こころとからだの健康(6)ストレスと心身の障害

ストレス 現代社会はストレスに満ち溢れ、社会生活上、学校、会社、家庭内などでよく遭遇する不安、悲しみ、失望、恐怖、また、突発的な事件に巻き込まれたり、大きな災害に遭遇したりなど、後天的にこころが傷害されることが多く見られます。これは日本が抱える課題の一つである自殺者の増加と決して無縁ではありません。
 こころが健康であるということは、感情(気持ちや気分)と精神(理性)が健全で、社会と調和した生活を営んでいる状態と言えます。このような状態から外れるとこころの健康に異変が生じ、やがて「こころの病」へと進展します。
 ストレスが原因で起こる「こころの病」の代表が「心身症」「神経症」「うつ病」ですが、これらは関連している部分も多く、厳密に区別できないことがあります。この中で、「うつ病」はこころの風邪と言って誰でもなる病気ですが、年々患者数が増加し、放置すると自殺へと進展するので、予防医学上早期対策が望まれています。
 一方、からだの疲労がこころの疲労に移行する「累積疲労」が知られています。また、「慢性疲労症候群」も知られていますがこれらこころとからだの疲労には必ずその原因が存在します。まずは、睡眠時間を十分に確保し、成長ホルモンの分泌を高め、疲れを解消してから、疲労の根本となる原因について相談し、早めに除去または対策を講じることが必要です。

1.心身症
 心身症はどの年齢層でも発症しますが、特に働き盛りの中高年齢者に多く見られ、こころの過度の負担(心理的、社会的ストレスが過剰に加えられた状態)が、内臓諸臓器に器質的ないし機能的障害となって現れる病気を言います。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、神経性狭心症、自律神経失調症、円形脱毛症、睡眠障害、片頭痛、高血圧症、糖尿病、気管支喘息、更年期障害、性機能不全症、メニエール症候群、単純性肥満、慢性関節リュウマチなど多くの病気が関連し、ヒトによって病状は様々です。心身症はストレスとうまく付き合うように工夫し、早めに病気の原因を取り除くことによって、様々な病気の発症を未然に防ぎたいものです。

2.神経症
 神経症は性、年齢に関係なく発症しますが、特に10歳代後半から30歳代にかけて起こりやすい病気です。神経症の発症には心理的・社会的ストレスが大きく関与し、精神・神経症状として現れるもので、一般にノイローゼと言われています。心身症と異なり、内臓諸臓器には異常が認められません。また、躁うつ病や統合失調症のような内因性の精神病と異なって幻覚や妄想は見られません。
 神経症には①絶えず漠然とした不安感を持つ不安神経症(パニック障害)、②ささいな病状でも重病と思い込む器官神経症(心気症)、③自分の意思に反してまるで強迫観念に取り付かれたようにある行為や考えから抜け出せない強迫神経症、④対人恐怖や赤面恐怖、異性恐怖などの恐怖症、⑤健忘状態になったり、人柄が急に変わったり、無表情になったりする精神的症状および座れなくなるなどの運動麻痺や物が見えない、耳が聞こえないなどの知覚麻痺が起こり、これがヒステリーとなって現れることがあります。これらの根底には不安が共通して見られますので、不安となる原因を除去または考え方を改めることが早期治療につながります。

3.うつ病
 うつ病は近年増加傾向にあり精神心理的、社会的ストレスが発症や増悪に深く関与する病気で、脳の心身症とも言われています。発症年齢は時代と共に低年齢化し、20歳から50歳代で発症し、女性の方が男性に比べ約3倍高く、我が国の自殺増加との関係からもその対策が急がれます。女性では産褥期や更年期に比較的発症頻度が高いと言われています。
 うつ病の発症機序は不明ですが、こころとからだを活性化するセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経化学伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。したがって、薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)を投与し、シナプス内セロトニン濃度を増やすための療法が中心となります。診断基準としては、米国精神医学会が作った診断マニュアルやWHO(世界保健機構)が作ったものがあります。
 表に示した様に、うつ病の症状は神経症や心身症とうつ病と神経症似た点も多く見られますが、生きる気力がなくなり、こじらすと自殺につながることが特徴です。うつ病患者の自殺率は高く、患者の14~37%が自殺企図し、15~25%が自殺する。合併症として不安障害、アルコール・その他の薬物乱用、社会恐怖、人格障害、摂食障害などが知られています。うつ病の場合は薬(抗うつ剤)や休養をとり、安心(癒し)を与え、治る病気であることを認識することが重要であり、励ましや叱責は本人の気持ちを追いつめることになり逆効果となります。予後は良好ですが、患者の約20~30%は慢性化すると言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)
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