各種自覚症状や血圧などの循環機能と関係していることがわかった。したがって、高齢者では抗酸化・免疫能を高める微量元素やビタミン、フラボノイドなどを多く含む豆類、野菜、果物、魚介類などを積極的に摂取することによって、ますます健康寿命の延伸が可能であると思われる。
 一方、現代の子どもが将来高齢者となった場合に、現在の高齢者と同じような食事の摂取パターンを取るかについては疑問である。すなわち、味覚や嗜好は乳幼児期に形成されるためである。そこで、とくに、安全な食物を選別できる能力、食物の大切さを知る能力等を小児期に育てることが重要である。

3.免疫能を高める食材の選別
 酸化ストレスからの防御を目的として、食品中に含まれるミネラルやビタミン、フラボノイド等の抗酸化成分を胸腺(免疫)細胞に投与し、活性酸素の消去能について検討したところ、細胞の内外での抗酸化能力が異なっていることを見出した。このことは、抗酸化成分の効果的な摂取法として、細胞内外にて作用を発揮する成分を摂取することの方が、細胞を酸化ストレスから防御するにはより有効であることを示す。事実、細胞内外にて抗酸化能を発揮するフラボノイド(ルテオリン)を多く含む野菜(ピーマン)を高齢者に摂取させると、摂取前と比較して抗酸化能及び免疫能は有意に上昇することが分かった。
 以上の結果から、日本人の高齢者はタンパク質においては十分に摂取できていることから、これらの食生活に加えて、銅、亜鉛、セレン等の抗酸化酵素関連微量元素や細胞の内外にて抗酸化能力を発現しうる抗酸化成分を多く含む食品群(主に豆類、野菜、果物、魚介類)を十分に摂取することによって抗酸化能力を高め、免疫能を保持し、QOLを高める。このことは若年者においてもまったく同じことが言え、免疫能の健全化のためにも「健全な日本型食生活」が重要であることを示唆している。

おわりに
 この60年間で日本社会のあり様が著しく変貌し、今後もさらに急速に変化していくものと思われる。このような時世において、健康な生命を維持する上で最も重要なものが「食のあり方」である、正しい「食生活」を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。また、「食」に対する知識を得ることによってからだと心を大切にし、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕するといった素直な心を持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見る心を持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力と心を持つようになる。これが、次の世代に引継がれる。
 「食」は国家の基盤、文化や教育の根幹である。これらの根本である「食育基本法」が誕生してからすでに10年を経たが、未だに家庭、地域、学校、行政、企業、等々の連携による社会全体での活力ある国民総運動が期待されている。
(近藤雅雄、日本の食文化と食育~日本型食生活と健康寿命の延伸、平成27年7月21日掲載)

健康食品の話題

1.薬と食品の相互作用およびサプリメントの副作用

 医薬品の多さと同じように食品も多種多様なものが氾濫している今日、薬同士の相互作用、薬と食品との相互作用、および食品同士の相互作用のチェックも重要な課題となってきた。例えば、次のようなことが広く知られている。
①民間薬の強壮剤として使用されてきた高麗人参は心臓に作用して血圧を上昇させるので、血圧が高く降圧剤を服用している人は避けた方がよい。
②抗凝血療法(血栓防止)にワルファリン(脳血栓を起しやすい人や心臓の手術をした人が主に服用する薬)を使用している人が納豆およびクロレラ食品を摂取するとワルファリンの効果が減弱する。これは、ワルファリンがビタミンKの作用に拮抗するため肝臓でビタミンKによってプロトロンビンなどの血液の凝固因子の生産が促進し血栓形成を促進するためである。このほか、ほうれん草、ブロッコリー、ワカメをはじめとする海藻類などには比較的ビタミンKが多いので大量の摂取は避けた方がよい。
 このほかにも薬品と食品成分との相互関係を示すものは多数知られているので、薬を服用している人はサプリメントを利用する場合には必ず医師に相談することが望ましい。
 一般に、サプリメントを利用する場合は、自分の健康状態をチェックし、健康診断で異常があるか無いかを調べ、はっきりとした異常があれば病院でそれに対する治療を行い、異常が無い場合は日常の食生活や運動などの生活習慣を見直し、食生活の中でなかなかとれない栄養素(サプリメントとして)を摂るように心がけるのが望ましい。しかし、サプリメント自体にも過剰摂取や粗悪品を飲用して副作用が生じた報告もかなり多い。

2.米国のサプリメント

 サプリメント(栄養補助食品)の法制度化を最初に手がけたのは米国であり、従来、米国では食品、医薬品、化粧品を取り扱う基本的な法律は「連邦食品、医薬品、化粧品法(USFDCA)であったが、米国議会はこの法律の一部を改正してサプリメントを食品の1カテゴリーとして扱う「栄養補助食品健康教育法(Dietary Supplement Health and Education Act; DSHEA)単にサプリメント法とも呼ばれる)」が1994年10月クリントン大統領時代に成立してからアメリカ人の日常生活に浸透し、需要と供給が増加している。
 この制度によってサプリメントを「食事を補充する目的で製造されたもの」と定義付け、サプリメントの構造、機能表示を認めた。この法律によって、ビタミンやミネラル、ハーブ、植物性栄養物、代謝産物、代謝に必要な成分、組成物、抽出物、濃縮物およびそれらの混合物などまでがサプリメントに組み入れられた。したがって、これまでに医薬品扱いであった副腎皮質ホルモンであるデヒドロエピアンドロステロン、松果体ホルモンであるメラトニン、ハーブ類などもサプリメントとして扱われるようになった。これらサプリメントの販売は医薬品扱いをしない、あくまでも食品であるとしている。
 これらDSHEAは有効性と安全性に関する科学的な指針や、第三者による実証試験の機能評価が無くても表示できるが、替わりにボトルのラベルにはこの効能を米国食品医薬品局(FDA)は認知していないという表示がされる。そこで、ここ数年、米国ではサプリメントの服用者から死亡事例が出たことから(因果関係が不明な例がある)、2003年9月から暫定的ながら条件付ヘルスクレーム表示制度を導入し、信頼度をA~Dの4つのランクに分け、科学的な根拠の強さによって判断できるようにし、このランクの違いの意味を説明するための文章を表示に加えることが条件とされている。
表 ヘルスクレーム(健康への効果効能表示)の信頼度
A High 良好な機能がある
B Moderate 良好な根拠があるが、限定的で結論できない
C Low 示唆的な根拠はあるが、限定的で結論付けられない
D Extremely Low 限られた初歩的な根拠しかなく、協調表示を支持する科学的根拠は殆ど無い
 ここで、商品のイメージからも表のDに示した表示を付けるサプリメントはなく、これまでのDSHEA法に基づいて販売されている多くの商品はDより下に位置づけられる。また、これらの表示が信頼できるという判断基準が明確にされていない。交通やインターネットが便利になった今日、各国で販売している機能性食品を手軽に入手する機会が多くなっていることから、サピリメントに対する有効性や安全性などに関する国際的な総合的議論が期待される。

3.サプリメントを購入するときの注意点

 サプリメントを購入する際には以下の点について気を付けたい。
①ラベルに原材料、内容成分がわかりやすく表示されていること。
②中蓋シールでしっかり密閉され、開封した後が無いこと。
③アレルギーの人はアレルギーに該当する成分をチェックすること。。
④自分の体質に合ったものを選択する。
⑤信頼できるメーカーの製品を選ぶ。例えば、メーカーに直接問合せた時に、きちんと対応してくれるかどうか。
⑥出来ればインターネットなどで、サプリメントの副作用事例などについてチェックする。
(近藤雅雄:健康食品の話題、2015年7月10日掲載)

こころとからだの健康管理(1)正しい栄養素の摂取と言葉

~正しい栄養素の摂取と言葉~

1.健康とストレス

 半世紀以上も前にWHOが「健康とは身体的にも精神的にも社会的にも完全に健康な状態をいう」と定義し、「社会的健康」の重要性を示しました。この社会的健康とは、最近よく耳にする「人間力」で言えば、「共助」の精神に当たります。8つの知性(言語、音楽、空間、絵画、論理数学、身体運動、感情、社会)では「社会的知性」に当たります。また、自我(自己意識、自己制御)における「自己制御」に当たります。
 しかし、社会的健康、すなわち徳育(道徳心)については、現代の少子・核家族社会・個人情報保護法などによって家族制度や地域社会が急速に変化し、人間の人格形成にかかわる若い時代に学習(躾)されないまま大人になっていくようです。また、家庭や地域社会の中での人間関係が希薄化すると共に、長期間にわたる激しい経済情勢の中で、企業における雇用管理も大きく変化して来ています。これらの結果が、現代人に様々なストレスとなって心身に影響を与えていると思われます。事実、心身の健康について不安を持っている成人が3人に一人いるとも言われています。現代社会では「自己管理」と「社会的知性」がいかに重要であるかがわかります。

2.こころとからだの栄養素

 「自己管理」については、心身の健康管理を怠ると摂食障害などを起こし易くなり、これが病気の原因作り、その病気をさらに増悪させる要因となります。したがって、栄養学的な知識を持つことが重要です。健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を目指して、栄養に関する多様な研究が行われていますが、栄養素の過不足が心身の健康に大きく影響を与えることは明白です。
 例えば、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸や葉酸、B12、Cなどのビタミン、銅、鉄などのミネラルの不足は、慢性疲労、頭痛、集中できない、イライラする、学習・精神障害など様々な病気の素因と関係してきますので、このような成分の生理作用およびこれら栄養成分がどのような食品に含まれているのかを知ることが大切です。

~知識の消化吸収は人生最大の栄養素となる!~

 最近、特に若い人の免疫力・体力が低下し、これが心身の病気と関係していると言われます。その原因の多くがストレスに対する適応力の低下(コミュニケーション能力の低下など)と栄養学に対する無関心にあると思われます。生命現象はすなわち栄養現象ですが、生理学的に最も重要なのが免疫力です。免疫力は適正な栄養現象によって獲得されます。
 しかしながら、その免疫力については、スキャモンの発達曲線からも明らかなように、11歳頃をピークとして、免疫中枢である胸腺の萎縮が始まり、その萎縮の原因が多くのストレスやエイジングによって発生する活性酸素によることが最近の研究によって明らかになってきておりますので、如何に体内に多くの活性酸素を発生させないか、また活性酸素を除去させる方法が注目されています。
 その一つの方法としてポリフェノールなどの抗酸化物質や抗酸化ビタミンおよび免疫や抗酸化に関わるミネラル類(亜鉛、セレン、銅、マンガン、鉄など)を日常的に摂取することがあげられます。こころとからだの健康管理の上でも、自分自身が摂取する栄養素をしっかりと意識することによって、体力、健康力に自信を持ち、前向きになれます。
 そして、ストレスを前向きにとらえ、しっかりと自分自身に必要な良質の栄養素を摂取すれば免疫の機能も高まり、心身一如、こころもからだも元気になります。
 次に、社会的健康において最も重要な感謝するこころとからだについて述べます。

3.感謝するこころとからだ

 人間が他の哺乳動物や生物と異なっている決定的な要因は、大脳の前頭葉にあります。前頭葉は人間が400gでチンパンジーが70gです。人の脳の約30%が前頭葉です。猿は12%、犬が6%、ネコが2~3%、ネズミは0%でもわかるように、前頭葉は人間においてのみ大いに発達し、人としての思考、知性、言語、理解、理性など精神活動の中心を司る中枢です。すなわち、「こころの中枢」とも言えます。この前頭葉の働きにおいて、最も脳の活動に影響を与えるのが言葉です。良い言葉を使うと、免疫の機能(生体防御機能)、内分泌機能(成長・発達・代謝機能)、神経機能(自律神経機能、善悪の判断、理性)などの情報連絡系が活性化され、自然治癒力が高まります。言葉そのものが私たちの健康・人生を創っていくといってもよいでしょう。

~言葉は人間の原点であり、こころとからだを健康にする最大の栄養素である!~

 「はじめに言葉ありき、言葉は神と共にあり言葉は神である」と聖書にも出ています。また「言葉は天地(あめつち)を動かす」と古今和歌集に出ています。紀貫之は「力をも入れずして天地を動かし目に見えぬ鬼神をもあわれと思わせ、男と女の仲をも和らげ、猛き武士(もののふ)の心をなぐさむるは歌なり」と言っています。歌とは言葉のことです。言葉には力があります。ドイツ医学はムンドテラピー(ムンテラ)(mund(独):口、言葉の意)を重視しています。すなわち、ムンテラとは「言葉による治療」を意味します。診療や看護には必ず言葉を添えています。日本では適当に症状を説明する位のことしか理解されていませんが、本当は言葉の力による元気づけを意味しているのです。
 言葉を話すのは人間だけであり、人類の発展に大きく貢献し、書物となり永遠と続きます。言葉は、地球の平和と環境保全にも深く関わります。こころは言葉の影響を最も受けやすく、威圧的な言葉、汚い言葉、人の悪口、否定的な言葉を使うのを止め、笑顔で、プラスの言葉を口にしていけば、自分のこころも相手のこころもとても心地よい状態になるはずです。言葉には魂があります。

 一つしかないいのちであれば、人生を感謝と喜びに満ち、明るく、おおらかにプラス思考で生きて行きていくことによって健康寿命は全うできるものと思います。
(近藤雅雄:こころとからだの健康管理(1)、2015年6月5日掲載)    

生命の科学から健康の科学へ

 生体色素ポルフィリン(紫質)とヘム(血基質)は地球上の生物が生存するために必須な光合成反応や酸素の運搬などに関与する生命の根源物質です。しかし、その代謝異常症は、ある日突然に体内にポルフィリンの代謝産物が過剰蓄積し、その結果、太陽と活性酸素によって全身の機能が障害され、生命が奪われる。これまでに、筆者はこの病気の遺伝子異常および発症機序の解明、確定診断法の確立、治療法の開発などといった「生命の科学」に関する一連の研究を行ってきました。その一方で、健常者にこの代謝産物の一つを投与すると、造血促進、免疫力増強、抗酸化機能促進、運動機能促進などといった健康の回復・保持・増進が期待できることを見出しました。
 生命科学の研究は表裏一体であり、良い方向に研究が行われれば、人類、ひいては万物に貢献できますが、悪い方向に進めば、万物の破壊へとつながる危険性を含んでいます。

 本内容は、平成17年4月長生学園50周年記念に刊行された「長生学園史」掲載原稿を少し修正して記載しました。さらに読みたい方は下記のpdfからご覧ください。(近藤雅雄) 生命の科学から健康の科学へpdf  

こころとからだの健康(2)~中高年齢者の免疫強化によるアンチエイジング~

1.はじめに
 介護の必要がなく健康的に生活できる期間を「健康寿命」と言いますが、平成25年の日本人の健康寿命は男性71.19歳(同年の平均寿命は80.21歳)、女性74.21歳(同86.61歳)です。女性の方が介護期間は長くなっています。そこで、中高年齢女性の健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を図るには、適切な食生活と運動の習慣等、酸化ストレスからの予防によって目標が達成できます。

2.男女の寿命の違い
 世界中の国において男性の方が短命です。その理由は、①男性は免疫の中枢である胸腺の萎縮が早い(酸化ストレスにかかりやすい)、②基礎代謝量の違い、③染色体の違い(Y染色体は傷つくと回復しない)等が挙げられます。したがって、男性は筋肉量が多く、免疫力が弱い、偏食も多く、デリケートであり、孤独に対して弱いのに対して、女性は免疫力が強く、ストレスに強い。すなわち、男性の方が不適切な食生活や筋肉をたくさん持つことから、酸化ストレスによる免疫力の低下が著しく、その結果、短命であると言えます。

3.免疫強化とアンチエイジング
 筋肉(骨格筋、心筋、平滑筋)は24時間活動を行っていますので、それだけ酸素の需要が多い。すなわち活性酸素の生産量も多くなります。そこで、生体は活性酸素を分解する酵素SOD(スーパーオキシドデスムターゼ)、GPx(グルタチオンペルオキシダーゼ)等を進化の過程で獲得してきましたが、これにはエイジングがあり、40歳前後から酵素活性が著しく減少します。そこで、これら活性酸素を分解する酵素の代替作用のある抗酸化栄養素の摂取、適度な運動、休養が大切になります。そして、免疫にとって重要な臓器である胸腺は活性酸素によるダメージが大きいことが分かっています。12歳頃をピークとして胸腺は萎縮してきますが、その後の萎縮のスピードは活性酸素の発生量が多い男性の方が早い。したがって、免疫強化には抗酸化食品を積極的に摂取することが望ましいのです。

4.活性酸素除去方法(抗酸化は抗加齢・免疫強化につながる)
 抗酸化食品の摂取、適度な運動(手足を動かす)、疲れる前に休むことが重要です。抗酸化・免疫に関わる食品としてはビタミンA,C,E,B6、フラボノイド類、亜鉛、マンガン、銅、鉄、セレン等を多く含む食品が挙げられます。これら栄養素を含む野菜(目安量1日350g)、果物(目安量1日200g)、豆類、良質のタンパク質の摂取、特に、運動後は十分に摂取することが大切です。

5.健康食品としての5-アミノレブリン酸(ALA)
 健康食品には①表示の問題、②過剰の問題、③摂取方法の問題等があり、十分に情報を得てから摂取する必要があります。一方、最近、生体物質である5-ALAが新機能性アミノ酸として貧血予防、運動・代謝機能の亢進、抗酸化、免疫増強、美容などのヘルスケアー領域、脳腫瘍の診断・治療をはじめ多くの疾患の予防・治療などのメディカルケアー領域で、各々注目されています。この5-ALAの大量生産が可能となり、中高年齢者の皮膚の若返りや育毛効果等も期待されます。

6.運動はこころとからだのアンチエイジング
 人は動物です。動物は動く物と書きます。筋肉は第2の心臓ともいうように、適度な筋肉をつけることが大切です。運動は定期的に3メッツ以上の強度の身体運動を毎日1時間は行いたいです。運動によって、脳や筋肉が喜び(心身一如)、循環機能を高めるだけでなく、こころもすっきりし、まさにこころとからだのアンチエイジングにつながります。休養は良い睡眠をとりストレスを貯めない工夫が大切です。そして、言葉の使い方も大切です。こころは言葉の影響を最も受け易いため、日常的に前向きな、きれいな言葉を使うよう心掛けましょう。
こころとからだの健康
1.栄養(バランスの取れた食生活)
2.運動(身体を動かす)
3.休養(疲れる前に休む)
4.体質を知る(遺伝子・環境因子相互干渉作用)
5.感謝の気持ちを持つ
6.生きがいを見出す、夢を持つ
7.環境の向上を図る
8.危険因子からの予防(自己防御)
9.自然との対話(自然環境との融合)
10.からだからのサインを習得する(早期診断)
11.自信を持つ、前向きである
12.概日リズムを守る
(出展:近藤雅雄著:健康のための生命の科学、2004)
7.こころとからだの健康
 こころとからだの健康には日頃から感謝の気持ちを抱くこと、いのちの尊さを理解すること、愛情を持つこと、ストレスを貯めないで前向きであること、目標(夢、志)を持つこと、自然のリズムを大切にすることなどが重要です。これらはすべて酸化ストレスを少なくし、免疫能を増強させます(表参照)。
(近藤雅雄:女子体育4・5Vol.57-4・5,p70-71, Apr.May 2015, JAPEW)

高齢者の食生活と免疫強化

 日本人の高齢者は加齢と共に嗜好が変化し、とくに免疫能保持に重要な因子であるタンパク質摂取量は中年期を境に肉類から魚類に変化することによって年齢に関係なく一定量保持できてるという特徴を有していることを見出しました。しかし、同時に、セレンや銅など抗酸化に関与する微量元素量が加齢にしたがって減少することが確認されました。また、抗酸化成分としてルテオリンというポリフェノールを見出し、これを多く含む食品がピーマンであることがわかりました。
 そこで、高齢者にピーマンを実際に食べていただくという介入試験を行った結果、抗酸化機能及び免疫機能などが強化されることがわかりました。
(朝倉書店、食品技術総合辞典、2008年およびアンチエンジングより引用) 高齢者の食生活と免疫強化pdf アンチエイジング