生活習慣病予防対策の簡単レシピの1例

生活習慣病7疾患の予防に対する最新の食生活話題について紹介した。

1.がん予防 
 みかんの皮を熱湯消毒し、天日干しで数日間乾燥させる。その後、粉砕して食する。精油のリモネン、フラボノイドのヘスペリジン、カロテノイドのβ-クリプトキサンチン、水溶性食物繊維のペクチン類など作用メカニズムの異なる様々ながん予防物質が見つかっている。

2.認知症予防
 カマンベールチーズ(白いカビ様の部分)にオレイン酸アミド、デヒドロエルゴステロールが含まれ、認知症の原因であるβアミロイドを減らす。より効果的なのはカマンベールチーズに赤ワインを2~3杯程度飲むのが良い。または、ビールの苦み成分、ホップ由来のもので、イソα酸が肥満抑制効果、発がん抑制効果、骨密度低下抑制効果、アルツハイマー病予防効果があることが報告されている。

3.心臓病
 LDL-Cの減少作用→さばの水煮缶(マルハ)にEPA(1.87g/缶)含まれ、1g/1日、1缶/1日。EPAは熱に弱いので、サラダなどで摂取する。大根(イソチアシネート)、たまねぎ(イソアリイン:涙を出す成分)と一緒に摂取するとより効果的。

4.便秘
 食物繊維の1日の必要量:男性20g、女性18gであるが、必要量を満たしてる人は少ない。そこで、100g当たりの食物繊維の含有量多い レタス 1.1g、ごぼう 5.7g、干し柿14g(柿1.6g)にオリーブオイル(オレイン酸含む)をかけ、1日2回、朝と夕方摂取すると良い。野菜としての必要量は一日350gとなる。

5.高血圧(1/3人)
 血管収縮による高血圧対策として、抗酸化物質ポリフェノールを摂取する。100g当たりのポリフェノール量 りんご220mg、赤ワイン180mg、チョコレート840mg。72%以上のカカオが含まれているチョコレートを1日25g摂取する。また、合谷を指圧すると良い。

6.花粉症
 花粉症のIgE抗体を減少させる食材。れんこん(タンニン、ムチン含む)含まれ、40g/1日皮ごと輪切りや細かくしてポタージュスープなどで摂取する。2週間で効果があり、また、レンコンをすって綿棒で鼻に塗付しても効果あり。果実じゃばら(邪払;スーパーフラボノイド、ナリルチンが有効成分)や杉茶(主成分は杉葉精油)も効果がある。

7.糖尿病(Ⅱ型95%、1/5人)
 トマト(赤い色素リコピン(抗酸化物質)が果肉に含まれる)は血糖値を下げ、トマトをジュースにして摂取する。オリーブオイルをさじ1杯加え、レンジで温めて飲むと4.5倍リコピンの吸収率が高まる。血糖降下剤と同じ効果がある。160㎎→110㎎に低下する。
(掲載日:2019年4月2日、近藤雅雄)

こころとからだの健康(17)皮膚とこころ

 東洋医学において皮膚は最も重要な器官である。皮膚の生理作用は保護作用、感覚作用、体温調節作用、吸収作用、分泌・排泄作用、呼吸作用などが知られているが、近年の分子生物学の発展によって、内分泌作用の発見など新たな展開を迎えている。
 近年、皮膚のケラチノサイトがオキシトシンなどのホルモンを生産・内分泌し、他の細胞にいろいろ働きかけていることや様々なホルモンに皮膚が応答することが相次いで報告された。すなわち、グルタミン酸やγアミノ酪酸(GABA)、アセチルコリンやドーパミン、アドレナリンなどの生体物質にケラチノサイトが反応すること。さらに、記憶や学習に関与する脳の海馬にNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)グルタミン酸受容体が局在し、これが表皮でも見出されたこと。これらの結果から、皮膚はこれまでの生体情報連絡系である神経‐内分泌‐免疫の三大システムに皮膚が加わり、「皮膚と脳」「皮膚と免疫」「皮膚とこころとからだの健康」など、生体機能との関連性に興味が持たれる。
近藤 雅雄(東京都市大学)平成31年4月2日掲載
以下のPDF参照
PDF:こころとからだの健康(17)皮膚とこころ

東西医学研究~研究成果報告の方法

 東西医学研究が注目されている。長い間、伝統医学として親しまれてきた東洋医学が昨年6月に漸く国際的に求められ、西洋医学に遅れること118年、WHO(世界保健機関)国際疾病分類第11回改訂に初めて伝統医学が加わり、2019年の5月に開催されるWHO総会の承認を待つのみとなった。
 このことは新しい鍼灸伝統医学の幕開けであり、鍼灸にかかわる研究が一層加速することが推測される。そこで、「研究の質の向上が治療・教育の質の向上を担保する」ように、研究成果の報告の方法について、以下の内容に従って記載した。

内 容

1.研究発表および研究論文を書く意義
2.研究のフロー
3.文献の検索方法、文献とは
4.論文抄読(査読)の方法
5.学会抄録の書き方
6.学会および学術会議発表のしかた
7.研究論文の書き方
8.研究論文を書いてみよう
9.研究の評価、論文の評価
10.参考資料:伝統医学と日本の医療~鍼灸医療の発展を期して
以下のPDFを参照されたい。
(近藤雅雄、掲載日:2019(平成31)年3月13日)
PDF:東西医学研究2018

伝統医学と日本の医療(2)~鍼灸医療の発展を期して

 鍼灸師を志す学生は医療に対する高い志を持ち、優秀で、まじめで、そして研究熱心である。これら学生がさらに飛躍し、日本の保健・医療・福祉に貢献することを願って止まない。
 しかしながら、近年、鍼灸師養成校として歴史があり、長年実績のあるいわゆる伝統校への入学者数が急速に減少している。この理由の一つとして、学校養成施設が大幅に増加(平成10年度の14施設に対して現在93施設)したことが挙げられる。この減少はあん摩マッサージ・指圧師、柔道整復師養成に実績のある各伝統校でも同じである。このことは今後の日本医療にとって大変な危機感を覚える。そこで、日本の医学・伝統医学の発展を祈念して、日本における鍼灸医療の発展の歴史を中心として私的にまとめた。
 現在、世界的に伝統医学の見直し・推進が起こっている。日本では、各種伝統医学の中でもとくに鍼灸医療を中心とした東洋医学が科学的な根拠を積み重ね発展してきている。しかし、鍼灸医療は西洋医学を根幹とした医療制度の中では、戦後70年を経た今でも未だに補完・代替療法としての位置付けである。
 さて、鍼灸師を目指す学生並びにすでに鍼灸師として活躍している治療師が最も心身の拠りどころとする組織が(公社)全日本鍼灸学会や(公社)日本鍼灸師会である。これら組織が中心となり、日本の鍼灸医療の未来を見据え持続的な発展を目指した医療行政の改革を期待したい。さらに、日本鍼灸の学術的・臨床的研究を通して、質の高い科学的根拠を蓄積し、確固たる地位を構築することを望む。
 鍼灸師養成機関(専門学校や大学)、鍼灸医療関連組織並びに鍼灸師の益々の発展・活躍を願い、下記に論文としてPDFにて掲載した。(近藤雅雄:平成29年1月19日掲載) PDF:伝統医学と日本の医療,(2)鍼灸医療の発展を期して(国際) 

受験生がんばれ ‼~受験に成功するための戦略と心得

 毎年、1月から3月は学校の定期試験、入学試験、様々な資格にかかわる試験、昇格試験など人生を左右する大きなイベントが集中し、受験の季節となります。この時期は、冬から春にかけて気象の変動が著しく、インフルエンザなどの風邪や自己免疫性疾患や持病などの症状が出現しやすい季節でもあります。これらを乗り越えて、漸く春がやって来ます。
 ここでは、受験に失敗しないための戦略とその心得の一例を紹介します。
1.試験前
1)計画を立てる。PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)に従う。
 試験の日程が決まったら、それに合わせて自分に合った試験準備を計画、これを実行し、勉強の方法・準備が適切であるかを評価する。その際、ムリ、ムダ、ムラの「3ム」がないよう、何度も繰り返し、最適な方法を考える。自分に合った勉強法が確立したら、それを実行する。
2)過去問題を徹底的に調べる。
 試験に出題される内容の重要ポイント(キーワード)はいつの時代も同じです。したがって、過去に出題された問題を繰り返し実施し、これを理解すれば試験準備は十分です。
3)体調を万全にする。
 季節的にも風邪や持病などが発生しやすい時期なので、こころとからだの健康管理を怠らないよう、強い意志と自信をもって日常の生活と体のリズムを守り、自己管理を行って下さい。

2.試験前日
 試験前日には試験勉強を行わないで、翌日に備え受験票や筆記用具などの準備を完璧に行い、カバンにしまって、早めに寝る。その際、絶対合格するという自信を持つことが大切です。

3.試験期間中
1)試験会場に30分前には必ず到着する。
 前もって試験会場を下見し、余裕をもって試験会場に到着できるよう交通機関などを調べておく。また、交通機関のアクシデントに備え、迂回路も調べておき、少なくとも30分前には会場に到着し、トイレなども済ませておきたい。
2)試験を受けるためのPDCAサイクルを考える。
 試験用紙が配布されたら問題全体を速読し、簡単な問題から解答し、難解な問題は後回しにする。問題順に一つひとつ解答していくと、難解な問題に遭遇した時に、それに関わる時間があっという間に過ぎてしまい、時間が足りなくなり、これが致命傷となることがあります。まずは、問題全体を早めに把握しておくことが大切です。
3)試験が終了した後の心構え。
 試験が終了してからも、ケアレスミスがないかを確認することが大切です。必ず、何度も問題と解答を見直す。また、迷った時は、最初に解答した答えが正解のことが多い。

4.試験終了後
 試験がすべて終了したら、自宅などで問題を必ず見直し、間違っていないかを確認する。間違いが確認されたら直ちに修正する。この確認作業はその後の人生においても、同じ間違いは絶対に繰り返さないという「考え抜く力」「課題発見・解決力」などが養われるますので、必ず行って下さい。(近藤雅雄:平成30年12月7日掲載)

こころとからだの健康(16)血液型と病気

 かつて、血液型といえば几帳面なA型、自由奔放なB型、指導力のあるO型、天才肌のAB型など、また、大脳の右脳と左脳との関係ではA型は左脳、B型は右脳、AB型は左右全体、O型は左脳または右脳の発達が各々優れているなどと言った科学的根拠のない「性格診断」や「占い」が流行った。
 しかし、近年、分子生物学の急速な進展によってABO式血液型と病気の関係についての報告が多くみられるようになった。例えば、O型は胃がんや膵がんになりにくい。前立腺がんの再発率が一番低い。心筋梗塞になりにくい。認知症になりにくい。糖尿病になりにくいなど。また、ノロウイルスの一種であるノーウォークウイルスに感染しないのはB型で、スノーマウンテンウイルスに感染しないのはO型である。貧血になりにくいのはB型、AB型。とくにB型女性はなりにくい。肺塞栓症(エコノミークラス症候群)はO型が一番低い。牛肉アレルギー患者の血液型はA型かO型で、B型、AB型の人は罹らない。などの報告が相次いで出てきている。
 今後、血液型による治療法の違いやこころとからだの健康との関連性などの報告が出てくることが推測されるが、これらの結果に対しては個人差や生活習慣・環境などの違いもあり、さらに基礎的研究および疫学調査による統計学的研究等による更なる科学的根拠が必要であることは言うまでもない。これら血液型に関する最新の話題をPDFに纏めた。(近藤雅雄:2018年12月6日掲載)PDF:こころとからだの健康(16) 血液型

こころとからだの健康(15) 脳を元気にする食と栄養素

「こころとからだの健康(10)脳に良い食品、食品機能性食品とその成分」の改訂版である。
 脳は大脳、間脳、脳幹および小脳から構成され、心身(こころとからだの働き)の司令塔である。とくに、大脳皮質は感覚・運動の統合、意志、創造、思考、言語、理性、感情、記憶を司り、前頭連合野は人間中枢とも言うべき重要な働きを行っている。脳を元気にするためには脳に必要な栄養素の摂取と適度な有酸素運動の実施および良い睡眠をとることが基本である。
 近年、アルツハイマー病やうつ病などの疾病が社会問題となっている。2015年、国際アルツハイマー病協会は認知症の新規患者数は毎年約990万人、2050年には1億3200万人に達し、現在(約4680万人)の3倍になると“世界アルツハイマー報告書2015”に発表した。高齢社会においてその数は急激に増加している。認知症には①アルツハイマー型、②脳血管性、③レビー小体型、④ピック病、⑤混合型、⑥その他などがあるが、この内、70%近くがアルツハイマー病であり、酸化ストレスが病気の進行に大きく寄与している。また、最近、疲労の原因は脳の眼窩前頭野で疲労感として自覚することによると言われ、これも酸化ストレスが関わっている。
 そこで、本論文では情報化・高齢化の時代に認知症やうつ病などの脳の障害を予防し、いつまでもイキイキした脳を維持するために必要な食品および有効成分について文献調査を行った。

Ⅰ.脳が元気になる食品
 人は美味しいものを食べると自然と笑顔となるが、これは脳が元気になったのではない。逆に、濃い味付けや甘いものなどは習慣化し、脳はじめ多くの生体機能にダメージを与えるので注意する。自らの健康は自らが守ることを意識し、脳に良い食品を意識的に摂取することが大切である。

Ⅱ.脳の活性化が期待される主な有効物質
 脳の機能保持には脳の構成材料、脳代謝に不可欠な栄養素および酸化ストレスに対する抗酸化物質の摂取を日常的に意識して摂取することが望ましい。抗酸化物質として、ポリフェノールは植物の色素や苦味の成分であり、アントシアン、タンニンやカテキンなどのタンニン類、ケルセチンやイソフラボンなどのフラボノイド類からなる。フラボノイドは植物に広く存在する色素成分でクロロフィルやカロチノイドと並ぶ植物色素の総称である。広義には赤、紫、青を発するアントシアニンもフラボノイドに分類される。フラボノイドを豊富に含んでいる食品としてはチョコレート、ココア、緑茶、紅茶、赤ワインなどが知られ、注目されている。
 これら抗酸化物質の作用としては活性酸素を除去し老化抑制、抗凝固、血圧降下、消臭、血管保護および血流増加、動脈硬化や心臓病の予防、免疫力増強、抗菌・抗ウイルス・抗アレルギー、血管保護、抗変異原性、発癌物質の活性化抑制など、多様な作用が推測されている。ビタミンC・E、クエン酸を含む食品と併用すると抗酸化作用の相乗効果を示す。
 なお、抗酸化物質についてはいずれも食品として摂取することが望ましく、サプリメントとして摂取する場合は過剰摂取による問題などがあり、十分に配慮することが大切である。(近藤雅雄:平成29年3月25日投稿)
内容の詳細をPDFに記載した。 PDF:こころとからだの健康(15)脳を元気にする食と栄養素2017.3.25

ポルフィリン症研究の歴史と世界及び日本の第1例報告

 ポルフィリン症は「病気の主座がポルフィリン代謝の異常にある一群の疾患」と定義する。ポルフィリン症はポルフィリン・ヘム合成の中間代謝物が過剰に体内に蓄積することによって発症する遺伝性の難病で、患者は皮膚、消化器、精神・神経、循環器、運動器、内分泌等の多彩な機能障害および症状を呈することが特徴である。
 ポルフィリン症は医聖ヒポクラテスにより既に紀元前460年頃に記載されていることが報告されている1)が、今日的には1874年Schultz2)による先天性骨髄性ポルフィリン症(congenital erythropoietic porphyria, CEP)と思われる症例報告が初めてである。その後、1912年、有機化学者のH. Fischer3)によってポルフィリンの本格的な研究がスタートし、患者のぶどう酒様の尿の中から赤い色素を分離し、その構造を決定してからポルフィリンの生化学、臨床医学が急速に進展した。本症の原因は長い間不明であったが、1950年代には米英の研究者により、ヘム合成に関与する各酵素が発見され、ポルフィリン・ヘムの生合成経路が解明された。その後、1960~1970年代には各種遺伝性ポルフィリン症の発見および酵素異常が次々と明らかにされ、1995年までにすべてのポルフィリン代謝系酵素cDNAのクローニングが完成し、ポルフィリン遺伝子異常の解明が一気に進んだ。現在では生化学的、分子生物学的、臨床医学的に総合的なアプロ-チが成されるようになった。
 ここでは、ポルフィリン症の基礎と臨床の研究が一体化して歩んできた歴史的事実と、ポルフィリン症の各病型について世界および日本で初めて発見された症例を紹介する。(近藤雅雄:掲載日2017年3月5日) PDF:ポルフィリン症研究の歴史と世界及び日本の第1例報告

Porphyrias(ポルフィリン症総説)

Porphyrias are a group of disorders, which induce excess production of porphyrins, as well as cause their accumulation in the tissues. They also increases the excretion of metabolites, as a result of inherited or acquired deficiencies in the activities of the enzymes of the heme biosynthetic pathway. There are 8 types of porphyria. Like other congenital metabolic disorders, this disorder is very rare, has attracted attention for a long time because of its specific symptoms. Porphyria manifests a wide variety of symptoms, including cutaneous, psychoneurotic, gastrointestinal, and endocrine; endogenous and exogenous environmental factors influence the manifestation of these symptoms. Therefore, acute porphyria may be fatal because of false and/or delayed diagnosis. A poor prognosis may be anticipated. Therefore, it is important that we have accurate knowledge of porphyria. This article reviews on the abnormal porphyrin metabolic disorder.遺伝性ポルフィリン症総説論文、以下のPDF参照(近藤雅雄、2017.1)PDF:Porphyrias

こころとからだの健康(14) 遊びから学ぶ幼児教育、子育て習慣および期待される人材

 この数十年の間に子育てに関する社会環境は大きく変化しました。核家族化や男女共同参画社会の進展など、例を挙げればきりがありません。そうした現代社会において最も懸念されるのは、子育てをする親が孤立してしまうことです。そこから多様な悲劇が起こるとも限りません。昔は大家族、そして近所に子どもの遊び場が沢山あり、親子ともども自然に地域コミュニティーが形成されていました。しかし、都市化と共にそうしたコミュニティーは徐々にその姿を消し、結果として子育てについて気楽に相談できる環境も減少しています。子育てには周囲のサポートが不可欠です。家族の協力は勿論のこと、地域社会の協力も必要です。どれだけ時代や社会環境が移り変わっても、「子どもは一人で育てるものではない」ことに変わりはありません。
 そこで、幼児教育の基礎と子育て習慣について考えました。現在、子育て中の保護者の参考になれば嬉しいです。(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

幼児教育の基本~人間形成の基盤を成すこころの教育とは
この地球上にて生を受けた人間は地球の恵みに感謝し、自然の恵みを大切にする。そして、自分自身を愛し、家族、友だちを愛し、社会、地球を大切にできる。そんな人間らしさと幸福感に満ちた環境にて子どもを育て、次代に繋いで行く。それが親の責任だと思います。子育て並びにヒトの本質はいつの時代も同じであり、それは「遊ぶこと」です。遊びの環境を設定し、育てるのが保護者の役割です。
 多様な遊びは様々な体験・体感を通して、生きるこころと力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころを学びます。これが人間形成の基盤を成すこころの教育であり、人としての基礎となります。
 そのためにも、「教育」を共に育むとした「共育」のこころを持つことです。父親、母親の育った環境とこれからその子どもが育つ環境では20年以上の隔たりがあり、それと共に成育環境は大きく変化しています。したがって、子どもの目線で子どもの育つ時代の環境にて子どもを育むことが大切です。

遊びから学ぶ子育て
 人間には「言語的知性」「音楽的知性」「絵画的知性」「論理数学的知性」「身体運動的知性」「感情的知性」「社会的知性」という8つの知性があると言われています。これらの知性は就学前の4~5歳前後をピークとして形成されるもので、「遊び」によって育まれます。人間の知性、こころは脳の活動に直結していますので、就学前こそ、幼児教育に必要な多くの遊びや体験・体感によって、豊かな知性を育むことが重要で、それが成人になって一つまたは複数の知性が大きく育つ要因になります。
 多くの親が子どもの「教育」について悩んでいるようですが、子育てには迷いや不安はつきものです。難しく考える必要はありません。なぜなら、子どもの成長に最も必要なのは、この「遊び」だからです。とくに幼少期の教育は「遊びの場を用意してあげること」くらいに考えて丁度良いのではないかと思います。お父さん、お母さんはまず、子どもと一緒に遊んであげることから始めましょう。楽しそうな親の姿を見ると、子どもはもっと楽しくなります。そうすると図に示しましたが、好奇心・集中力が増し、さらに多くの事を遊びから吸収するようになります。それが創造力や自発性、課題発見力、さらには生きる力へとつながっていくのです。
 もちろん、親も子どもが遊ぶ中から学ぶことは沢山あります。よく言われることですが、やはり教育は「共育」、育児は「育自」なのです。ぜひ「子どもと」遊ぶ中で「子どもを」学んでください。学びに対する親の姿勢は、必ず子どもに受け継がれていきます。“共育の質の向上は人生の質の向上を担保する”ように子どもとその家族はそれぞれの道、人生に一つの目標・志を持ち、前向きに生きるこころを身に付けます。そして、“社会が求める人間力”が育まれます。

社会が求める人材
 “社会が求める人間力”とは図に示しましたように、3つのパワーから成ります。これは社会・国家が求める人材であり、この基礎が幼児期の「遊び」から養われます。人間社会で生きる上で重要なこの3つのパワーとは、①前に踏み出す力(action power);すなわち、主体性を持って前向きに働きかける力、実行力、②考え抜く力(thinking power);すなわち、課題発見力、計画力、創造力、③チームで働く力(teamwork power);すなわち、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、起立性、ストレスコントロール力が身に付きます。これらの基礎力を身に付ける上で基本となるのが、以下に挙げた家族の子育て習慣です。

父親・母親の良い子育て習慣
1.家族の間で、朝起きたら「おはようございます」と言い、毎日挨拶を欠かさないようにしましょう。また、一日に最低一度は食事など団欒の時間を作りましょう。
2.家族は毎日きれいな言葉を使うように努力しましょう。子どもに「お前」「てめえ」「がき」などの汚い言葉で呼ばず、一人の人間として人格を尊んで名前で呼んでください。
3.家族はすべて一人ひとり、お互いに人として尊敬し合い、お互いが感謝のこころを持って接するように努力しましょう。
4.家族は一つの組織です。一人で頑張らないで家族で協力・分担して、日常的に楽しく笑顔を絶やさないよう前向きに生きる努力をしましょう。また、子育てを応援してくれる良い友達を複数持ち、コミュニティーを大切にしましょう。
5.子どものこころの痛みを自分のこころの痛みとして感じる「思い遣り」のこころを持ちましょう。また、子どもとのスキンシップによるコミュニケーションを大切にしましょう。
6.お互いを理解し合い、人の言うことをよく聞きましょう。また、何でも相談し合える環境を創るよう努力しましょう。こ れらが人間関係を形成していく上で大切になります。
7.子どもを泣かすより笑顔を引き出すように努力しましょう。子どもが病気でもないのに泣くのは、悲しいか、怖いかのどちらかです。子どもの気持ちを理解することが大切です。
8.子どもが良いことをしたときや、言うことを聞いたとき、頑張ったときなどは積極的にほめてあげましょう。叱りつけるよりもほめることを優先し、子どものやる気・意欲・能力を引き出すように努力しましょう。「教育」とは「引き出す」という意味でもあります。
9.自然に接する機会をたくさん作り、体験・体感を豊かに育てましょう。ノーベル賞学者など世の中の偉人と呼ばれる人のほとんどが、幼児期には遊びの多い自然の中で育っています。
10.「sense of wonder」という言葉があります。これは「不思議さや神秘さに目を見張る感性」を指し、子どもの教育に大変重要です。子どもは成長過程で様々な体験・体感を通して好奇心、自発性、創造力をからだとこころで育みます。

参考図書
1.近藤雅雄:子育てハンドブック、Tokyu Child Partners、東急グループ、2015
2.澤口俊之:幼児教育と脳、文春新書、2004
3.浜尾実:子どもを伸ばす一言、ダメにする一言、PHP文庫、2001
(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

旧国立公衆衛生院にて創設された旧ポルフィリン研究会に出席

 2016年4月22日、31年間通った港区白金台の旧国立公衆衛生院を久し振りに拝観しました。その後、本院の隣に位置する東京大学・医科学研究所にて開催された第6回ポルフィリンーALA学会年会に久しぶりに出席し、またその帰途、敷地内で国立公衆衛生院時代の同僚であった図書館の磯野威さんと偶然に出会ったことは驚きでした。

本学会設立の経緯
 私は旧国立公衆衛生院にて、31年間、厚生行政に関わる研究・教育活動を行いました。その間、今から30年前の1986年にALAの代謝を行うALA-D酵素が亜鉛酵素であることが分かり、臨床医学、公衆衛生学・衛生学・産業衛生学、生化学、植物学、栄養学など多分野から注目され、そこで、職場の仲間と共にALAD研究会を創設しました。4年後の1990年には、研究領域を拡大・全国組織として、ポルフィリン研究会と名称変更・規約を作成し、国立公衆衛生院にて第1回の学術大会総会を開催すると同時に査読付論文掲載雑誌「PORPHYRINS」を定期的刊行物(季刊)として出版を始めました。当時は年に2回研究発表会、4年に1回国際学会を行っておりました。
その後、時代は変わり、2011年にALA研究会を主宰する先生方とポルフィリン研究会を主宰する先生方によって、両研究会が統合され、「ポルフィリン‐ALA学会」が誕生しました。

 写真の建物は旧国立公衆衛生院
 2002年(平成14)4月に、旧厚生省の付属試験研究機関再編成によって64年の歴史を閉じました。建物は現在もそのままの状態で残っています。この建物は米国ロックフェラー財団の寄付によって建てられ、竣工当時は国会議事堂の次に高い建物で大変眺望が良かったそうです。日本建築学会が編集した日本建築物総覧(1980年)には特筆に値する建築物14000件および特に重要な2000件の中に本院建物は含まれ、同会長名による「近代日本の進歩と地域景観に寄与した」として、永く保存されたき旨の依願状を受けています。本院で31年間、教育・研究活動に身を投じて行ってきた一人として、重要文化財に近いものとして永く保存されることを願っています。本院は日本の公衆衛生学発祥の地です。
 現在、本施設は港区の郷土歴史館複合施設「ゆかしの杜」として新たなスタートをし、一般公開されておりますので、ぜひご見学下さい。(近藤雅雄:平成28年4月25日掲載)

子どもとくすり~くすりの正しい使い方と安全管理

 くすりについての知識は経験上知り得たものが殆どであり、改めて学ぶことはないと思う人が多いのが現状ではないでしょうか。しかしながら、子どもに対しては保護者がくすりの安全性を十分認識した上で投与することが責務となり、くすりに対する知識が必要となります。その理由は、医師または薬剤師から処方される薬にはすべてリスク(副作用、危険性)があり、処方を間違えるといのちにかかわる重大事故につながりかねないからです。
 したがって、誰でも一度はくすりについての基礎的知識を学び、病気の治療・予防、さらに医薬品の管理について学んでおく必要があります。とくに、子どもを持つ保護者、保育園や幼稚園など保育・教育に関わる先生および施設では必ず学習してほしいと願っています。
 そこで、本論文では医薬品に関する基礎知識、くすりの正しい使い方、くすりの副作用と相互作用、妊娠・授乳とくすり、くすりの保管、くすりの記録についてまとめました。以下のpdfを参照して下さい。(掲載年月:平成28年4月23日) 子どもとくすり,pdf

「コンパクト応用栄養学」第2版出版の紹介

 株式会社朝倉書店より、ヒトの生涯に関わる応用栄養学領域のエッセンスをわかりやすくまとめ,「日本人の食事摂取基準(2015年版)」および「管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)」に準拠した「コンパクト応用栄養学」第2版が出版されました.B5版,158ページ.  
目次
1 栄養ケア・マネジメント
 A 栄養ケア・マネジメントの概念
 B 栄養スクリーニング
 C 栄養アセスメント
 D 栄養ケア計画の実施,モニタリング,評価,フィードバック
2 食事摂取基準の基礎的理解
 A 食事摂取基準の意義
 B 食事摂取基準策定の基礎理論
 C 食事摂取基準活用の基礎理論 D エネルギー・栄養素別食事摂取基準
3 成長,発達,加齢(老化)
 A 成長,発達,加齢の概念
 B 成長,発達,加齢に伴う身体的・精神的変化と栄養
 C 加齢(老化)に伴う身体的・精神的変化と栄養
4 妊娠期,授乳期
 A 妊娠期・授乳期の生理的特徴
 B 妊娠期・授乳期の栄養アセスメントと栄養ケア
5 新生児期,乳児期
 A 新生児期・乳児期の生理的特徴
 B 新生児期・乳児期の栄養アセスメントと栄養ケア
6 成長期(幼児期,学童期,思春期)
 A 幼児期・学童期・思春期の生理的特徴
 B 幼児期・学童期・思春期の栄養アセスメントと栄養ケア
7 成人期
 A 成人期・更年期の生理的特徴
 B 成人期・更年期の栄養アセスメントと栄養ケア
8 高齢期

 A 高齢期の生理的特徴
 B 高齢期の栄養アセスメントと栄養ケア
9 運動・スポーツと栄養
 A 運動時の生理的特徴とエネルギー代謝
 B 運動と栄養ケア
10 環境と栄養
 A ストレスと栄養ケア
 B 特殊環境と栄養ケア
付録(用語解説,参考資料:食事摂取基準,食育基本法,食生活指針,食事バランスガイド)

序 論
 朝倉書店から出版されている「コンパクト栄養学」シリーズ、『コンパクト公衆栄養学』『コンパクト応用栄養学』『コンパクト基礎栄養学』『コンパクト臨床栄養学』『コンパクト食品学』は他社から発行されている多くの栄養学シリーズとは異なって,病気の予防,健康に関する正しい知識と技術を普及・啓発し,地域,社会集団の栄養改善さらには健康の維持増進を図る学問としての幅広い領域をわかりやすくコンパクトにまとめた教科書です.
 今回、第2版の出版となった応用栄養学はかつては栄養学の一部として扱われてきましたが,その後,特殊栄養学,栄養学各論と名称が変わり,応用栄養学へと進化しました.内容は成長・発達・加齢といった人の生涯における栄養管理として,新生児期から高齢期までの各ライフステージ別に,また妊娠期,授乳期,更年期・運動・スポーツ,環境と栄養について項目ごとにまとめました.
 本書は,2015(平成27)年2月16日に厚生労働省ガイドライン改定検討会より提出された新ガイドラインおよび2014(平成26)年3月28日に公表された「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に従い,第一線にて活躍している教育・研究者によって執筆・改訂を行ったものです.管理栄養士等養成校の学生は勿論のこと,保健・医療・福祉などに関わる領域を勉強している学生,一般社会人にもわかりやすく「コンパクト」にまとめています.本書をしっかりと学習し,社会に貢献して行って欲しいと願っています.(近藤雅雄:平成28年4月2日掲載)

日本人の食生活解析

はじめに
 日本の食生活は経済成長と共にこれまでの米を中心とした日本型食生活から欧米など世界中の料理、ファーストフードや健康食品というものを自由に取捨選択し、食べたいときに好きなものが食べられる豊かな自由型へと変った。このような豊食(飽食、崩食)の時代になると共に、アレルギー、がん、生活習慣病、認知症などの増加といった新たな課題が出現してきた。
 本稿では、最新の主な食生活事情について分析・考察を行った。

1.食生活の変遷と食のあり方
 現代人は、食あるいは栄養に関する科学的な知識は殆ど持ち合わせることなく、好きなものを好きなときに好きなだけ、あるいは今あるものを寄せて食べる傾向が増えている。食生活はと言えば少子・高齢・核家族化の進展と共に「こ食」(孤食、小食、固食、個食、粉食、濃食、戸食など)が習慣化している。このような生活習慣は成人並びに次代を担う子どもたちの学習・記憶・体力の低下、免疫能の低下、対人技術の発達障害などと言った心身の問題や生活習慣病、摂食障害などを誘発し、さらに、これが体質として次代へも引継がれかねない。これらの現状を鑑み、最も重要な課題が乳幼児期から生涯にわたっての「食」のあり方である。

2.多くの病気が食源病
 日本人の免疫能はこの数十年間で低下してきている。免疫の中心である胸腺は酸化ストレスや加齢によって萎縮し、免疫能が低下する。これが、近年の生活習慣病、がんや自己免疫性疾患、感染症などといった様々な病気の発症要因の一つとして広く指摘されている。その主たる原因が前述した戦後の食生活の劇的な変化が挙げられる。すなわち、私たちの住む地球には時間的リズムがあるように、生体にも同じ時間のリズムがある。一日のリズム(概日リズム)には生命を維持するのに重要な働きとなる睡眠、自律神経、免疫、内分泌、摂食(食生活)などの各リズムがある。これらリズムの中心となっているのが「食」である。近年、この「食」を中心とした生活習慣の変化が生体のリズムを変え、肥満、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、がんなどの生活習慣病が起こることが分かってきた。その原因の主なものとして、食塩と脂肪の摂取過剰と食物繊維、ミネラル類の摂取不足が挙げられる。したがって、これらの疾病は食が原因で発症する「食源病」といっても過言ではない。

3.日本人の食生活の実態と次代を担う子どもの食育
 厚生労働省が毎年行っている国民健康・栄養調査の結果を基に食生活の実態を解析した結果、免疫能に重要な影響を及ぼすタンパク質の摂取量は男・女共に生涯にわたって大きな変化が認められなかったが、タンパク質をどの様な食品群から摂取しているかを年齢別にみると、40歳代以降から肉類と魚類の摂取量が逆転することを見出した。すなわち、若年者は肉類、中・高齢者は魚類の摂取が高いことでタンパク質摂取が生涯にわたって保持できていることがわかった。一方、米国人の食生活パターンは生涯のタンパク質源を肉類に依存し、これが加齢と共に摂取量が減少することで1日に必要なタンパク質摂取量が減少する。この減少は免疫力の低下を惹き起こす。これが日米の寿命の差となっているのかもしれない。
 一方で、我われは日本人の中・高齢者の血中微量元素濃度を測定した結果、免疫能および抗酸化能に影響を及ぼす銅、亜鉛、セレン、マンガンなどが加齢に伴って減少する傾向を見出した。さらに、これら元素の変動が不定愁訴や循環障害などの各種自覚症状と関係していることを見出した。これらの結果をもとに、中・高齢者が抗酸化・免疫能を強化する微量元素やビタミン、フラボノイドなどを多く含む豆類、野菜、果物、魚介類などを積極的に摂取することによって、これらの自覚症状がなくなり、ますます健康寿命の延伸を図ることの可能性を見出している。
 これらの結果に対して、現代の子どもが将来高齢者となった場合に、現在の高齢者と同じような食事摂取パターンとなるかについては疑問である。すなわち、味覚や嗜好は乳幼児期に形成されるためである。したがって、安心・安全な食物を選別できる能力、食物の大切さを知る能力などを小児期に育てることは重要である。

4.免疫能を高める栄養素・食品の解析
 各種酸化ストレスからの防御を目的として、我われは食品中に含まれるミネラルやビタミン、フラボノイドなどの抗酸化成分を胸腺(免疫)細胞に投与し、活性酸素の消去能について検討したところ、各抗酸化物質によって細胞内外での抗酸化能力が異なっていることを見出した。このことは、抗酸化成分の効果的な摂取法として、細胞内外にて抗酸化作用を発揮する成分を摂取することの方が、細胞を酸化ストレスから防御するにはより効果的であることを示す。事実、細胞内外にて抗酸化能を発揮するフラボノイド(ルテオリンなど)を多く含む野菜(ピーマンなど)を高齢者に食べていただくという介入試験を国立健康・栄養研究所の研究倫理規定にしたがって行った結果、摂取前(介入前)と比較して摂取後(介入後)は抗酸化能および免疫能は統計学的に有意に上昇することを見出している。

5.日本型食生活の変遷と栄養行政
 日本人の食生活は主食、主菜、副菜、汁物で構成されているが、主食としては米を中心とした食生活が連綿と引き継がれてきた。そこから誕生したのがみそ汁、漬物、塩蔵品といった米と合う塩分と砂糖の多い食生活である。しかし、今日のITおよび乗り物社会といった運動量の少ない社会構造が確立してから肥満を始め、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病など欧米に多い病気が我が国でも増加するようになってきた。これに対して、厚生労働省は「健康日本21」、「健康増進法」など様々な政策を打ち上げ、健康に対する対策を行ってきたが、現在までに成功したと言えるのは禁煙と減塩政策である。これら健康増進行政の基本は「栄養」「運動」「休養」の三位一体の遂行であることはいつの時代も変わらない。

6.最新食生活事情~糖質摂取制限に関する話題
 最近、糖質摂取(白米やパン、麺類など)を制限すると肥満、糖尿病(1型、Ⅱ型)などの生活習慣病だけでなく、妊娠糖尿病、がん、アルツハイマー病や認知症、虫歯、歯原性菌血症などが改善・予防されるといった書物が現在の食生活に対する混乱を惹き起こしている。いわゆる糖質ダイエットと称されるものである。これに対する異論・反論も多く、安易に信用することは控えたい。これら多くの話題には科学的根拠に欠けているのもあり、それらの課題は医学・栄養学・食品学等の学会、厚生労働省・農林水産省などの行政側で話題・議論すべき内容であり、これを国民に直接一般書物などマスメディアを通して訴えることは国民の不安を煽るだけでなく、食行政を混乱させるだけであり、売名行為とも受け取らわれかねない。これら内容については専門家の間でしっかりと議論し、科学的に確立したものを一般国民に公表すべきである。また、今日様々なダイエット法がメディアを通して宣伝されているが、もしもダイエットなど自分の食生活を変えたい場合には、必ず信頼できる人と相談することが大切である。このように、日本の食事事情が混乱している現代社会においては糖質、タンパク質、脂肪の摂取比率などを含めて、早急に総合栄養学的な観点から生涯にわたっての日本型食生活と健康について医学、農学、栄養学、経済学、工学などの広領域分野にて科学的に再検討する必要があると思われる。

7.望ましい食生活の在り方
 「食」は国家の基盤、文化や教育の根幹であることから、国は国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育む事ができるよう、家庭、学校、地域社会における食育推進行政を徹底してほしいものである。「食育」は「職育」であり、各々のlife stageにおいて知力、体力、抵抗力、作業能率、正しい判断力、感性を育むために不可欠な教えである。人間の一人ひとりのゲノム(遺伝子)の差は0.1%であり、これが免疫など様々な個体(人)差となっている。したがって、年齢、性、運動量、作業量、各ストレス量、体質などが各個人によって異なるように、食事の質と量も当然異なってくる。望ましい食生活とは、個人個人が正しい知識を持って、賢く食事を楽しむことである。それによって、酸化ストレスも減少し、免疫能が強化され、健康寿命の延伸が図られる。我われは、「今こそ」栄養学・食品学の知識を身に付け、一つの栄養素・食品におけるミクロ的な視点ではなく、総合栄養といったマクロ的な視点から自分自身の食生活について真剣に考える必要がある。厚生労働省などの公的機関は国民に対する正しい栄養教育の一層の普及が望まれる。

おわりに
 戦後70年間で日本社会のあり様が著しく変貌し、今後もさらに変化していくものと思われる。いつの時代も生命・健康維持において最も重要なものが「食のあり方」である。正しい「食生活」を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。また、「食」に対する知識を得ることによってからだと心を大切にし、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕するといった素直な心を持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。内容の貧しい食事であっても団欒のある楽しい食生活や四季の旬のおいしい物を食べた時の自然と笑みがこぼれる幸福感・こころのゆとりが得られ、そこからさまざまな知恵が伝承されることを忘れてはならない。
(近藤雅雄:平成28年3月2日掲載)

ゼアキサンチン

ゼアキサンチンはルテインと構造が類似したカロテノイドで、光によるダメージから網膜を守ることが報告されている。目の網膜、とくに黄斑とレンズ部分に集中しているが、エイジングにしたがって濃度は低下し、加齢黄斑変性の危険性が高まる。また、喫煙者でも黄斑色素濃度の低下が見られると言う。米国では、加齢黄斑変性患者が1千万人以上存在し、この内、45万人以上が既に視力を失っていると言われている。ハーバード大学が行った研究ではルテインとゼアキサンチン摂取の多いグループは低いグループに比し、加齢黄斑変性の危険性がかなり低いという。

ルテイン

 ルテインとはカロテノイド(食品に含まれる赤、黄、橙などの色素の総称)の一種で、ゼアキサンチン(黄斑中央部の主要な構成物質であるが、網膜周辺部位ではルテインが主要な構成物質である)と共に黄斑部にとくに多く含まれているが、体内で合成できない栄養素で加齢によって減少する。
 ルテインは抗酸化作用によって目の酸化ストレスを防ぎ、パソコンなどから放射される強い青色光や紫外線から黄斑部を守っている。エイジングによって体内のルテイン量が減少し、加齢に伴う白内障や視力低下・失明を招く加齢黄斑変性などの様々な目の障害を増加させるとの指摘があり、今後の研究が期待されている。ルテインを含む緑黄色野菜や果物を日常的に摂取している人は、網膜を保護する黄斑色素の濃度が高く、加齢黄斑変性や白内障になる確率が低いと言われている。さらにDHAを一緒に摂ると目に対する抗酸化作用が増強すると言われている。

こころとからだの健康(13)目の病気の予防・対策に必要な栄養素と食品

 近年、スマホやコンピュータ、大画面テレビなどの急速な発展による生活環境の変化に伴って眼精疲労・ドライアイを自覚する人が増加すると共に白内障、緑内障、加齢黄斑変性などの失明に至る眼病が注目されるようになった。これら背景にはスマホやコンピュータの発展以外に高齢人口の増加と日常的なストレス、偏った食事、無理なダイエットなどによるビタミンやミネラル類の過不足など、栄養障害が考えられることから目の病気も生活習慣に関わる疾病と言える。

 目はこころとからだの健康維持に重要であり、目の病気は様々な行動の妨げとなるなど、日常生活への負の影響は計り知れない。疲れ目やかすみ目で悩んでいる人、スマホやパソコンなどで目を四六時中酷使している人や自動車やトラックのドライバー、飛行機のパイロットなどは一度自分の食生活を見直すことが大切である。普段の食事を意識して摂取する習慣を身に付けたい。食事で摂取できない時は視力回復のサプリメントや緑黄色野菜、果物などを積極的に摂りいれることも考えたい。

 世界の中でも日本人の視力低下は著しく、最近の調査では約83%の人がメガネかコンタクトを使用し、近視の低年齢化が問題となっている。目に関することわざは多数あるが、その中で「目は心の鏡」「目は人の眼(まなこ)」と言われるように、目はこころとからだの入力部位であり、こころとからだを映し出している。目は生体すべての感覚情報の約80%を占めると言われ、生体に入る情報は目に依存していると言える。

 人間において、視力が形成されるのは生まれてから後天的に徐々に発達し、5~7歳位までに完成すると言われている。したがって、この期間における目のケアーにはとくに十分に注意したい。また、目は12~13歳頃から老化が始まると言われている。生涯において目を大切にするこころを持って、目の健康に気を配り、食環境と同時にストレス解消の方法を自分なりに考え、美しい目を保持したいものである。

 本稿では目の病気の予防・対策に必要な栄養素・食品について調査を行った。論文の内容はⅠ.視覚と目の病気(1.視覚の性質、2.目の病気、3.失明の原因となる疾患)、Ⅱ.眼病の予防に良いとされる栄養素と食品(1.眼精疲労・ドライアイに良い栄養素、2.近視抑制に良い栄養素、3.白内障、加齢黄斑変性などに良い栄養素、4.抗酸化物質の機能、5.ブルーベリーは目が良くなる食べ物の代表)、Ⅲ.眼に良い栄養素(1.抗酸化物質、2.ビタミン類、3.ミネラル類、その他)からなる。
 内容詳細は以下のpdfを参照されたい。(近藤雅雄:平成28年2月8日掲載) こころとからだの健康(13)眼の病気の予防・対策に必要な栄養素

高齢期の健康に影響を与える成人期の栄養学

 成人期は就職、社会貢献、結婚、子育て、子どもの自立、親の介護など、生涯において様々な環境因子・ストレスによる影響が最も大きい激動期である。この時期は、生活が多忙になり不摂生や無理をし易く、食べすぎや飲みすぎ、不規則な食事時間、欠食、栄養素のアンバランス、運動不足、肥満などと併せて、生活習慣病が発症するなど、身体的にも社会的にも大変重要な時期であり、高齢期への健康に大きく影響を与える。したがって、健康寿命の延伸とQOLの向上を図るための方策を早めに考え、成人期の特徴、生活習慣を変える効果的な方法などについて栄養学的に理解することが大切である。

1.成人期の生理的特徴
 1)生理的変化と生活習慣の変化

2.成人期の栄養アセスメントと栄養ケア
 1)成人期の栄養の特徴
 2)成人の食事摂取基準
 3)生活習慣病の予防
 4)肥満とメタボリックシンドローム
 5)主な生活習慣病の一次予防

ここでは、上記の目次にしたがって執筆内容をpdfに掲載した。
 (近藤雅雄:平成28年1月15日執筆掲載) 高齢期の健康に影響を与える成人期の栄養

油脂の健康効果~話題の「こめ油」「クリル」「亜麻仁油」の比較

1.こめ油
原料:米糠
成分:米糠に特有の成分γ‐オリザノール(オリザノールA、オリザノールC)とオレイン酸、ビタミンE(α‐トコフェロール、α‐トコトリエノール)、ビタミンK、鉄などを含む。γオリザノールとはフェルラ酸とステロールとが縮合したエステル類の総称。
効果:以下のように多様な効果が知られている。
①自律神経調節作用:自律神経失調症の緩和に有効、自律神経のバランスを整え、肩こり、眼精疲労、腰痛、更年期に起こりやすい不定愁訴などの症状を改善する。
②皮膚の健康維持作用:皮膚の血行をよくするとともに、皮脂腺の機能を高め乾燥性の皮膚疾患を改善する。老化した角質を取り除き、皮膚の表面を膜で保護する。また、シミの原因となるメラニン色素の増殖を抑え、紫外線吸収作用があり、皮膚の酸化および老化を防ぐ。皮膚の血管を拡張し、血液循環を促進する。
③血中脂質改善効果:脂質代謝に関与し、コレステロールを低下させる。また、コレステロールの吸収・合成を抑制する効果が知られ、高コレステロール血症や動脈硬化症など脂質異常症の予防・治療薬に多く利用されている。
④生殖機能改善作用:無月経、卵巣機能障害、性腺刺激作用などの効果。
⑤抗酸化作用:ポリフェノール成分で、ビタミンEとともに抗酸化作用が知られ、脂質過酸化防止、リノール酸の体内作用の強化、ホルモンバランスの改善、脳や皮膚の老化防止などが知られている。
⑥その他、抗ストレス作用、成長促進やがん治療効果、心身症改善効果などが知られ、医薬品および化粧品としても利用されている。医薬品としての副作用は発疹・かゆみなどのアレルギー症状、眠気•嘔吐、吐き気•下痢、脱力感、倦怠感、また、0.1%未満であるが、めまいやふらつき、頭痛、便秘、食欲不振、腹痛、口内炎、動悸、むくみ、などの症状が報告されている。

2.クリル
原料:オキアミ類
成分:EPAとDHA
効果:オキアミから抽出されるクリルにはDHA、EPAを豊富に含む。DHAは脳内に存在する主要な多価不飽和脂肪酸であり、脳の発達と機能のために重要である。脳のシナプスに豊富に含まれ、ニューロンでのシグナル伝達に関与していることが示唆されている。記憶の要である大脳辺縁系の海馬にも多く含まれる。脳の代謝・血流改善作用として、①血管壁や赤血球の細胞膜を柔らかくする。②神経伝達物質の産生量を増やすことが知られている。また、ストレス耐性を強化する働きもあるという。注意欠陥多動性障害 (ADHD)の子どもに症状のわずかな改善が認められたという報告がある。 さらに抗酸化成分のアスタキサンチンが含まれ脂質過酸化防止に有用である。

アスタキサンチン
ビタミンEの約1000倍の抗酸化力とされ、自然界で最強の抗酸化物質との指摘がある。
主な効能は脂質の酸化防止、LDLコレステロールの低下、動脈硬化の予防・改善、糖尿病性白内障の進行抑制、ストレスなどによる皮膚の免疫能低下の抑制、紫外線による皮膚の酸化防止、炎症抑制、ビタミンAの生産、概日リズムの調節などが言われている。最近、脳血管性認知症やアルツハイマー病、糖尿病の合併症、白内障、加齢性黄斑変性症などの予防効果が期待できると注目されている。

3.亜麻仁油
原料:亜麻仁種子
成分:αリノレン酸
効果:オメガ3系脂肪酸の一種であるαリノレン酸は、体内でエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に変換される。亜麻仁油にはα-リノレン酸がゴマの約100倍含まれ、脂質異常症患者の血中中性脂肪と超低比重リポタンパク質(VLDL)値を全般に低下させると言われている。
効果としては学習能力や記憶力の向上、認知症予防、アレルギー症状の緩和、血流改善、エストロゲン作用、便秘解消、高血圧、動脈硬化、心血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病、がんなどの生活習慣病予防など多様な効果があると言われている。ドイツでは慢性の便秘、緩下剤誘発性結腸障害、過敏性腸症候群、腸炎、憩室炎での使用を承認している。 (参考文献:Wikipediaなど)(著者:近藤雅雄、平成26年11月23日)

ALAを合成する酵素の新しい測定とその酵素のミトコンドリア内での様態

 ALAを生産する酵素、5-Aminolevulinate synthase (ALAS)活性の測定はsuccinyl-CoAとglycineを基質として測定されるのが世界的に広く知られています。このALASはヘム合成(ポルフィリン代謝)の律速酵素として最も重要な酵素です。肝性ポルフィリン症などのヘム合成系の酵素障害があるとALAS活性が増量してALAの生産を高めることが指摘され、ポルフィリン代謝異常で最も中心的役割を果たす酵素です。しかしながら、実際に肝臓のポルフィリン代謝障害を起こす晩発性皮膚ポルフィリン症の肝ALAS活性は増加しないことが広く知られ、この矛盾を説明することがこれまでにできませんでした。
 そこで、肝性ポルフィリン症患者の生検肝微量組織からα-ketoglutarateとglycineを基質としてALAS活性を測定した結果、succinyl-CoAとglycineを基質とした値よりもポルフィリン代謝をより反映していることが今回の実験によってわかりました。すなわち、肝ALAS活性の測定にはこれまでの方法と異なって、α-ketoglutarateとglycineを基質として測定した値の方がより肝性ポルフィリン症の病態を反映していることが示唆されると同時に肝ALAS酵素の作用機序がほぼ分かりかけてきました。
 その内容は2015年9月の学術雑誌ALA-Porphyrin Scienceに掲載されました。以下のpdfで参照ください。(近藤雅雄:平成27年11月10日掲載) 肝性ポルフィリン症と肝ALAS