有害元素2.カドミウム(Cd)

 精錬、加工、電池製造、顔料、はんだ、銀蝋、合成樹脂の安定剤などの作業に従事する場合は年に2回の健康診断が義務付けられている。カドミウムの主たる暴露経路は吸入と経口摂取で、亜鉛と同様に小腸から約6%吸収される。しかし、カルシウムやタンパク質、鉄が欠乏していると、10~20%程度にまで上昇する。
 カドミウムの代謝の特徴は、体内蓄積性が高いことである。カドミウムの生物学的半減期は8~30年と長く。体内のカドミウムのうち、その約3分の1は腎臓に、また6分の1が肝臓に蓄積する。腎臓に蓄積したカドミウムは腎臓の細胞を破壊するため、腎障害を起こす。

1.中毒の発症機序
 カドミウムは亜鉛と化学的性質が類似し、そのため、生体中の多くの亜鉛含有酵素の亜鉛とカドミウムが置換し、酵素の阻害を起こす。また、細胞中のタンパク質のイオウと非特異的に結合するため、生体内のイオウ(含流アミノ酸)を含む多くの酸化還元酵素の活性を阻害する。

2.中毒症状
 カドミウムは呼吸器を強く刺激するとともに、腎障害を引き起こす。多量経口摂取時には、催吐性がある。

1)急性中毒
 カドミウムのフュームに暴露すると、咽喉頭、気管の刺激症状、胸痛、頭痛、咳、呼吸困難(間質性肺浮腫)が、経口摂取により胃腸症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢)が生じる。また、悪寒、脱力感なども起こる。時には重症な肺炎を引き起こし、死亡する例もある。

2)慢性中毒
 中毒症状として、肺気腫、腎障害(尿細管不全)、たんぱく尿を3大徴候とする。呼吸器、消化器に関連した自覚症状を訴え、門歯、犬歯の歯茎の縁を取り巻く黄色環を認めることがある。
 呼吸器の症状としては鼻粘膜の潰瘍、無嗅覚症、肺気腫症状がみられる。
 腎症状は、尿細管機能障害によって低分子量のたんぱく尿、腎性糖尿、尿中アミノ酸の増加、尿濃縮力の低下、高カルシウムおよび燐尿、尿酸性化障害、高塩素血症、アシドーシス、低燐血症が認められる。その他、低血色素性貧血、肝機能障害、骨塩代謝異常など。
 疫学的研究によって、カドミウム作業者に肺と前立腺のがんの増加が認められている。ある動物実験では、肺がんと吸入によるカドミウム暴露との間にはっきりした量-反応関係が認められている。また、非常に高濃度に暴露された動物に催奇形性の影響が報告されている。

コラム<中毒例>
○イタイイタイ病
 
 富山県の神通川流域で、足腰に限られていた痛みがやがて全身に広がり、咳をしただけでも骨折するほど骨がもろくなり、骨の萎縮のために身長が20cm以上も低くなる、といった症状を呈する病気が発生した。
 この病気は1955年(昭和30年)にイタイイタイ病と名付けられ、1961年には、神通川上流の工場廃液、神通川流域水田土壌、農作物、河川魚類、イタイイタイ病患者の臓器や骨中に、カドミウム、鉛、亜鉛が高濃度に含まれていることが明らかになった。
 カドミウムの慢性中毒のもっとも顕著な症状は腎障害で骨軟化症は含まれていないが、イタイイタイ病ではカドミウム中毒による腎障害の結果、カルシウム・リン代謝異常が起こり、その結果、骨軟化症が引き起こされたと考えられている。

<カドミウムと亜鉛との関係>
 カドミウムは自然界において、亜鉛鉱とともに産出されるなど、亜鉛とともに行動することが多い。これは、両物質の化学的性質が類似していることに起因する。しかし、主体においては亜鉛とカドミウムは拮抗作用(薬物等を併用した場合、互いに薬効を減らす作用)を持ち、亜鉛をあらかじめ投与しておくとカドミウム毒性は軽減される。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)
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