医学書「指定難病 日本のポルフィリン症」1, 2, 3 を出版

ポルフィリン症について、3部作で纏めました。
まず、第1部はポルフィリン症の診断・治療、患者の権利、指定難病・未承認薬獲得までの経緯など医学・医療の総合的書物として纏めました。
2022年7月、「ポルフィリン症」の歴史、病因、診断法、診断基準、治療法、疫学・臨床統計、予防法、生活実態などについて、40年以上に亘る研究の成果を独自の視点から科学的に纏めました。また、未承認薬や指定難病の承認の経緯などについて纏めました。(B5版、321ページ)

構成は「Ⅰ.医学編」と「Ⅱ.患者編」に分け、医学編(第1章)ではポルフィリン症の医学と題し、遺伝性ポルフィリン症が「指定難病」認定のきっかけとなった調査研究として、2009年、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)の「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療法の開発に関する研究」研究班(研究代表者:筆者)を中心に纏めた診断基準および治療指針を編集・修正して記載すると同時にポルフィリン・ヘム生合成機序ならびにその調節機序、遺伝性ポルフィリン症の発症機序などについて纏めました。患者編(第2~5章)では患者を中心とし、第2章は患者さんの権利獲得に向けた活動(指定難病、未承認薬承認)を中心に書きました。第3~5章は患者さんの治療後の現状、診療体制の問題点、患者さんの生活習慣改善、健康維持に関する諸情報を纏めました。

本書が医師などの医療関係者、医学研究者等々の目に留まり、ポルフィリン症患者の診断の向上並びに臨床研究の発展に繋がることを期待しています。そして、何よりもポルフィリン症患者さんのQOLの向上と健康寿命の延伸、そして、患者さん方が未来に向かって安心・安全な社会活動が送れるよう、病気が根治可能な社会となることを願っています。
そして、第2部、第3部については、2023年4月、「ポルフィリン症2」(B5、200ページ)の診断と治療について、臨床研究用に纏めました。
また、「ポルフィリン症3」(B5,252ページ)は臨床医用に即診断と治療に利用できるよう纏めました。
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鉄欠乏性貧血~ヘム合成とミネラルバランスの新知見~ 

鉄欠乏性貧血は発展途上国のみならず先進諸国においても非常にポピュラーな疾患で、すべての年代での発症が認められます。この原因として、発展途上国では栄養欠乏が、先進諸国では栄養バランスの悪い食事が、各々指摘されています。鉄欠乏状態が続くと,まず貯蔵鉄が減少し,次に血清鉄,最終的にヘモグロビン量が減少し,貧血の発症に至ります。貧血になると免疫機能が損なわれ、心身の様々な機能が低下します。
途上国においてはヨード、ビタミンA、鉄、亜鉛の4大微量栄養素欠乏症の中で、鉄欠乏性貧血症は、最も対策の遅れている健康問題の一つです。我々は血液学的検査と症状から12例の典型的な鉄欠乏性貧血患者を見出し、本症の病態生理として新たにヘム合成とミネラルバランスに関する知見を得ました。そこで、貧血の原因、症状、予防と治療を加えて報告します。(参考文献:Kondo M et al. Iron deficiency anemia, in PORPHYRINS 14(2) 99-104, 2005) PDF:鉄欠乏性貧血症

ペンタガーデンは植物中の抗酸化能を持つ各種必須ミネラル及びフラボノイドを増やす

 近年、活性酸素が原因で起こる各種疾病からの予防及び健康維持・増進を目的としたフラボノイドの抗酸化能が注目されている。フラボノイドには約7000種ともいわれる多数の化学物質が報告され、その抗酸化能も異なる。そこで、約32種類の抗酸化物質についての抗酸化能を検討した結果、ルテオリンというポリフェノールが細胞内外にて極めて抗酸化能が高いことが分かった。我々は、各種フラボノイドの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法の開発を行うと同時に、各種植物のルテオリン量を調査した結果、ピーマンなどのベルペッパーに多く含まれていることが分かり、ピーマン中の各種フラボノイドの定量分析を行った。 
 さらに、最近注目されている肥料ペンタガーデン(5-アミノレブリン酸(ALA)配合肥料:コスモ誠和アグリカルチャ株式会社、現在は株式会社コスモトレードアンドサービスに変更)を投与し、栽培したピーマンのフラボノイドおよびミネラル量に及ぼす影響について検討を行ったところ、抗酸化作用を有するポリフェノール類の増量並びに多くの必須ミネラル、とくに免疫や抗酸化作用を有するミネラル類が増量することを見出した。

 ALAはクロロフィルやヘム合成に不可欠な鍵となるアミノ酸であり、このALAを配合したペンタガーデンまたはペンタキープには植物生長促進効果、光合成促進、バイオマスの増大、糖度の上昇、硝酸含量の低減、ビタミン含量の向上、低温・低照度耐性、耐塩性などの様々な機能が知られ農林業、施設園芸、野外圃場、都市や砂漠の緑化など多方面で利用されている。

 最近、筆者もテイクオンで購入したペンタガーデンを家庭園芸に用いたところ、花はより鮮やかに、葉はより緑に、また野菜や果物はより大きく、糖度も増し、各種栽培には欠かせない肥料として楽しんでいます。

 ペンタガーデンの“ペンタ“の意味はギリシャ語で5を指し、5番目の炭素にアミノ基を持ったレブリン酸と言うことで、5-アミノレブリン酸と言い、このアミノ基が植物の成長に大変重要であることからペンタシリーズが開発されたものと推測される。近藤雅雄(2019年6月10日掲載)

 なお、 ペンタガーデンテイクオンALAショツプhttp://takeon-ala.jp/ にて購入できる。
 論文は以下のPDFを参照されたい。ピーマンの各種ミネラル及びフラボノイド量に対する

ポルフィリン症研究の歴史と世界及び日本の第1例報告

 ポルフィリン症は「病気の主座がポルフィリン代謝の異常にある一群の疾患」と定義する。ポルフィリン症はポルフィリン・ヘム合成の中間代謝物が過剰に体内に蓄積することによって発症する遺伝性の難病で、患者は皮膚、消化器、精神・神経、循環器、運動器、内分泌等の多彩な機能障害および症状を呈することが特徴である。
 ポルフィリン症は医聖ヒポクラテスにより既に紀元前460年頃に記載されていることが報告されている1)が、今日的には1874年Schultz2)による先天性骨髄性ポルフィリン症(congenital erythropoietic porphyria, CEP)と思われる症例報告が初めてである。その後、1912年、有機化学者のH. Fischer3)によってポルフィリンの本格的な研究がスタートし、患者のぶどう酒様の尿の中から赤い色素を分離し、その構造を決定してからポルフィリンの生化学、臨床医学が急速に進展した。本症の原因は長い間不明であったが、1950年代には米英の研究者により、ヘム合成に関与する各酵素が発見され、ポルフィリン・ヘムの生合成経路が解明された。その後、1960~1970年代には各種遺伝性ポルフィリン症の発見および酵素異常が次々と明らかにされ、1995年までにすべてのポルフィリン代謝系酵素cDNAのクローニングが完成し、ポルフィリン遺伝子異常の解明が一気に進んだ。現在では生化学的、分子生物学的、臨床医学的に総合的なアプロ-チが成されるようになった。
 ここでは、ポルフィリン症の基礎と臨床の研究が一体化して歩んできた歴史的事実と、ポルフィリン症の各病型について世界および日本で初めて発見された症例を紹介する。(近藤雅雄:掲載日2017年3月5日) PDF:ポルフィリン症研究の歴史と世界及び日本の第1例報告

Porphyrias(ポルフィリン症総説)

Porphyrias are a group of disorders, which induce excess production of porphyrins, as well as cause their accumulation in the tissues. They also increases the excretion of metabolites, as a result of inherited or acquired deficiencies in the activities of the enzymes of the heme biosynthetic pathway. There are 8 types of porphyria. Like other congenital metabolic disorders, this disorder is very rare, has attracted attention for a long time because of its specific symptoms. Porphyria manifests a wide variety of symptoms, including cutaneous, psychoneurotic, gastrointestinal, and endocrine; endogenous and exogenous environmental factors influence the manifestation of these symptoms. Therefore, acute porphyria may be fatal because of false and/or delayed diagnosis. A poor prognosis may be anticipated. Therefore, it is important that we have accurate knowledge of porphyria. This article reviews on the abnormal porphyrin metabolic disorder.遺伝性ポルフィリン症総説論文、以下のPDF参照(近藤雅雄、2017.1)PDF:Porphyrias

ALAを合成する酵素の新しい測定とその酵素のミトコンドリア内での様態

 ALAを生産する酵素、5-Aminolevulinate synthase (ALAS)活性の測定はsuccinyl-CoAとglycineを基質として測定されるのが世界的に広く知られています。このALASはヘム合成(ポルフィリン代謝)の律速酵素として最も重要な酵素です。肝性ポルフィリン症などのヘム合成系の酵素障害があるとALAS活性が増量してALAの生産を高めることが指摘され、ポルフィリン代謝異常で最も中心的役割を果たす酵素です。しかしながら、実際に肝臓のポルフィリン代謝障害を起こす晩発性皮膚ポルフィリン症の肝ALAS活性は増加しないことが広く知られ、この矛盾を説明することがこれまでにできませんでした。
 そこで、肝性ポルフィリン症患者の生検肝微量組織からα-ketoglutarateとglycineを基質としてALAS活性を測定した結果、succinyl-CoAとglycineを基質とした値よりもポルフィリン代謝をより反映していることが今回の実験によってわかりました。すなわち、肝ALAS活性の測定にはこれまでの方法と異なって、α-ketoglutarateとglycineを基質として測定した値の方がより肝性ポルフィリン症の病態を反映していることが示唆されると同時に肝ALAS酵素の作用機序がほぼ分かりかけてきました。
 その内容は2015年9月の学術雑誌ALA-Porphyrin Scienceに掲載されました。以下のpdfで参照ください。(近藤雅雄:平成27年11月10日掲載) 肝性ポルフィリン症と肝ALAS

ポルフィリン・ヘム代謝異常

 ポルフィリン症はヘム合成系酵素の遺伝的あるいは後天的障害によってポルフィリン代謝関連産物の過剰産生、組織内蓄積、排泄増加を起こす一連の疾患群である。
 本症は1923年、AE.Garrodにより代表的な先天性代謝異常疾患の一つとして提唱されて以来、現在までに8病型が知られている。ポルフィリン代謝異常が肝細胞内で起これば肝性ポルフィリン症、骨髄赤芽球内で起これば骨髄(赤芽球)性ポルフィリン症と分類される。また、臨床的には急性の神経症状を主とする急性ポルフィリン症と皮膚の光線過敏症を主とする皮膚型ポルフィリン症に分類される。
 ヘムは細胞内のミトコンドリアと可溶画分に局在する8個の酵素の共同作業によって合成され、ヘモグロビン、チトクロ-ムーP450などのヘム蛋白の補欠分子族として、細胞呼吸や解毒機構などに関与する。ヘム合成の最初の酵素δ-アミノレブリン酸(ALA) 合成酵素(ALAS)には赤血球系細胞でのみ発現している赤血球型酵素(ALAS-E)と、肝臓等すべての臓器で発現している非特異型酵素(ALAS-N)の二つのアイソザイムが存在し、その調節には組織特異性がある。
 詳細は別冊日本臨牀 新領域シリーズNo.20、先天性代謝異常症候群(第2班)ポルフィリンーヘム代謝異常:概論、2012年12月20日発行、日本臨牀社に掲載されていますので、ご参照ください。(近藤雅雄:平成27年8月27日掲載)

遺伝性ポルフィリン症の生化学診断法および診断基準案の作成

 ポルフィリン症には酵素障害ならびに病態機序の違いによって8病型が報告されています。しかし、鑑別・確定診断のための検査法および診断基準はいまだに統一および一般化されていません。現在、本症の診断には臨床症状からポルフィリン症を疑い、特殊検査としてポルフィリン関連物質の測定を行った後、判定するのが一般的であり、診断には1週間以上を要します。
 本研究では、ポルフィリン症における典型的な臨床症状と患者から得られた血液、尿、糞便中の各種ポルフィリン関連物質の測定値をまとめ、本症の早期診断を目的に、高速液体クロマトグラフィーを用いた生化学診断法による鑑別・確定診断法の確立と診断基準案の作成を検討しました。その結果、現状において十分に診断可能なシステム並びに診断基準案を作成ました。
(近藤雅雄ほか:ALA-Porphyrin Science,2012,1,33-43掲載論文) 内容は下記pdfからご覧ください。 PDF:ポ症の診断基準2012-1  

ALAの植物利用

シーズ・メイル対談
 コスモ石油(株)は生命体のエネルギーとなる ALAを用いた事業を推進することで 社会の期待に応えています。ALAは 生命の根源に関わる物質として注目が高まっています。 ALAの働きと可能性、そしてコスモ石油(株)のALA事業について木村社長と意見交換をいたしました。
 現在はコスモALA株式会社にてペンタガーデン等の植物利用に関わる研究及び製造が行われています。
 2011年4月、コスモ石油株式会社の代表取締役社長 木村 彌一氏との対談の内容がシーズ・メイルで紹介され、その内容を下記のpdfで示しました。 PDF:コスモ石油社長と対談

中・高齢者の特発性ポルフィリン代謝異常症について~栄養学的アプローチ

 中・高齢者に稀に発症する特発性 (散発性晩発性皮膚) ポルフィリン代謝異常症 (s-PCT) 患者の血液中の微量元素濃度が健常者と異なる事を見出しました。すなわち、患者10名(平均年齢51.4歳 (38~66歳)の血液中の各種元素(Al, As, Ba, Ca, Cd, Cr, Cu, Fe, Ga, K, Li, Mg, Mn, Mo, Ni, Pb, Rb, Se, Sn, Sr, Ti, V, Znの23元素)の濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析計(ICP-AES)または誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて測定しました。その結果、健常者に比してs-PCT患者の末梢血液中のMg, Ni, Se(<0.05)およびRb(<0.01)濃度は有意に低値でした。これに反してMoは有意に高値を示しました(<0.01)。さらに、As, Ca, Fe, K, Znは低下傾向を示し、Cdが高値の傾向を示しました。また、各元素間においても、各々健常者群では見られない有意な相関関係が認められました。しかし、これら各種元素濃度と尿中ポルフィリン量との間には有意な相互関係は見られませんでした。これらの元素変動を調べたのは世界でも初めてのことであり、今後の研究に有用と思われます。
 以上の結果は、これまでにs-PCTの発症には鉄が強く関与することが推測されていることから、これらの元素変動はPCT発症の一因となり得る可能性が示唆されました。(掲載論文:近藤雅雄ほか、薬理と治療、vol.33:S37-S44, 2005)。続きは下記のpdfを参照してください。 PDF:中高齢者の特発性ポルフィリン代謝異常症について

晩発性皮膚ポルフィリン症の臨床及び生化学的解析

晩発性皮膚ポルフィリン症 (Porphyria cutanea tarda, PCT) はポルフィリン代謝系の5番目の酵素であるウロポルフィリノゲン脱炭酸酵素 (uroporphyrinogen decarboxylase, UROD) の活性低下に基づく代謝性疾患であり、遺伝性と獲得性が知られ、光線過敏症と肝障害を合併します。遺伝性 (家族性、f-PCT) ではUROD遺伝子異常が認められますが、獲得性 (s-PCT)のポルフィリン代謝および肝障害の発症機序については未だに不明です。また、近年PCTに高率でC型肝炎ウイルス感染が合併していることが明らかとなり、さらにPCT患者においては鉄の吸収促進による鉄沈着も指摘され、この鉄沈着についてはヘモクロマトーシス因子 (HFE)との関係が注目されています。 本稿では、わが国において報告されたPCTの全症例を臨床統計し、日本の現状と世界の現状およびs-PCTのC型肝炎合併症例の特徴について概説しました。
(近藤雅雄ほか:Porphyrins 2004:13( 3,4)93-104, 掲載論文)続きは下記pdfを見てください。 ポルフィリン誌 04晩発性皮膚ポルフィリン症

ヘム合成酵素とポルフィリン代謝異常症の診断

本邦で発見されたポルフィリン症患者総数は2002年までに約 827例ですが、不顕性遺伝子保有者(キャリア)はこの数十倍存在するものと思われます。キャリアの早期発見はポルフィリン症の発症予防において極めて重要ですが、その実態についてはまったく不明です。したがって、ポルフィリン症およびそのキャリアの確定診断上、当該病型の責任酵素の活性測定が重要となります。 責任酵素の活性測定には主に血液細胞、肝細胞、各種培養細胞など極微量の臨床材料が用いられていますが、測定法および活性値は統一されておらず、異常値を判定するには必ず対照値が必要となります。ここでは、臨床上比較的頻度の高いポルフィリン代謝異常症の確定診断において重要な8つのヘム合成系酵素活性の測定法と臨床的意義について述べました。
( 近藤雅雄:Porphyrins 2004:13(3,4)105-122掲載論文)詳細内容は下記pdfを参照してください。 ポルフィリン代謝酵素活性の測定意義

ヘム生合成関連物質及びその測定意義

ヘム生合成関連物質の測定は先天性ポルフィリン症の確定診断や鉛作業者の職業病検診に不可欠です。そこで、医療現場からの要望のとくに高い物質について、民間諸検査機関が行っているポルフィリン代謝関連物質の測定項目を中心に、その概要、基準値、異常値を呈する疾患、臨床的意義、検査のすすめ方などについて、さらにポルフィリン関連物質測定に関する諸情報をまとめました。(近藤雅雄:Porphyrins 2003:12(2),73-88掲載論文)続きは下記pdf・・・・ ヘム関連物質およびその測定意義(03:医歯薬)

我が国における肝赤芽球性ポルフィリン症の最初の報告

 肝赤芽球性ポルフィリン症(Hepatoerythropoietic porphyria,HEP)は1967年にGuntherによって肝性と骨髄性の双方の生化学的性質をもつ珍しいポルフィリン症として初めて報告された。Elder らはHEP 患者のウロポルフィリノ-ゲンデカルボキシラ-ゼ(UROD) 活性が正常の7 ~8 %であることを認め、家族性晩発性皮膚ポルフィリン症(familial porphyria cutanea tarda,fPCT) のホモ接合体として考えられている。本症は2000年までに世界で約30例しか報告がない極めて稀な疾患である。HEPはfPCTと同じUROD遺伝子の異常であるが、前者は常染色体劣性遺伝であり生後~幼児期に発症するのに対し、後者は常染色体優性遺伝し、主に成人後発症する。URODは骨髄赤芽球よりも肝での発現量が低いため、HEP、fPCTは共に肝性ポルフィリン症として分類される。しかし、HEP ではUROD活性が著明に減少しているために肝と骨髄の双方でポルフィリンの代謝異常が生じる。
 今回、我々は赤血球遊離protoporphyrin(FP)および尿中uroporphyrin (UP), heptacarboxyl porphyrin (7P) , coproporphyrin (CP) が異常高値を示し、HEP が強く疑われた患者を経験した。 症例は15歳の男性で、強い光線過敏症、著明な肝腫大、黄疸を認めたが、貧血、腹痛、嘔吐、便秘はない。また、尿および血液の著明なポルフィリン代謝異常を見出し、患者の臨床症状および尿・血液中のポルフィリン分析により、わが国で初めての肝赤芽球性ポルフィリン症が強く疑われた。
(掲載論文:近藤雅雄 ポルフィリン8(2):81-86, 1999年) PDF:肝赤芽球性ポルフィリン症が疑われた一症例

ポルフィリン症の生化学的診断

ポルフィリン代謝に関与する各種酵素の活性およびその代謝産物の測定はポルフィリン代謝異常症の診断、病態解析に、また、鉛作業者の職業病検診などに不可欠である。さらに、これら臨床方面だけでなく、本書に記載されている多方面のポルフィリン研究分野で、ポルフィリンの分析および関連する酵素活性の測定は重要である。しかし、これまで報告されてきた溶媒抽出法を主体としたポルフィリン測定法は診断上重要な異性体の分離が困難であり、試料の前処理および抽出したポルフィリンのエステル化など、操作が煩雑で、回収率、再現性が悪い。しかも測定に長時間を要するという様々な障害があったが、近年の急速に進展した高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)の出現によって、ポルフィリン代謝異常症の研究が飛躍的に発展した。すなわち、微量生検材料中のポルフィリン分析、さらに酵素活性の測定が短時間で、正確に測定できるようになり、ポルフィリン症の確定診断、病態解析などポルフィリンの臨床化学分野でHPLCは必要不可欠となった。
ここでは、臨床材料からのポルフィリン代謝産物および関連酵素活性の各種測定法を紹介すると共に、その意義について述べる。(掲載論文:近藤雅雄、日本皮膚科学会) ポルフィリン症の生化学的診断 PDF:ポルフィリン症の生化学的診断 2  

日本と英国におけるポルフィリン症患者数の比較 

 ポルフィリン症はポルフィリン代謝系酵素の遺伝的(一部非遺伝的なものもある)障害によりポルフィリン代謝産物の過剰産生、組織内蓄積、また排泄増加を起こす一連の疾患群であり、常染色体性の優性と劣性の遺伝が確認されている。ポルフィリン症は医聖といわれるヒポクラテスにより紀元前 460年頃にすでに記載されているが、今日的には1874年Schultzによる症例報告が初めてである。その後、1912年、有機化学者のH.Fischer によるポルフィリンの同定、構造決定からポルフィリン症研究が急速に進展し、現在ではヘム合成系の酵素障害の部位差により8病型が見いだされている。一方、わが国では佐藤らが1920年に初めて先天性ポルフィリン症を報告した。患者は世界中に分布していると思われるが、疫学調査の報告は少ない。
 著者はThe Royal Melbourne Hospital,Porphyria Reference Laboratory (Victria, Austraria) のD. Blake博士より英国のポルフィリン症患者数の実態を入手したので、わが国と比較検討した。ポルフィリン症患者数を比較した結果、英国の患者病型数のパターンが極めて類似していることを見出した。
(掲載論文:近藤雅雄 ポルフィリン 5(4):375-377, 1996) PDF:日本と英国におけるポルフィリン症患者数の比較

ハルデロポルフィリン症が疑われた症例  

 ヘム合成の6番目の酵素coproporphyrinogen oxidaseの先天性欠損症として発症する遺伝性コプロポルフィリン症(hereditary coproporphyria, HCP) は常染色体優性遺伝である。
 一方、ハルデロポルフィリン症(harderoporphyria, HP)は常染色体劣性遺伝であり、HCP の変形として1983年にNordmannらにより発見された。本症はCPO遺伝子のダブルヘテロ接合体として発症する。本症の生化学的所見として尿および糞便中のハルデロポルフィリン(HARDERO) が増量するが、HCPなど他の先天性および後天性ポルフィリン症ではHARDERO は殆ど検出されない。HARDERO はCPO によってcoproporphyrinogenからprotoporphyrinogenを生産する際の途中中間代謝産物である。

 今回、我々は尿中HARDERO が2.14mg/l,糞便中は14.8μg/g dry という、通常健常者では検出されないポルフィリンを大量に排泄し、さらに、尿中uroporphyrin, heptacarboxyl porphyrinと赤血球および糞便protoporphyrinの異常高値を示し、同時に、血小板減少症と骨髄異形性症候群(myerodysplastic syndrome, MDS) を合併した患者を経験し、ハルデロポルフィリン症が疑われたが、晩発性皮膚ポルフィリン症、赤芽球性プロトポルフィリン症または肝赤芽球性ポルフィリン症との鑑別がつかず、同時に、骨髄異形成症候群(MDS,refractory anemia with excess of blasts,RAEB)を合併し、確定診断がつかないままMDS (RAEB)に伴う血小板減少のため消化管出血により急性死亡した症例を経験したので報告する。
(掲載論文:近藤雅雄ほか、ポルフィリン5(4):363-374, 1996) PDF:骨髄異形症候群に合併したハルデロポルフィリン症が疑われた特発性ポルフィリン症

天然色素ポルフィリンの科学~生命科学を中心に~

 “ポルフィリン”についての名前は余り親しまれていないが、最近、ポルフィリンに関する研究領域が急速に広がり、注目され出している。
 まず第1に、分子生物学の進歩により、ヒト、植物、細菌など地球上の生物が生命維持に不可欠な物質として共有しているポルフィリンの代謝調節の機序が次々に明らかにされていること。
 第2に、新医療として、ポルフィリンの物理化学的特性を利用したがんの診断と治療法の開発、および人工血液の開発が軌道に乗り出したこと。
 第3に、先端技術としての分子認識素子や光機能材料などの高分子工学、情報工学分野に利用され、まったく新しい分野の研究として注目され始めたこと。
   最後に、植物におけるポルフィリン合成経路が解明され、それにともないこの代謝系を標的とした、人体に無毒の除草剤開発が進んでいることなどが上げられる。
 このように、ポルフィリンに関連する研究が生物、医学領域ばかりでなく、その生物機能を模倣、利用し、分子機能材料などの開発へ発展、その成果が次々に報告され、ポルフィリン研究の重要性が広く認識されはじめた。この注目を浴びている研究の詳細に関しては、現代化学増刊28として市販されているので併せて参照されたい。ここでは、その一部を紹介すると共に、ポルフィリンについての知られざる世界について、以下のpdfにて紹介する。
(掲載論文:近藤雅雄、現代化学49-55, 1995.6) PDF:天然色素ポルフィリンの科学