[食育-6] 食生活の乱れ

私の例ですが、日本型食生活を送っていた20歳代までは非常に健康な数値となっています。しかし徐々に食生活が乱れ、44歳のとき完全に洋風型の食生活に 変わります。その結果、48歳のときには中性脂肪が850mg/dlと非常に高い数値を示し、臍周囲径も88cmと内臓肥満状態になっています。尿数値も 7.6mg/dlとなり、痛風予備軍といっていい状態です。48歳のとき、食生活を以前の日本型食生活に戻すことで、49歳では体重を12kg減らすこと に成功し、今年8月の人間ドックではすべて30代の数値に戻っています。実際にどのような食生活にしたかというと、ご飯、味噌汁、納豆、リンゴ1個、これ にシラスなどの和え物を加えた朝食を毎日きちんと摂るようにしました。 朝食をしっかり摂ると、その日一日を元気に過ごせ、健康食品などもいらなくなります。まさに約750年前、鎌倉時代の僧侶・道元禅師が『典座教訓』にあらわした「正しく食事をすることは、よい薬を服用するのと同じであり、人の身体を養い育てる」ということに他なりません。 食生活のリズムが乱れることによって生体リズムを乱し、病気につながっていくわけですが、私自身の体験からも明らかなように、原因である食生活リズムの乱れを取り除く、つまり朝食を毎日きちんと摂ることによって、生体リズムの回復が得られるわけです。 shokuseitatu-midare これを放置すれば、免疫能が低下し、生活習慣病になり、ひいては体質が変化し、それが次の世代に引き継がれていきかねません。食は命の根源であり、すべて の食べ物には命が宿っていること、日本人の体質にあった食事を摂ることが大切であり、正しい食生活を守ることで正常な生体リズムが獲得でき、それによって はじめて健康・長寿の体質がつくられることになります。その意味で、食育が非常に重要になってくるのです。

[食育-5] 生活リズムの乱れと食生活の乱れ

生活リズムの乱れと食生活の乱れは、互いに影響を及ぼしあいながら習慣化していきます。 funo-spiral その結果、生体リズムが乱れ、病気へと進行していくのです。食生活の乱れが生じる背景として、時間がない、食に対する興味がない、美味しくない、楽しくな い、多様なストレスといった身体的・精神的・社会的不健康があります。これが食欲の減退、食欲はあっても食べたくないといった現象を生み、朝食の欠食、 「こ食」を生じさせます。医療技術が高度に発達したにもかかわらず、生活習慣病が増加し、さまざまな生体機能が低下する理由として、食にその原因があるの ではないか。いわゆる「食原病」ではないかと容易に想像できます。

[食育-4] こ食

現代人は、誰しも何らかの「こ食」を経験しています。「こ食」とは一人で食事する弧食、自分の好きなものしか食べない固食、家の外で食事をする戸食などの8種類です。 8no-koshoku これらは明らかに偏食、奇食であり、こうした食事を長く続けていると生体のリズムが乱れ、味覚障害、学習・記憶能力の低下、体力の低下、免疫能の低下、対 人関係の障害、精神・神経障害などを引き起こします。これが最近若い世代に、子供の生活習慣病、アディクション、働く意欲の減退・喪失といった問題を生ん でいる原因の一つと考えられます。

[食育-3] 最近の日本人の食生活

ところが、最近の日本人の食生活を見ると、栄養バランスが崩れ、米消費の減退、脂質摂取量の増加といった豊食・飽食・崩食が起こっています。さらに1日3 食の食習慣が乱れ、団欒のない貧しい食事、際限のない食の多様化・自由化を招いています。これまで日本人が築いてきた伝統的な食文化が失われ、食料自給率 の減少、肥満、生活習慣病などの増加、学習能力・思考能力の低下、いじめ・引きこもり、膨大な食品ロス、地産地消の崩壊といったさまざまな問題が噴出して いるのです。 ima-nihonde また食生活の乱れからくるさまざまな問題に対処するため、多様な健康食品が生み出されていますが、そうしたものの大量かつ長期的な摂取が、将来、私たちの 健康に及ぼす影響についてまだ科学的なエビデンスが得られないのが現状です。こうした現象の背景には、命に対し感謝する心が欠如しているからではないかと 考えられます。

食育-2日本の食文化について概観

ここで、古来から培われてきた日本の食文化について概観してみます。 nihon-shokubunkakara 日本の食の特徴は、多様な自然、風土、四季から得られる豊かな食材を活用し、粗食あるいは素食と呼ばれるご飯を中心とした伝統食を長年続けてきたことにあ ります。こうした日本型食生活が、日本を世界一の長寿国にした重要な要因の一つであることは誰もが認めることでしょう。こうして得られた健康・長寿によっ て、日本は世界でもトップクラスの多様な文化、科学技術、経済力を獲得することができました。

食育-1生活の乱れが生む生体リズムの乱れ

国立健康・栄養研究所の近藤です。本日は、現代の健康問題を日本人が古来から獲得してきた「日本型食生活」の観点からとらえなおすとともに、日本型食生活 が欧米型の食生活と比べてどう優れているのか、さらに高齢者に対する食育啓蒙が食育全体に及ぼす効果に関する介入試験の結果をご紹介し、最後に健康食品の 現状と食育について簡単にご紹介したいと思います。 戦後の60年間で、日本人の衣食住は劇的な変化を遂げました。その流れを一言でいってしまえば「スローライフからファーストライフへの移行」ととらえる ことができます。特に人の健康の根幹をなす食については、いわゆる日本型から洋風型へと変化し、これが生活のリズムに変化を与え、ひいては生体リズムにも 影響を及ぼしていると考えられます。これが生活習慣病増加の原因といっていいでしょう。 日本文化の変遷