有害元素4.ヒ素(As)

 ヒ素は金属精錬、合金添加元素、特殊ガラス、農薬、顔料、半導体などに使われており、これらの製造に関与している人の場合、年に2回の健康診断が義務付けられている。ヒ素による毒性は、化学形に依存しており、一般に無機ヒ素は毒性が強く、有機ヒ素は毒性が弱い。海産物中のヒ素の多くは有機ヒ素化合物であり、人が摂取しても速やかに尿中に排泄される。また、無機ヒ素が微量に取り込まれたとしても、肝臓中でメチル化され尿中に排泄される。
 日本人が常食しているひじきには発がんのリスクが指摘されている無機ヒ素を多く含有している(22.7mg/kg)。そこで、英国食品規格庁(Food Standards Agency, FSA)は2004.7.28に英国民に対してひじきを食べないように勧告し、厚生労働省でも食品安全委員会、農林水産省など関係省庁と連携し、国際的な状況など調査を開始しようとしている(2004年)。

1.中毒の発症機序
 3価または5価のヒ素が、体内でシステインのチオール基(SH基)などに結合することにより、これを含む酵素やタンパク質の機能(とくにATP合成酵素と、呼吸鎖系酵素)を阻害するためと考えられている。

2.中毒症状
 急性中毒症状として、嘔吐、血性下痢、激しい腹痛などの胃腸障害(コレラ様下痢)、頻脈、血圧および体温低下などの基礎代謝の低下、痙攣、呼吸麻痺などの麻痺型の症状、腎不全、黄疸、末梢神経炎などが起こる。
 慢性中毒症状では全身の倦怠感、爪、毛髪の萎縮、欠損、皮膚の角化および色素異常(黒皮症)、鼻中隔穿孔、気管支炎、多発性神経炎(脚気)、発熱なども起こる。

コラム<中毒例>
○森永ヒ素ミルク事件

 1955年の夏に岡山、広島県を中心に起きた食品汚染による中毒事件。被災児は12,131名にのぼり、発熱、嘔吐、皮膚の色素沈着、黄疸などに苦しみ、130名が死亡した。生き残った者も、身長が同年齢平均より明らかに低く、脳波の異常所見や難聴の出現率が高いなどの重大な影響が残った。粉ミルクの安定剤に使用していた第二リン酸ソーダに、3~9%混入していた亜ヒ酸ソーダ(NaAsO2)が原因である。(2015年8月11日掲載:近藤雅雄)
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