健康のための生命科学  

 21世紀は「生命科学の時代」と言われ、遺伝子の研究から生命のしくみが解明され、病気の予防や診断、治療が飛躍的に進み、遺伝子診断による生活習慣病などの易罹患性リスクの予測ならびにその予防や遺伝子治療、ゲノム創薬などに関する研究が急進展している。一方で、そのリスクが予測できてもそれを予防する方法が未だに無く、そこで、健康維持や病気の予防として遺伝子組み換え食品を含む多数の特定機能性食品に対する開発研究が行われている。このように、バイオ研究は生命そのものを究明する科学から、健康を守ることを目的とした健康科学への道へと進もうとしている。
 さて、私たちのからだではおよそ60兆個の細胞がお互い仲良く連絡し合って、生命・個体を維持している。生命科学はこれら細胞、組織・臓器およびそのネットワーク(生命系)の特有な現象及び様々な機能を科学的に究明し、「人類の健康・医療・福祉」と「地球環境の保全、平和」に貢献するという、自然科学から人間・総合科学とにまたがった広領域の分野であり、平和で健康な生活を営む中で最も基本的で重要な分野である。生命活動のネットワークとは生命維持に不可欠な①循環調節、②消化・吸収・代謝・排泄・体温の調節、③情報連絡、④生体防御、⑤感覚・運動の5つの生命維持調節システムを指す。本稿では、これらのシステムのしくみを理解すると同時に生命科学を基盤とした健康科学の重要性を理解することに重点をおいた。
 ところで、21世紀に入って地球規模的に「健康」と「生活の質」並びに[平和]と「環境保全」への意識が高まりつつあるが、そのような社会を実現するためには、人々が豊かさを味わい、心の安らぎを感じられる新たな社会システムの構築が望まれている。
 現在も含めてこれまでの人口増大の時代では、たとえ病気になっても仕事に支障を来たすことはなく、高齢者については地域の福祉施設や家族、介護士または多くのボランテアに支えられ地域・国家が形成されてきたが、これからの少子高齢化社会ではすべての国民が健康であることが必要になってきた。病気を予防して、健康で長生な社会構築が必要である。
 そこで、早死をなくし、若い労働者が健康で安心して労働できるよう、また高齢者においても、活力ある高齢化社会を送ることができるよう、健康に対する意識を国民が高揚することによって、地域社会・国家もますます繁栄されるものと思われる。個人の健康はもとより、家族の健康、職場の健康、自治体地域住民の健康などなど、健康なヒトがこれからも健康でいられるよう、または病気ではないが、病気がちなヒトや病気の素質を持っているヒトを健康指導できるよう健全な知識を身に付けることが重要である。
 生命科学とは、健康で平和な社会システムの構築と同時に各個人が「生命のしくみ」について理解し、生命の尊さと感謝の気持ちを持ち、ヒトとして正しい判断力を身につけ、健康で質の高い生活を維持し、健康寿命の延伸を図るための学問である。
(近藤雅雄著:全231ページ、2004年6月15日発行)
健康のための生命科学2004
本著の内容は以下の通りです。

序章:生命科学の概念
第1章 生殖と生命の誕生
 1.生命とは
 2.ゲノム新時代
 3.生命の設計図
 4.生殖と生命の誕生
 5.遺伝子病の発症
 6.遺伝子ー環境因子干渉相互作用
第2章:細胞と循環調節システム
 1.生命の最小単位 ―健康なこころとからだは健康な細胞から―
 2.循環の仕組み ―生命維持物質酸素の摂取・運搬および炭酸ガスの排泄―
 3.呼吸運動の調節
第3章:生命維持のための消化・吸収・栄養・代謝・排泄・体温調節システム ―生体の構築およびその機能維持に必要な物質は健全な食事から―
 1.食欲、消化、吸収のメカニズム
 2.栄養素のはたらきと代謝
 3.酵素と化学反応
 4.肝臓の機能 ー体内の巨大な化学工場
 5.食事と健康 (栄養・食生活)
 6.排泄と体液恒常性維持機能 -腎臓の働きー
 7.体温調節システム
第4章:生命活動の情報連絡システム
 1.内分泌ホルモンによる情報連絡システム
 2.神経細胞による情報連絡システム
 3.感覚情報連絡のしくみ
第5章:生命活動としての皮膚、筋・運動システム ―生体の機能保持は健全な皮膚と筋肉細胞からー
 1.皮膚と健康
 2.運動と健康・・・・骨の構造、骨生産調節
 3.歯と健康
第6章:生体防御システム ー生体恒常性維持機能・・・・・自然治癒力の原点ー
 1.バイオリズム
 2.免疫のシステム
第7章:代替療法 -治癒と治療ー
 1.世界での伝統医学の現状
 2.欧米での民間医療ブーム(代替・補完療法)の背景
 3.日本の伝統医学の方向性
 4.治癒と治療
第8章:こころと健康
 1.心身症
 2.神経症
 3.うつ症
 4.摂食障害(拒食症と過食症)
第9章:生命色素ポルフィリン
 1.生命維持に共通の物質としてのポルフィリン
 2.生命の起源
 3.ポルフィリン研究の歴史
 4.ポルフィリン代謝
 5.ポルフィリンの臨床医学 -遺伝子ー環境因子相互干渉作用ー
第10章:生命と地球環境
 1.オゾン層の破壊
 2.地球温暖化
 3.酸性雨など越境大気汚染
 4.海洋汚染
 5.自然資源の減少
第11章 生命科学から健康科学へ
 1.現代の生命科学(生活の質の向上(QOL)ー生命科学ならびに健康科学はヒトのこころとからだを豊にする総合科学ー
 2.生命科学から健康科学へ
 3.健康の概念 ~健康思考(指向、志向、施行)~
 4.健康の増進と減退
附1.健常人の主要健康数値表   附2.参考図書    索引

健康科学基礎原論

 健康(健とは人が堂々と立っていること、康とは稲の実りが良く、安らかであること)とは元気であること、丈夫であること、調子がいいこと、健やかであること、あるいは達者であること、恙無いことなどで、すべての人が、生涯健康でいられることを望んでいる。しかし、現実は病気のことにはいろいろ関心を持つが、自分自身の健康については意外と無頓着なのではないだろうか。これは、健康に関する書物に比べ、病気に関する書物が圧倒的に街の書店に溢れていることを見てもわかる。しいて、健康に関する情報に注目してみると、これまでがそうであったように一時期のブーム、ファッション的な情報および書物が溢れている。
 健康科学とは、健康なからだのしくみと科学的根拠に基づいた生体の機能について理解し、健康で高い生活(QOL:Quality of Life)を維持し、健康寿命の延伸を図ることである。本書では健康科学の基礎について、わかりやすく著述した。(近藤雅雄著:2003年8月22日発行)
健康科学基礎原論2003

序 章  ー健康科学の概念ー
第1章 生体の基礎および血液循環のしくみ
1.生命の最小単位 ー細胞のしくみと働き
2.遺伝と健康
3.循環器のしくみ
第2章 消化・吸収・代謝・排泄のしくみ
1.食欲調節、消化、吸収のしくみ ー肥満のメカニズムー
2.代謝  ー肝臓の機能ー 体内の巨大な化学工場
3.体温の調節 –発熱のメカニズムー
4.排泄と体液調節―腎臓のはたらき ー体液量調節のメカニズム
第3章 生体内情報連絡のしくみ・・・
1.内分泌調節のしくみと生殖 ー受精と妊娠のしくみー
2.神経細胞による情報連絡のしくみ
3.感覚情報連絡のしくみ
第4章 皮膚、骨と筋肉のしくみ ―生体機能維持は健全な筋肉細胞からー
1.皮膚と健康
2.運動器のしくみ ー運動と健康
3.歯と健康
第5章 生体防御のしくみ
1.バイオリズム
2.免疫のシステム
第6章 食事と健康
第7章:こころと健康
附1:健常人の主要数値
附2:参考図書

天然色素ポルフィリンの科学~生命科学を中心に~

 “ポルフィリン”についての名前は余り親しまれていないが、最近、ポルフィリンに関する研究領域が急速に広がり、注目され出している。
 まず第1に、分子生物学の進歩により、ヒト、植物、細菌など地球上の生物が生命維持に不可欠な物質として共有しているポルフィリンの代謝調節の機序が次々に明らかにされていること。
 第2に、新医療として、ポルフィリンの物理化学的特性を利用したがんの診断と治療法の開発、および人工血液の開発が軌道に乗り出したこと。
 第3に、先端技術としての分子認識素子や光機能材料などの高分子工学、情報工学分野に利用され、まったく新しい分野の研究として注目され始めたこと。
   最後に、植物におけるポルフィリン合成経路が解明され、それにともないこの代謝系を標的とした、人体に無毒の除草剤開発が進んでいることなどが上げられる。
 このように、ポルフィリンに関連する研究が生物、医学領域ばかりでなく、その生物機能を模倣、利用し、分子機能材料などの開発へ発展、その成果が次々に報告され、ポルフィリン研究の重要性が広く認識されはじめた。この注目を浴びている研究の詳細に関しては、現代化学増刊28として市販されているので併せて参照されたい。ここでは、その一部を紹介すると共に、ポルフィリンについての知られざる世界について、以下のpdfにて紹介する。
(掲載論文:近藤雅雄、現代化学49-55, 1995.6) PDF:天然色素ポルフィリンの科学