セサミノール

 ゴマのセサモリンから生成されるが、ゴマ自体には極少量ふくまれ、ゴマ油の製造過程で大量のセサミノールが生産される。強力な抗酸化作用があり、細胞の老化やがんの促進因子と考えられている過酸化脂質の生成を抑制するため、老化防止、がん予防、動脈硬化の予防、肝臓病改善、二日酔い改善などに有効であるといわれている。また、ゴマ種子には、リノール酸やリノレン酸を主構成脂肪酸とする脂肪油(ゴマ油)が45~50%、セサミンやセサミノール、セサモリンなどのリグナン類が1%程度含有されている。
これらのリグナン類が加熱処理によってセサモールやサミンが生成すると、強い抗酸化作用を有するといわれる。このゴマリグナンの半分を占めるセサミンはビタミンEの約6倍の抗酸化作用を示すことが報告されている。この抗酸化作用として、人の体内で効果が示されたものは今のところビタミンEとセサミンだけという。

ゴマの効能
 ゴマは約2000万年前にアフリカで発祥したと言われ、古くから油をとるために栽培された植物で、メソポタミアや古代エジプトの遺跡からその種子が発見されている。紀元前1555年頃に著されたとされている古代エジプト医学書「エーベルス・パピルス」にも収載されており、薬用や食用とされるほか、ゴマ油が顔料として用いられたと伝えられている。有名な「千一夜物語」に「開けゴマ」の呪文があるように、6世紀頃の中近東では身近な植物であったようである。中国では、2000年前に著された古代中国の薬物書『神農本草経』の上品(不老延命を目的とする薬)に胡麻が収載され、滋養強壮、粘滑、解毒薬として虚弱体質の改善や病後の回復、便秘の治療、また、火傷、歯痛、瘡癰などの治療改善に外用され、また長く服用すると目や耳が鋭敏になると言われている。
 インドやスリランカなどの伝承医学であるアーユルヴエーダにおいても、歯を丈人にし、口内炎や鼻炎の治療および顔の老化を防ぐ効果があり、ゴマ油でのうがいや鼻への滴下がすすめられているなど万能薬として認めており、中国の薬効と共通するところが多い。また、老化防止のマッサージにもゴマ油はなくてはならないものといわれる。(近藤雅雄)

スコルジン

 ニンニクに含まれる有効成分で、エネルギーの燃焼促進作用、末梢血管拡張作用、血中コレステロール低下作用などの作用が知られている。

シスチン

 システインというアミノ酸が2つ結合したもので、卵殻膜に豊富に含まれている。システインはS(イオウ)を含むアミノ酸で髪の毛や爪、皮膚など、からだの表面に多く存在するアミノ酸で体内ではメチオニンというアミノ酸から合成される。しかし、飲酒などによって合成が阻害されるため、食事から積極的に摂取することが重要である。システインを含む食品として大豆、かきや栗などがあるが、最近卵の殻の内部にある薄皮(卵殻膜)にシスチンが豊富に含まれていることがわかった。
 シスチンは美容の維持に役立ち、美肌を求める女性向けサプリメントに利用されている。摂取するにはビタミンCとあわせて摂取するとよいといわれる。

サポニン

 植物界に存在する多環式化合物をアグリコンとする配糖体の総称。アグリコンはサポゲニンと呼ばれ、その構造の違いによりトリテルペノイドサポニンとステロイドサポニンに分けられ、一般に発泡性、溶血作用を持つ。
サポニンは苦味、渋み、えぐみと言って不快感の原因ともなる成分で、水と油の両方に溶ける。血管に付着したコレステロールなどの異物を除去したり、血中脂肪を低減させるはたらきがあるため、動脈硬化、高血圧、高脂質血症などを予防・改善する効果が期待される。しかし、サポニンの多くは溶血作用があり注意を要するが、大豆サポニンについては溶血性や毒性がないという。
大豆サポニンには脂質の合成・吸収抑制作用、脂質の分解促進作用があり、肥満防止に有効であるという。また、肝細胞の再生に関与し、肝機能障害の改善にも効果があるといわれる。

コエンザイムQ10 

 細胞内の発電所といわれるミトコンドリアに多く含まれ、体内のエネルギー物質であるATPの生産に重要な働きをしている補酵素で、ユビキノン、ユビデカレノンとも呼ばれているが、加齢と共に減少する。日本では心筋代謝改善薬として心臓病の治療薬としても使用されている。
 心疾患の改善、老化防止、疲労回復、糖尿病、神経疾患などのリスク軽減、動悸、息切れ、冷え性、運動能力の回復、精子の活発化、免疫増強などの作用が知られ、また、抗酸化作用があり、ビタミンEに似た作用をもつのでビタミンQとも呼ばれる。

コラーゲン

 加齢とともに肌が衰えてくるのはコラーゲンの生産能力が低下するためとも言われている。このコラーゲンは皮膚や細胞間の結合組織、骨や歯の有機質の成分で、からだの全たんぱく質の約30%を占め、細胞や組織の粘着剤となって丈夫な血管や骨、筋肉、皮膚、頭髪、内臓などからだ全体の老化を防ぐともいわれている。最近ではがん予防効果への期待がいわれている。
鶏の手羽肉、ガラ、豚足、豚耳、スペアリブ、牛筋、ドジョウ、ナマコ、ふかひれなどに多く含まれている。

ケルセチン

 カテキン、アントシアニン、イソフラボンと同様に、抗酸化作用の強いポリフェノールの一種で,水溶性の抗酸化物質。ケルセチンの摂取量の多い人は冠動脈の硬化から来る心筋梗塞などの心臓病を起しにくいことが1993年イギリスの有名な医学専門誌「ランセット」に紹介されている。このケルセチンは玉ねぎ、じゃがいも、紅茶、赤ワイン、ココア、リンゴ、ブロッコリー、イチョウ葉に含まれ、とくに玉ねぎとブロッコリーに豊富に含まれている。(近藤雅雄)

グルタチオン

 γーグルタミンシステイングリシンとも呼ばれるアミノ酸の一種で、体内にもともと大量存在する。牛レバー、マダラ、赤貝、ホウレンソウ、ブロッコリー、酵母などに含まれ、体内の還元、細胞の機能低下や変異をもたらす有毒物質の解毒に関与し、慢性肝疾患、薬物中毒、妊娠中毒症、角膜障害、皮膚障害、放射線や抗がん剤による白血球減少の予防および症状の改善に、また、ストレス解消、老化防止などにも有効といわれる。慢性肝障害、角膜損傷、皮膚障害などの医薬品としても使われている。

グルコサミン

 カニの甲羅やエビの殻などに含まれるキトサンを化学処理してバラバラに分解するとグルコサミンが生産される。グルコサミンは軟骨細胞内でグルコース(ブドウ糖)から合成されるアミノ酸(グルコースとアミンが結合した小さな分子)の一種で、グリコサミノグリカンというムコ多糖類の産生を促進し、軟骨の再生に働く成分で、私たちの軟骨の構成成分でもある。
 関節痛、関節炎や痛風の緩和、スポーツ障害の改善に有効といわれているが、中高年には加齢に伴うひざの痛み緩和、軟骨のすり減り防止、症状の改善(とくに変形性関節症に効果がある)など人での多くの根拠がある。しかし、子供や成長期の若年者には本来備わっている軟骨生産能力が衰えることが心配される。(近藤雅雄)

グルカン 

 水に溶けない不溶性食物繊維で、きのこに多く含まれ整腸、便秘改善、肥満解消、がん予防などに効果があるといわれているが、大量摂取すると下痢を起こすことがある。
 グルカンには免疫細胞を活性化し抗がん作用を持つインターフェロンなどを作る作用があるといわれている。この作用はサルノコシカケ科、シメジ科、ハラタケ科に含まれるβーグルカンに強く、パン酵母に含まれるイーストグルカンにも同様の作用が認められている。

クエン酸

 生体のエネルギー物質、アデノシン三リン酸(ATP)の生産システムの中心をクエン酸サイクルというようにATP生産に不可欠なトリカルボン酸である。ブドウ糖が完全燃焼されないとピルビン酸(焦性ブドウ酸)から乳酸が生産され疲労の原因となるが、クエン酸はピルビン酸を分解し、乳酸の生産を抑制するため、疲労回復(精神的、肉体的)効果や肝臓病改善効果が認められている。柑橘類、ウメ、モモ、パイナップル、イチギなどの果実に多く含まれている。

キチン・キトサン

 キチンはN-アセチルグルコサミンがβ-1,4結合した多糖で、カニ、エビ、シャコ、オキアミといった甲殻類の殻、イカの軟骨、イナゴなどの昆虫の殻、きのこ、酵母、カビなどの細胞壁に含まれている。不溶性の食物繊維の成分でもある。キチンを濃アルカリ溶液に漬けて熱処理するとキトサンに変化する。
 キトサンはビフィズス菌の増殖を促進し、腸内環境の改善を図るほか、がん予防、高血圧予防、動脈性疾患予防、免疫増強作用、アレルギー疾患改善、便秘改善、肥満防止や神経痛、腰痛の改善、白内障や骨粗鬆症などの改善作用があるといわれているが、人での科学的な比較試験で確立しているのは、いまのところコレステロールの低下作用だけといわれている。とくにダイエットやがん治療効果を示す臨床的根拠はない。 

カプサイシン

 化学名はN-(ヒドロキシ-3-メトキシベンジル)-8-メチル-6-ノネアミドで唐辛子の主要辛味成分である。バニリルアミンに有機酸がアミド結合しているバニリルアミドを一般にカプサイシン類と呼び、唐辛子には約20種類が見出されている。
 体内に蓄積された脂肪を分解し、エネルギー消費を促進する作用があることから、肥満防止、食欲増進、疲労回復、冷え症改善、健胃に有効といわれる。

カテキン

 フラボノイドの一つで3-ヒドロキシフラバノール類の総称。茶に多く、乾物当り10%以上含む。  緑茶の主要なカテキンは(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキン、(-)-エピカテキン-3-ガレート、(-)-エピガロカテキン-3-ガレートの4種で、(-)-エピガロカテキン-3-ガレートは緑茶の全カテキンの半分を占める。
    カテキンには抗酸化、抗菌、抗がん、血圧上昇や血糖値の上昇抑制、消臭など多彩な作用をもつといわれる。

ヘム鉄

 鉄は体内で鉄を吸収するタンパク質であるフェリチン(貯蔵鉄)、鉄を輸送するタンパク質のトランスフェリン(輸送鉄)、そして様々な生理作用を持つヘムタンパク質(機能鉄)に分かれる。
 ヘムは、プロトポルフィリンという赤い色素に2価鉄が結合したものです。鉄は、体内での需要と供給のバランスから、成長期や運動、女性の生理、妊娠などによって鉄分が不足すると、ヘムの生産量が減少しますので、ヘムタンパク質の機能が発揮できず、貧血、息切れ、疲れやすいなどといった様々な症状が出やすくなります。
 そこで、食品から鉄分を摂取する際に鉄の吸収率が大きな問題となって、鉄の吸収率の高いヘム(10~30%吸収;肉類、レバーなどの動物性食品に多い)を「ヘム鉄」と呼び、吸収があまりよくない鉄分(1~5%吸収;野菜、穀類などの植物性食品に多い)を「非ヘム鉄」と分けるようになりました。ヘム鉄は非ヘム鉄と異なって、穀類に含まれるフィチン酸、お茶に含まれるタンニン、あるいは食物繊維などによる吸収阻害がありません。
 ヘム鉄を多く含んでいる食品の摂取は鉄分補給に効果的ですし、また、消費者庁から「特定保健用食品」として許可されたヘム鉄飲料などが市販されています。
(近藤雅雄:ヘム鉄、2015年7月9日掲載)

ミネラル(必須性が認められているもの)

 ミネラルには、人が日常健康生活を送る上で、生命の機能維持に必要不可欠であると確認されているものを必須ミネラルと呼び、これまでに16種類(Na, K, Cl, P, Ca, Mg, S, Zn, Fe, Cu, Mn, Co, Cr, I, Mo, Se)が知られている。その中でも、特に欠乏や過剰が心配される13元素(Ca, Fe, P, Mg, Na, K, Cu, I, Mn, Se, Zn, Cr, Mo)については、摂取基準が策定されている。
 ミネラルは体のバランスを調節し、機能を保つ働きを持つ。さらに、ナトリウムとカリウムのように、関わりあいながら機能しているミネラルもあるので、全体的にバランスよく摂取することは、健康の維持・増進、疾病の予防に重要な役割を発揮する。そのため、毎日の食事では補いきれず不足しがちなものを補うのが、サプリメント活用の目的である。

1.カルシウム(Ca)
 カルシウムは人体でもっとも多く存在する無機質で、成人体重の約2%(体重50kgの成人で約1kg)を占める。人体中のカルシウムの約99%は骨や歯などの硬い組織に存在し、生体を維持する働きをする。これらの硬組織はカルシウムの貯蔵組織としても機能する。残りの約1%のカルシウムは細胞や血液中に存在し、生命の維持に必要な機能の調節に重要な役割を果たしている。さらに遊離カルシウムの濃度は細胞内が細胞外より大きく、この差が情報伝達に関与している。
 生体内の細胞や血液中のカルシウム濃度は、副甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD、カルシトニン(甲状腺ホルモン)により一定に保たれている。さらに腸管からのカルシウム吸収を調節し、血液中のカルシウムを骨に沈着させ、骨のカルシウムを血液中に溶出させることによってカルシウム濃度が一定に保持される(図2-7)。したがって、カルシウム欠乏状態が長く続くと骨のカルシウム含量を低下させ、骨粗鬆症の原因となる。
 骨は硬組織ではあるが、約3ヶ月単位で骨吸収と骨形成を繰り返し、常に作り変えられている。
 細胞や血液中のカルシウムは、主としてイオンとして①細胞の分裂・分化、②筋肉の収縮、③神経の刺激、④細胞膜の透過性、⑤血液の凝固などに関与している。
欠乏症-血液中のカルシウム濃度はホルモンによって一定に保たれているので、カルシウム欠乏は貯蔵部位である骨にみられることが多い。幼児では骨のは発育障害、成長障害がおこる。高齢者、特に閉経後の女性では骨粗鬆症が多く見られる。

**骨粗鬆症**
 骨粗鬆症は骨の外形は変化せず、骨塩量の低下により内部が萎縮する疾病で、骨折の原因となる。骨折の後発部位は胸椎、腰椎、大腿骨頚部、上腕骨頭部である。人体の骨量は骨形成と骨吸収のバランスで定まり、骨量は青年期に最大骨量となり、それ以後男女ともに減少する。最大骨量が少ないほど発症しやすいので、青少年期までのカルシウム摂取は重要である。女性は閉経期以降、卵胞ホルモン(エストロゲン)の低下に伴い、発症が多くなる。本症はビタミンDの血中濃度が低く、副甲状腺ホルモン分泌が亢進して、骨量減少が進行する。予防として日光浴と運動が有効である。ビタミンK摂取も良い。また摂取するカルシウムとリンの比率は1:1程度がよく、同時にマグネシウムの摂取も必要である。減量経験者や低体重者は骨密度が低いので、注意が必要である。

2.マグネシウム(Mg)
 マグネシウムは人体に約0.05%(成人で約25g)存在し、リン酸塩や炭酸塩として骨に沈着し、また筋肉に多く、血液にはわずかしか存在しない。マグネシウムは300種以上の酵素の活性剤として働き、エネルギーの生産、アミノ酸の活性化、タンパク質の合成に関与している。また神経の興奮を抑制し、血管を拡張して、血圧を降下させる。その他、脂肪酸合成、ビタミンDの活性化、体温調節にも関与している。過剰症は発生しにくい。カルシウムの約半量摂取するのが望ましい。
欠乏症-マグネシウムが慢性的に欠乏すると虚血性心疾患などの心臓血管の障害をもたらす。欠乏が進行すると、神経過敏症、筋肉のけいれん、不整脈、循環器障害がみられる。

3.リン(P)
 リンはカルシウムについで多く存在する無機質で、成人体重の約1%(約500g)を占めている。そのうち、大部分がカルシウムとともに骨や歯に存在する。残りの大部分はタンパク質、脂質、糖などと結合した有機リン化合物としてすべての細胞に含まれ、細胞の構成成分として、また高エネルギーリン化合物(ATP)としてエネルギー代謝に供給するなど、多くの代謝反応に関与する。また遺伝情報を担う核酸にも含まれる。体液中のリン酸塩はpHや浸透圧の調節にも関与する。
欠乏症と過剰症-リンは日常食品中に十分含まれ、欠乏症はほとんどみられない。長期的に欠乏すると、骨の石灰化が阻害される。現在の日本の食生活では加工食品の利用増加に伴い、食品添加物として広く用いられているリン酸塩の摂取が多くなっている。リンの過剰摂取はカルシウムの吸収を低下させる。カルシウムとリンの摂取量の比率は1:1から1:2の範囲が望ましい。

4.鉄(Fe)
 鉄は体内に男性3.8g、女性2.3g含まれ、その60~70%が血液中のヘモグロビン、20~30%が肝臓、脾臓、骨髄などのフェリチン、ヘモシデリンに貯蔵鉄として、3~5%が筋肉中の酸素運搬・貯蔵物質のミオグロビンに、約1%が鉄含有酵素に存在している。体内に存在する鉄は機能鉄と貯蔵鉄に分けられ、貯蔵鉄の割合は男性は全身鉄の1/3であるが、女性は1/8である。食物中の鉄の形態は、ヘモグロビンやミオグロビンなどのヘム鉄や植物、乳製品、貯蔵鉄に含まれる非ヘム鉄(食品中の鉄の85%以上を占める)からなる。ヘム鉄の吸収率は非ヘム鉄の数倍高い。非ヘム鉄はビタミンCを同時に摂取すると吸収がよくなる。一方、穀類、豆類に含まれるフィチン酸、野菜などに含まれるシュウ酸、お茶に含まれるタンニンは吸収を低下させる。
 鉄は赤血球のヘモグロビンや筋肉細胞のミオグロビンの構成成分となり、酸素を運搬する。また種々の酵素に含まれATP生成に必要なため、エネルギー代謝にもかかわっている。
欠乏症-鉄欠乏は貧血、疲れやすい、頭痛、動悸を起こす。乳児では発育が遅れる。

5.ナトリウム(Na)と塩素(Cl)
 摂取した食塩はナトリウムイオンや塩化物イオンとして吸収される。吸収されたナトリウムは腎臓で調節を受けて、排泄される。ナトリウムは血漿浸透圧に関与している。血漿浸透圧が高くなると、脳視床下部の口渇中枢を刺激して水分摂取を促し、抗利尿ホルモンの分泌を刺激する。したがって、食塩の過剰摂取は高血圧発症因子である。高血圧発症の機序としては、循環血液量の増大が心拍手量を大きくすることによる。そのほかに腎臓のナトリウム排泄能の低下、内因性ジキタリス様物質の放出増大、交感神経亢進が考えられる。
 ナトリウムは体液の浸透圧の維持、細胞外液量の調節、酸・塩基平衡の保持、神経の興奮、筋肉の収縮、細胞膜の糖やアミノ酸の輸送などに関与している。
欠乏症-日常の食事でナトリウムが不足することはないが、多量の発汗に起因するけいれん、食欲不振、疲労などがある。
塩素は浸透圧の調節、酸・塩基平衡、胃酸としてペプシンやアミラーゼの活性化、膵液の分泌刺激などに関与している。
欠乏症-腎臓にカルシウムが沈着する。

6.カリウム(K)
 カリウムは成人で約100g存在するが、大部分は細胞内にある。ナトリウムとともに浸透圧の維持、神経刺激の伝達、筋肉の収縮、水分の維持などに関与する。カリウムは腎臓でのナトリウム再吸収を抑制して尿中への排泄を促進するため、高血圧症に対して降圧作用がみられる。
欠乏症-カリウムは多くの食品に含まれるので欠乏症はほとんどみられない。

7.亜鉛(Zn)
 成人の体内に約2gの亜鉛が含まれ、95%以上が細胞内に存在している。全量の50%以上が筋肉に、約20%が皮膚に存在している。血液中には全量の0.5%が含まれ、その70%が赤血球中に、10~20%が血漿中に存在する。亜鉛は100種類を超える亜鉛含有酵素として機能している。また中枢神経活動、免疫系の発達と維持、遺伝子の転写制御、細胞の増殖と分化などに関与している。
欠乏症-成長障害、食思不信、発疹、味覚障害、免疫能低下、皮膚障害が起こる。亜鉛の吸収は鉄やカルシウムと拮抗し、フィチン酸により吸収が阻害される。

8.銅(Cu)
 人体に70~100mg存在し、肝臓や脳に比較的多く存在する。銅は銅含有酵素として機能している。また乳児の成長、ヘモグロビンの合成、骨の合成に関与している。
欠乏症-ヘモグロビンの形成が減少して、貧血になる。骨折・変形を起こす。

9.マンガン(Mn)
 マンガンは人体では肝臓、膵臓などの組織に比較的多く存在し、骨の発育に必要とされる。炭水化物、脂質、タンパク質代謝における各種酵素の活性剤として機能する。
欠乏症-体重減少、骨の生育低下、生殖能力低下、運動失調。
10.ヨウ素(I)
 ヨウ素は人体に15~20mg存在し、その70~80%は甲状腺に含まれる。甲状腺ホルモンの成分として、タンパク質の合成や交感神経の感受性に関与している。
欠乏症と過剰症―欠乏症は日本ではまれであるが、世界的には内陸地域では多くみられ、甲状腺肥大、肥りすぎ、疲労、発育停止が起こる。過剰摂取によっても甲状腺腫や甲状腺機能障害を引き起こす可能性がある。

11.セレン(Se)
 グルタチオンペルキシダーゼという酵素の成分であり、この酵素は抗酸化作用を有し、過酸化脂質を還元する。生体内で過酸化物から細胞を防御する役割を持つ。
 克山病という心筋壊死をともなう心疾患は中国でみられ、セレン欠乏が基本的誘因と考えられている。セレン過剰症としては脱毛や爪の変形がみられる。

12.クロム(Cr)
 糖代謝、脂質代謝、発育、免疫力に関与する。クロムの必要量は極めて微量であるため、通常は欠乏しない。クロムを取り扱う作業者は呼吸器障害などの過剰症がみられる。

13.モリブデン(Mo)
 キサンチン酸化酵素、フラビン酵素、アルデヒド酸化酵素の補因子として機能する。食生活が原因の欠乏症は知られていない。モリブデンを過剰に摂取すると銅欠乏症を発症する。
(近藤雅雄:必須ミネラル、2015年7月8日掲載)

ビタミン(水溶性)

1.ビタミンB1(チアミン)
生理作用:ビタミンB1は糖質が体内で代謝されるときに必要な酵素の補酵素として作用している。食物から摂取された糖質はグルコースに変えられ、血液中を血糖(グルコース)として運ばれ、各臓器で利用される。このグルコースを完全に燃焼し細胞内でエネルギーに変えるには、解糖系、TCA回路、呼吸鎖などの経路が必要である。この解糖系とTCA回路を結ぶ酵素にピルビン酸デヒドロゲナーゼがあり、この酵素の反応には補酵素としてチアミンにリン酸が結合したチアミンピロリン酸が必要である。
欠乏症:糖質が多い食生活の場合にビタミンB1が欠乏すると、脚気(多発性神経炎、浮腫)やウエルニッケ脳症(精神障害、運動障害、眼球運動麻痺)を起こす。

2.ビタミンB2(リボフラビン)
生理作用:ビタミンB2は生体内ではフラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)として存在している。両者は多種類の酸化還元酵素に固く結合して存在するが、これらの酵素はフラビン酵素として知られ、生体内の酸化還元反応に関与している。また水素伝達系の構成員として水素の運搬をする。すなわちビタミンB2は糖質、脂質、タンパク質からエネルギー(ATP)の生成に関与している。
欠乏症:口角炎、舌炎、皮膚炎

3. ビタミンB6(ピリドキシン)
自然界にはビタミンB6の作用のある物質としてピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンの三つの型がある。生体内ではリン酸エステルとして存在しており、ピリドキサールリン酸(PLP)が活性型である。
生理作用:PLPは酵素の作用でアミノ酸と結合して、アミノ酸の代謝に広くかかわっている。したがって、タンパク質の摂取が多くなると、ビタミンB6の必要量が増加する。
欠乏症:ヒトでは腸内細菌によってビタミンB6が合成されることもあり、欠乏症は起こりにくい。欠乏が起これば皮膚炎、貧血を起こす。

4.ナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド)
ニコチン酸とニコチン酸アミドを総称してナイアシンという。体内ではリボース、リン酸、アデノシンと結合してニコチン酸アミド・アデニン・ジヌクレオチド(NDA)あるいはニコチン酸アミド・アデニン・ジヌクレオチド・フォスフェート(NDAP)として存在し、補酵素として作用する。
生理作用:NDAおよびNDAPは多くの脱水素酵素の補酵素として水素の伝達反応に関与し、糖質、脂質、タンパク質の代謝に広く関与している。
欠乏症:ペラグラ(皮膚炎、下痢、中枢神経症状(認知症))、口舌炎、胃腸病

5.パントテン酸
パントテン酸は補酵素コエンザイムA(CoA)の構成成分である。
生理作用:体内でパントテン酸は補酵素であるCoAとなり、脂肪酸の分解と合成など広範な代謝にかかわっている。
欠乏症:動物がパントテン酸欠乏になると、成長障害、皮膚炎等などが起きることがある。ヒトでは腸内細菌がパントテン酸を合成するので欠乏症はあまりみられないが、重症の栄養失調症では手足の麻痺や疼痛がみられる。

6.ビオチン
ビオチンは酵素タンパク質と固く結合してビオチン酵素を形成している。
生理作用:ビオチンは代謝過程で生成する二酸化炭素を糖質や脂質に固定するピルビン酸カルボキシラーゼやアセチルCoAからマロニルCoAカルボキシラーゼなどの補酵素として重要な役割を果たす。
欠乏症:ビオチンは腸内細菌によって合成され吸収利用されるので、通常の食生活では欠乏することはない。しかし生卵白を大量に食べると、卵白中のアビジンという糖タンパク質とビオチンが結合して吸収を阻害するため、欠乏を起こすことがある。卵白を加熱するとアビジンの作用は消失する。ビオチン欠乏では、皮膚炎、筋肉痛、食欲不振、悪心などの症状を呈する。

7.葉酸(フォラシン)
ホウレンソウから抽出した成分が乳酸菌の増殖に有効であることが見出され、葉酸と命名した。
生理作用:葉酸の活性型であるテトラヒドロ葉酸は、1炭素原子の転移反応の補酵素として作用する。たとえばグリシンからのセリンの合成、核酸塩基の合成、コリンの合成、ヘモグロビンのポルフィリン核の合成などに関与している。
欠乏症:葉酸が欠乏すると巨赤芽球性貧血となり、さらに口内炎、舌炎、下痢などの症状を呈する。

8.ビタミンB12(コバラミン)
分子中にコバルトを含むのでコバラミンとよばれる。生体内では補酵素型であるアデノシルコバラミン、メチルコバラミン、ヒドロキシコバラミンとして存在する。
生理作用:生体内での補酵素作用としてはメチル基、転移反応、核酸の合成、アミノ酸や糖質の代謝に関与している。
欠乏症:ビタミンB12は赤血球の成熟に関係があり、欠乏すると悪性貧血を起こす。しかし腸内細菌が合成するので、一般的に欠乏症は起こりにくい。

9.ビタミンC(アスコルビン酸)
ビタミンCにはアスコルビン酸(還元型ビタミンC)とデヒドロアスコルビン酸(酸化型ビタミンC)がある。アスコルビン酸は酸化されるとデヒドロアスコルビン酸となるが、この物質は還元されるともとのアスコルビン酸に戻る。ビタミンCは体内に広く分布しているが、摂取量が多くても体内の貯留量はそれほど増えず、尿中に排泄される。
生理作用:アスコルビン酸の強い還元力で下記のような生体内の種々の酸化還元反応に関与して、アスコルビン酸はデヒドロアスコルビン酸になる。
① 過酸化脂質の生成抑制、ビタミンEの作用を増強。
② 肝臓の解毒物質の代謝に関与。
③ コラーゲン(結合組織タンパク質)の生成に関与。
④ 副腎皮質ホルモンの合成に関与。
⑤ フェニルアラニン・チロシン代謝に関与。
⑥ 鉄の吸収促進。腸管内での吸収を高める。
⑦ 発ガン物質であるニトロソアミンの生成抑制。
欠乏症:ビタミンCの欠乏により、結合組織のコラーゲンの生成が不足し、毛細血管が損傷しやすく、歯ぐきや皮下の出血が起こる。そのような症状を壊血病という。また小児では骨の形成不全がみられる。

ビタミン(脂溶性)

1.ビタミンA(レチノール)
 ビタミンAは動物性食品に含まれるレチノールと、植物に広く分布するプロビタミンAであるカロテノイド類が存在する。カロテンには3種類あるが、食品中にはβ-カロテンがもっとも多く、しかもビタミンA効力がもっとも高い。
生理作用:①眼の網膜にある視覚を司る物質であるロドプシンの構成成分となっている、②上皮組織における粘膜の糖タンパク質の合成に関与し、機能を維持している、③成長促進、細胞増殖と分化の制御、免疫機能の維持に関与している。
欠乏症:ビタミンAが不足すると、ロドプシンの生成が低下するため、暗いところで物を見る機能が遅れ、夜盲症となる。上皮細胞の角質化が起こり、皮膚、粘膜の乾燥により、細菌感染に対する抵抗力の低下がみられる。
過剰症:過剰に摂取すると肝臓に蓄積されて、急性の脳圧亢進症、慢性では成長停止、関節痛、脂肪肝などがみられる。

2.ビタミンD(カルシフェロール)
 天然には植物起源のビタミンD2と動物起源のビタミンD3があり、両者の生理活性はほぼ同じである。紫外線照射によりビタミンDに変化するものをプロビタミンDといい、ビタミンD2はきのこなどに含まれるプロビタミンD2から、ビタミンD3は動物の皮膚に含まれるプロビタミンD3から生じる。
生理作用:ビタミンDは体内で活性型に変えられ、カルシウムの吸収や骨への沈着、骨からのカルシウムの動員を司っている。このカルシウムの代謝は種々のホルモンも関与している。
欠乏症:幼児期に不足するとくる病、成人では骨軟化症を引き起こす。
過剰症:食欲不振、体重減少が起こり、血中カルシウム濃度が高くなるので腎臓、心臓、動脈にカルシウムが沈着し、動脈硬化や腎不全を起こす。

3.ビタミンE(トコフェロール)
 ビタミンEは天然には8種類あるが、重要なのは生理活性がもっとも高いα-トコフェロールである。
生理作用:ビタミンEは抗酸化作用(酸化防止作用)が強く、多価不飽和脂肪酸が酸化されるのを防ぐ作用がある。細胞内にはビタミンEの大部分が生体膜に組み込まれて存在しており、ビタミンEは抗酸化作用を通して生体膜を正常に保つ作用をしている。
欠乏症:ビタミンEが不足すると、血漿のビタミンE濃度が低下し、細胞膜が破壊されやすくなり、赤血球が溶血しやすくなる。動物ではビタミンE欠乏により不妊症や筋肉の萎縮が起こることが報告されているが、ヒトでは明確ではない。
過剰症:明らかではない。

4.ビタミンK(フィロキノン)
 生理作用:血液の凝固にはプロトロンビンが必要であり、肝臓でのプロトロンビン合成にビタミンKが関与している。またビタミンKはビタミンDとともに骨の石灰化を促進して、骨形成に重要な役割を果たしている。
欠乏症:ビタミンKが欠乏すると血液中のプロトロンビンが減少して、血液の凝固を遅延させる。
過剰症:嘔吐、腎障害

イソフラボン

 ポリフェノール化合物の一種で、大豆胚芽に多く含まれる。イソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンと同じようなはたらきをするため、更年期の様々な症状に有効であり、また、抗酸化作用も認められ、がんの予防にも役立つとされている。とくに、骨粗鬆症の予防に有効といわれている。 

アルギニン

 牛乳、鶏肉、子牛肉、ナッツ類レーズン、玄米などに含まれ、成長ホルモンの合成に関与し、その他、動脈硬化の予防作用、免疫力を高めたり、筋力を増強する働きがあると考えられている。