食生活と栄養

戦後60年における「住」と「食」環境の変化がもたらせたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次世代をになう乳幼児・子供の生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子供の発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子供たちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子供の知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。また、OECD(経済協力開発機構)が32カ国の15歳児、約26万5千人を対象に行った学習到達度調査(2000年)では「毎日趣味で読書をしている」という問に対して日本の子供の55%がしていないと回答し、参加国中最も少ない結果が報告されている。
 さらに、最近の子供および若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
 一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子供たちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子供は成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開しいる。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子供であれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 ここで、面白い科学的根拠を述べると、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期は生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「健康生活」の見直し・教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる。
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。この美しい地球の上で展開されるすべてのストーリーは人の力によって起こることを知るべきである。

本書の作成と利用に当たって
 健康とは、健康を「意識」することによってはじめて獲得することが可能である。その意識の確立は生体の機能を維持し、そして健全な健康生活リズムを獲得し、ヒト、生物、社会、組織、家族、国家、民族、地球を愛するこころを持つことができる。このような背景を基に本書を作成した。
 本書は「健康」に興味を持つ一般人を対象としてまとめたが、多少専門的で、難解な箇所もある。しかし、内容を熟読いただき、少しでも「食と栄養・健康生活」の重要性をご理解いただければ幸甚である。また、本書に対する忌憚のないご批判、ご助言をお寄せいただき、今後とも時代に応じて本書の内容を書き改め、ますます使いやすい教科書として成長していくことを切に希望している。
 本書の構成は、全3章からなり、第1章では「食生活と健康」と題し、公衆栄養学の権威者である梶本雅俊氏に執筆いただき、ここでは「食育」に対して、専門家の立場から広範囲に「食生活と健康」に関して洞察いただいた。第2章の「栄養と健康」は食品・栄養学の専門家である柘植光代氏に基礎的な栄養素の知識についてご執筆いただいた。そして第3章「サプリメント」は編者が担当し、サプリメントの行政的な対応を含め、最近注目されている栄養成分について整理した。
 文尾になったが、本書の趣旨に賛同して、研究教育に多忙な中を執筆いただいた各章の執筆者の方々に心から感謝する。また、第2章の「必須性が認められないミネラルやミネラルの歴史・概要のまとめ」については太田麗氏と栗原典子氏に、第3章の「主なハーブ類とその効能」は東栄美氏に、「アロエ、アガリスク、プロポリス食品、ウコン」は玉應聡子氏に、それぞれ資料の収集及び執筆を頂いた。ここに深く感謝する。さらに、本書作成に当たり、計画・実行・ケアーといった全過程において極めて綿密・緻密にご指導いただいた日本実業出版社の松尾由子に深謝する。さらに、本書作成にあたり、㈱ダーツ皆様にきめの細かい配慮をいただいた。ここに厚く御礼申し上げる。
近藤雅雄編著(全174ページ、2005年1月10日発行)、オリエント・メディカル出版 「著者:近藤雅雄、梶本雅俊 柘植光代、玉應聡子、東栄美、太田麗、栗原典子」

本書の内容は以下の通りです。

第1章 食生活と健康(梶本雅俊)
1.健康と栄養
2.現代社会の健康と公衆栄養
3.健康日本21
4.栄養学総論
5.栄養状態の判定
第2章 栄養と健康(柘植光代)
1.食品と食物
2.食品の種類と成分
3.主な栄養素
第3章 サプリメント(近藤雅雄)
1.サプリメントの概説
2.特定保健用食品
3.栄養機能食品(ビタミン類とミネラル)
4.健康補助食品
5.主な健康補助食品
6.主な栄養成分
7.健康食品Q&A

晩発性皮膚ポルフィリン症の臨床及び生化学的解析

晩発性皮膚ポルフィリン症 (Porphyria cutanea tarda, PCT) はポルフィリン代謝系の5番目の酵素であるウロポルフィリノゲン脱炭酸酵素 (uroporphyrinogen decarboxylase, UROD) の活性低下に基づく代謝性疾患であり、遺伝性と獲得性が知られ、光線過敏症と肝障害を合併します。遺伝性 (家族性、f-PCT) ではUROD遺伝子異常が認められますが、獲得性 (s-PCT)のポルフィリン代謝および肝障害の発症機序については未だに不明です。また、近年PCTに高率でC型肝炎ウイルス感染が合併していることが明らかとなり、さらにPCT患者においては鉄の吸収促進による鉄沈着も指摘され、この鉄沈着についてはヘモクロマトーシス因子 (HFE)との関係が注目されています。 本稿では、わが国において報告されたPCTの全症例を臨床統計し、日本の現状と世界の現状およびs-PCTのC型肝炎合併症例の特徴について概説しました。
(近藤雅雄ほか:Porphyrins 2004:13( 3,4)93-104, 掲載論文)続きは下記pdfを見てください。 ポルフィリン誌 04晩発性皮膚ポルフィリン症

ヘム合成酵素とポルフィリン代謝異常症の診断

本邦で発見されたポルフィリン症患者総数は2002年までに約 827例ですが、不顕性遺伝子保有者(キャリア)はこの数十倍存在するものと思われます。キャリアの早期発見はポルフィリン症の発症予防において極めて重要ですが、その実態についてはまったく不明です。したがって、ポルフィリン症およびそのキャリアの確定診断上、当該病型の責任酵素の活性測定が重要となります。 責任酵素の活性測定には主に血液細胞、肝細胞、各種培養細胞など極微量の臨床材料が用いられていますが、測定法および活性値は統一されておらず、異常値を判定するには必ず対照値が必要となります。ここでは、臨床上比較的頻度の高いポルフィリン代謝異常症の確定診断において重要な8つのヘム合成系酵素活性の測定法と臨床的意義について述べました。
( 近藤雅雄:Porphyrins 2004:13(3,4)105-122掲載論文)詳細内容は下記pdfを参照してください。 ポルフィリン代謝酵素活性の測定意義

健康のための生命科学  

 21世紀は「生命科学の時代」と言われ、遺伝子の研究から生命のしくみが解明され、病気の予防や診断、治療が飛躍的に進み、遺伝子診断による生活習慣病などの易罹患性リスクの予測ならびにその予防や遺伝子治療、ゲノム創薬などに関する研究が急進展している。一方で、そのリスクが予測できてもそれを予防する方法が未だに無く、そこで、健康維持や病気の予防として遺伝子組み換え食品を含む多数の特定機能性食品に対する開発研究が行われている。このように、バイオ研究は生命そのものを究明する科学から、健康を守ることを目的とした健康科学への道へと進もうとしている。
 さて、私たちのからだではおよそ60兆個の細胞がお互い仲良く連絡し合って、生命・個体を維持している。生命科学はこれら細胞、組織・臓器およびそのネットワーク(生命系)の特有な現象及び様々な機能を科学的に究明し、「人類の健康・医療・福祉」と「地球環境の保全、平和」に貢献するという、自然科学から人間・総合科学とにまたがった広領域の分野であり、平和で健康な生活を営む中で最も基本的で重要な分野である。生命活動のネットワークとは生命維持に不可欠な①循環調節、②消化・吸収・代謝・排泄・体温の調節、③情報連絡、④生体防御、⑤感覚・運動の5つの生命維持調節システムを指す。本稿では、これらのシステムのしくみを理解すると同時に生命科学を基盤とした健康科学の重要性を理解することに重点をおいた。
 ところで、21世紀に入って地球規模的に「健康」と「生活の質」並びに[平和]と「環境保全」への意識が高まりつつあるが、そのような社会を実現するためには、人々が豊かさを味わい、心の安らぎを感じられる新たな社会システムの構築が望まれている。
 現在も含めてこれまでの人口増大の時代では、たとえ病気になっても仕事に支障を来たすことはなく、高齢者については地域の福祉施設や家族、介護士または多くのボランテアに支えられ地域・国家が形成されてきたが、これからの少子高齢化社会ではすべての国民が健康であることが必要になってきた。病気を予防して、健康で長生な社会構築が必要である。
 そこで、早死をなくし、若い労働者が健康で安心して労働できるよう、また高齢者においても、活力ある高齢化社会を送ることができるよう、健康に対する意識を国民が高揚することによって、地域社会・国家もますます繁栄されるものと思われる。個人の健康はもとより、家族の健康、職場の健康、自治体地域住民の健康などなど、健康なヒトがこれからも健康でいられるよう、または病気ではないが、病気がちなヒトや病気の素質を持っているヒトを健康指導できるよう健全な知識を身に付けることが重要である。
 生命科学とは、健康で平和な社会システムの構築と同時に各個人が「生命のしくみ」について理解し、生命の尊さと感謝の気持ちを持ち、ヒトとして正しい判断力を身につけ、健康で質の高い生活を維持し、健康寿命の延伸を図るための学問である。
(近藤雅雄著:全231ページ、2004年6月15日発行)
健康のための生命科学2004
本著の内容は以下の通りです。

序章:生命科学の概念
第1章 生殖と生命の誕生
 1.生命とは
 2.ゲノム新時代
 3.生命の設計図
 4.生殖と生命の誕生
 5.遺伝子病の発症
 6.遺伝子ー環境因子干渉相互作用
第2章:細胞と循環調節システム
 1.生命の最小単位 ―健康なこころとからだは健康な細胞から―
 2.循環の仕組み ―生命維持物質酸素の摂取・運搬および炭酸ガスの排泄―
 3.呼吸運動の調節
第3章:生命維持のための消化・吸収・栄養・代謝・排泄・体温調節システム ―生体の構築およびその機能維持に必要な物質は健全な食事から―
 1.食欲、消化、吸収のメカニズム
 2.栄養素のはたらきと代謝
 3.酵素と化学反応
 4.肝臓の機能 ー体内の巨大な化学工場
 5.食事と健康 (栄養・食生活)
 6.排泄と体液恒常性維持機能 -腎臓の働きー
 7.体温調節システム
第4章:生命活動の情報連絡システム
 1.内分泌ホルモンによる情報連絡システム
 2.神経細胞による情報連絡システム
 3.感覚情報連絡のしくみ
第5章:生命活動としての皮膚、筋・運動システム ―生体の機能保持は健全な皮膚と筋肉細胞からー
 1.皮膚と健康
 2.運動と健康・・・・骨の構造、骨生産調節
 3.歯と健康
第6章:生体防御システム ー生体恒常性維持機能・・・・・自然治癒力の原点ー
 1.バイオリズム
 2.免疫のシステム
第7章:代替療法 -治癒と治療ー
 1.世界での伝統医学の現状
 2.欧米での民間医療ブーム(代替・補完療法)の背景
 3.日本の伝統医学の方向性
 4.治癒と治療
第8章:こころと健康
 1.心身症
 2.神経症
 3.うつ症
 4.摂食障害(拒食症と過食症)
第9章:生命色素ポルフィリン
 1.生命維持に共通の物質としてのポルフィリン
 2.生命の起源
 3.ポルフィリン研究の歴史
 4.ポルフィリン代謝
 5.ポルフィリンの臨床医学 -遺伝子ー環境因子相互干渉作用ー
第10章:生命と地球環境
 1.オゾン層の破壊
 2.地球温暖化
 3.酸性雨など越境大気汚染
 4.海洋汚染
 5.自然資源の減少
第11章 生命科学から健康科学へ
 1.現代の生命科学(生活の質の向上(QOL)ー生命科学ならびに健康科学はヒトのこころとからだを豊にする総合科学ー
 2.生命科学から健康科学へ
 3.健康の概念 ~健康思考(指向、志向、施行)~
 4.健康の増進と減退
附1.健常人の主要健康数値表   附2.参考図書    索引

ヘム生合成関連物質及びその測定意義

ヘム生合成関連物質の測定は先天性ポルフィリン症の確定診断や鉛作業者の職業病検診に不可欠です。そこで、医療現場からの要望のとくに高い物質について、民間諸検査機関が行っているポルフィリン代謝関連物質の測定項目を中心に、その概要、基準値、異常値を呈する疾患、臨床的意義、検査のすすめ方などについて、さらにポルフィリン関連物質測定に関する諸情報をまとめました。(近藤雅雄:Porphyrins 2003:12(2),73-88掲載論文)続きは下記pdf・・・・ ヘム関連物質およびその測定意義(03:医歯薬)

健康科学基礎原論

 健康(健とは人が堂々と立っていること、康とは稲の実りが良く、安らかであること)とは元気であること、丈夫であること、調子がいいこと、健やかであること、あるいは達者であること、恙無いことなどで、すべての人が、生涯健康でいられることを望んでいる。しかし、現実は病気のことにはいろいろ関心を持つが、自分自身の健康については意外と無頓着なのではないだろうか。これは、健康に関する書物に比べ、病気に関する書物が圧倒的に街の書店に溢れていることを見てもわかる。しいて、健康に関する情報に注目してみると、これまでがそうであったように一時期のブーム、ファッション的な情報および書物が溢れている。
 健康科学とは、健康なからだのしくみと科学的根拠に基づいた生体の機能について理解し、健康で高い生活(QOL:Quality of Life)を維持し、健康寿命の延伸を図ることである。本書では健康科学の基礎について、わかりやすく著述した。(近藤雅雄著:2003年8月22日発行)
健康科学基礎原論2003

序 章  ー健康科学の概念ー
第1章 生体の基礎および血液循環のしくみ
1.生命の最小単位 ー細胞のしくみと働き
2.遺伝と健康
3.循環器のしくみ
第2章 消化・吸収・代謝・排泄のしくみ
1.食欲調節、消化、吸収のしくみ ー肥満のメカニズムー
2.代謝  ー肝臓の機能ー 体内の巨大な化学工場
3.体温の調節 –発熱のメカニズムー
4.排泄と体液調節―腎臓のはたらき ー体液量調節のメカニズム
第3章 生体内情報連絡のしくみ・・・
1.内分泌調節のしくみと生殖 ー受精と妊娠のしくみー
2.神経細胞による情報連絡のしくみ
3.感覚情報連絡のしくみ
第4章 皮膚、骨と筋肉のしくみ ―生体機能維持は健全な筋肉細胞からー
1.皮膚と健康
2.運動器のしくみ ー運動と健康
3.歯と健康
第5章 生体防御のしくみ
1.バイオリズム
2.免疫のシステム
第6章 食事と健康
第7章:こころと健康
附1:健常人の主要数値
附2:参考図書

我が国における肝赤芽球性ポルフィリン症の最初の報告

 肝赤芽球性ポルフィリン症(Hepatoerythropoietic porphyria,HEP)は1967年にGuntherによって肝性と骨髄性の双方の生化学的性質をもつ珍しいポルフィリン症として初めて報告された。Elder らはHEP 患者のウロポルフィリノ-ゲンデカルボキシラ-ゼ(UROD) 活性が正常の7 ~8 %であることを認め、家族性晩発性皮膚ポルフィリン症(familial porphyria cutanea tarda,fPCT) のホモ接合体として考えられている。本症は2000年までに世界で約30例しか報告がない極めて稀な疾患である。HEPはfPCTと同じUROD遺伝子の異常であるが、前者は常染色体劣性遺伝であり生後~幼児期に発症するのに対し、後者は常染色体優性遺伝し、主に成人後発症する。URODは骨髄赤芽球よりも肝での発現量が低いため、HEP、fPCTは共に肝性ポルフィリン症として分類される。しかし、HEP ではUROD活性が著明に減少しているために肝と骨髄の双方でポルフィリンの代謝異常が生じる。
 今回、我々は赤血球遊離protoporphyrin(FP)および尿中uroporphyrin (UP), heptacarboxyl porphyrin (7P) , coproporphyrin (CP) が異常高値を示し、HEP が強く疑われた患者を経験した。 症例は15歳の男性で、強い光線過敏症、著明な肝腫大、黄疸を認めたが、貧血、腹痛、嘔吐、便秘はない。また、尿および血液の著明なポルフィリン代謝異常を見出し、患者の臨床症状および尿・血液中のポルフィリン分析により、わが国で初めての肝赤芽球性ポルフィリン症が強く疑われた。
(掲載論文:近藤雅雄 ポルフィリン8(2):81-86, 1999年) PDF:肝赤芽球性ポルフィリン症が疑われた一症例

ポルフィリン症の生化学的診断

ポルフィリン代謝に関与する各種酵素の活性およびその代謝産物の測定はポルフィリン代謝異常症の診断、病態解析に、また、鉛作業者の職業病検診などに不可欠である。さらに、これら臨床方面だけでなく、本書に記載されている多方面のポルフィリン研究分野で、ポルフィリンの分析および関連する酵素活性の測定は重要である。しかし、これまで報告されてきた溶媒抽出法を主体としたポルフィリン測定法は診断上重要な異性体の分離が困難であり、試料の前処理および抽出したポルフィリンのエステル化など、操作が煩雑で、回収率、再現性が悪い。しかも測定に長時間を要するという様々な障害があったが、近年の急速に進展した高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)の出現によって、ポルフィリン代謝異常症の研究が飛躍的に発展した。すなわち、微量生検材料中のポルフィリン分析、さらに酵素活性の測定が短時間で、正確に測定できるようになり、ポルフィリン症の確定診断、病態解析などポルフィリンの臨床化学分野でHPLCは必要不可欠となった。
ここでは、臨床材料からのポルフィリン代謝産物および関連酵素活性の各種測定法を紹介すると共に、その意義について述べる。(掲載論文:近藤雅雄、日本皮膚科学会) ポルフィリン症の生化学的診断 PDF:ポルフィリン症の生化学的診断 2  

日本と英国におけるポルフィリン症患者数の比較 

 ポルフィリン症はポルフィリン代謝系酵素の遺伝的(一部非遺伝的なものもある)障害によりポルフィリン代謝産物の過剰産生、組織内蓄積、また排泄増加を起こす一連の疾患群であり、常染色体性の優性と劣性の遺伝が確認されている。ポルフィリン症は医聖といわれるヒポクラテスにより紀元前 460年頃にすでに記載されているが、今日的には1874年Schultzによる症例報告が初めてである。その後、1912年、有機化学者のH.Fischer によるポルフィリンの同定、構造決定からポルフィリン症研究が急速に進展し、現在ではヘム合成系の酵素障害の部位差により8病型が見いだされている。一方、わが国では佐藤らが1920年に初めて先天性ポルフィリン症を報告した。患者は世界中に分布していると思われるが、疫学調査の報告は少ない。
 著者はThe Royal Melbourne Hospital,Porphyria Reference Laboratory (Victria, Austraria) のD. Blake博士より英国のポルフィリン症患者数の実態を入手したので、わが国と比較検討した。ポルフィリン症患者数を比較した結果、英国の患者病型数のパターンが極めて類似していることを見出した。
(掲載論文:近藤雅雄 ポルフィリン 5(4):375-377, 1996) PDF:日本と英国におけるポルフィリン症患者数の比較

ハルデロポルフィリン症が疑われた症例  

 ヘム合成の6番目の酵素coproporphyrinogen oxidaseの先天性欠損症として発症する遺伝性コプロポルフィリン症(hereditary coproporphyria, HCP) は常染色体優性遺伝である。
 一方、ハルデロポルフィリン症(harderoporphyria, HP)は常染色体劣性遺伝であり、HCP の変形として1983年にNordmannらにより発見された。本症はCPO遺伝子のダブルヘテロ接合体として発症する。本症の生化学的所見として尿および糞便中のハルデロポルフィリン(HARDERO) が増量するが、HCPなど他の先天性および後天性ポルフィリン症ではHARDERO は殆ど検出されない。HARDERO はCPO によってcoproporphyrinogenからprotoporphyrinogenを生産する際の途中中間代謝産物である。

 今回、我々は尿中HARDERO が2.14mg/l,糞便中は14.8μg/g dry という、通常健常者では検出されないポルフィリンを大量に排泄し、さらに、尿中uroporphyrin, heptacarboxyl porphyrinと赤血球および糞便protoporphyrinの異常高値を示し、同時に、血小板減少症と骨髄異形性症候群(myerodysplastic syndrome, MDS) を合併した患者を経験し、ハルデロポルフィリン症が疑われたが、晩発性皮膚ポルフィリン症、赤芽球性プロトポルフィリン症または肝赤芽球性ポルフィリン症との鑑別がつかず、同時に、骨髄異形成症候群(MDS,refractory anemia with excess of blasts,RAEB)を合併し、確定診断がつかないままMDS (RAEB)に伴う血小板減少のため消化管出血により急性死亡した症例を経験したので報告する。
(掲載論文:近藤雅雄ほか、ポルフィリン5(4):363-374, 1996) PDF:骨髄異形症候群に合併したハルデロポルフィリン症が疑われた特発性ポルフィリン症

天然色素ポルフィリンの科学~生命科学を中心に~

 “ポルフィリン”についての名前は余り親しまれていないが、最近、ポルフィリンに関する研究領域が急速に広がり、注目され出している。
 まず第1に、分子生物学の進歩により、ヒト、植物、細菌など地球上の生物が生命維持に不可欠な物質として共有しているポルフィリンの代謝調節の機序が次々に明らかにされていること。
 第2に、新医療として、ポルフィリンの物理化学的特性を利用したがんの診断と治療法の開発、および人工血液の開発が軌道に乗り出したこと。
 第3に、先端技術としての分子認識素子や光機能材料などの高分子工学、情報工学分野に利用され、まったく新しい分野の研究として注目され始めたこと。
   最後に、植物におけるポルフィリン合成経路が解明され、それにともないこの代謝系を標的とした、人体に無毒の除草剤開発が進んでいることなどが上げられる。
 このように、ポルフィリンに関連する研究が生物、医学領域ばかりでなく、その生物機能を模倣、利用し、分子機能材料などの開発へ発展、その成果が次々に報告され、ポルフィリン研究の重要性が広く認識されはじめた。この注目を浴びている研究の詳細に関しては、現代化学増刊28として市販されているので併せて参照されたい。ここでは、その一部を紹介すると共に、ポルフィリンについての知られざる世界について、以下のpdfにて紹介する。
(掲載論文:近藤雅雄、現代化学49-55, 1995.6) PDF:天然色素ポルフィリンの科学