〔食育-19〕胸腺免疫細胞への影響

介入試験の結果、中性脂肪、コレステロール値が低下し、脂質代謝に大きく影響していることが分かりました。 kyosen-eikyo 胸腺の免疫細胞への影響については、細胞性免疫、体液性免疫に関与する表面マーカーについて増加が見られます

〔食育-18〕介入試験

試験1週間前に事前説明会、生活習慣調査、食習慣調査などを実施し、食事記録表の記入指導を行うとともに、なるべくピーマンを食べないようにお願いしました。試験に使用するピーマン入り弁当は、高齢者が食べやすいように栄養士さんがメニューを工夫しています。 こうした介入試験を実施する場合に重要なことは、安全、安心、ふれあいでありまして、被験者と事前に十分なインフォームドコンセントを行い、試験中間期 に健康セミナーを開催するなど、被験者との間でさまざまなコミュニケーションを持っています。最終的には事前、中間、結果報告と3回にわたって被験者と面 会しています kainyu-daijinakoto

〔食育-17〕加齢の免疫機能に及ぼす影響

このピーマンを食生活に積極的に取り入れることで、高齢者の加齢からくる免疫能低下に及ぼす影響について、介入試験を実施しました。試験は国立健康・栄養 研究所倫理委員会の承認を得て、埼玉県狭山市に住む60~80歳代の健康な男女15人(実際にはそのうち7組は夫婦)に対して実施しました。試験方法は、 ピーマンを含む弁当を用意し、1日一回昼食として食べてもらい、これを2週間実施しています。朝食・夕食および日曜日は自由に食事を摂ってもらいました。 試験前と試験後で血液検査、身体検査、尿検査などを実施し、その影響を調べています。 karei-meneki-eikyo

〔食育-16〕ルテオリンを多く含む食品は?

ruteorin-piman このルテオリンを多く含む食品を探してみると、ピーマンに多く含まれることが分かりました。高速液体クロマトグラフィーを使って測定すると、青ピーマンか ら抽出した酢酸エステル抽出液から、1gあたり39μgのルテオリンが検出されました。これは実測値で回収率を考慮していませんが、非常に高い数値だと思 います。また青ピーマンと同じ科に属するトウガラシ類にもルテオリンが多く含まれていることも分かっています。

〔食育-15〕食品中に含まれる抗酸化成分

食品中に含まれるカテキン類、フラボノ類、イソフラボノ類、カロテン類、アントシアニン類、カルコン類など26種類の抗酸化成分について調べてみると、ル テオリンという物質が細胞内外における活性酸素の消去に高いレベルで活性を維持していることが分かりました。X線は酸化ストレスの一因ですが、マウスの胸 腺細胞にX線を照射したところ、ルテオリンを含む区、特にX線照射量の多い区において、細胞内の活性酸素(ROS)がまったく増加しませんでした。またX 線照射によるアポトーシスについても、ルテオリンを含む区では抑制効果が見られます。 shokuhinchu-fukumu-xsen

[食育-14] 加齢が免疫能に及ぼす影響

高齢者特有の問題として加齢があります。加齢が免疫能に及ぼす影響について、細胞レベルおよび実験動物を用いて基礎的な研究を実施しました。免疫臓器であ る胸腺は加齢に伴って萎縮しますが、マウスを使った実験で、その割合はメスに比べオスの方が大きいことが分かりました。これは人間についても同様の知見が 得られています。これがオスに比べメスの方が長生きする理由となっているのではないかと推察されます。さらにオスマウスでは、胸腺の萎縮に伴って抗酸化酵 素活性が低下し、酸化ストレスに対する抵抗性を低下させていることも分かりました。つまり胸腺の免疫能は、酸化ストレスに非常に弱く、酸化ストレスを受け ることで萎縮が進み、それが抗酸化酵素活性を減少させ、さらに免疫能を低下させるという悪循環に陥っていることが分かりました。 karei-meneki-eikyo

[食育-13] 免疫能を健全化(12)

これに飽食など急速な食生活の変化が加わると、酸化ストレスはさらに増強することになります。高齢者の免疫能を高めるためには、こうした負の因子に対し て、日本型食生活を実施することで、生体内の抗酸化能力を高め、抗酸化ストレスに対する抵抗性を獲得し、免疫能を健全化する必要があります。 nihongata-meneki-kenzenka

[食育-12] 高齢者への食育・健康意識の啓蒙が食育の輪を広げる(11)

これまでの考察結果をふまえ、以下のような提案をしたいと思います。 21世紀の超少子・高齢時代を活力ある社会にするためには、高齢者の食・健康への意識を高め、高齢者のさまざまな経験に基づいて獲得されてきた知恵を次の世代に伝承することが重要であると考えます。 高齢者に対して食育・啓蒙を行うことで、その高齢者たちが地域や家庭の食に関してどのような役割を果たすことになるのか、実際に介入試験を実施してみま した。まず初めに言葉の定義です。国の各種制度や統計では、高齢者とは65歳以上の人を指します。またマスコミではいまだに「高齢化社会」という言葉が頻 繁に使われていますが、国が定めた定義では、高齢者が全人口の7%以上の場合「高齢化社会」、14%以上の場合を「高齢社会」と呼んでいます。今年9月 19日に総務省が公表した65歳以上の高齢者の推計人口は2,556万人で、全人口に占める割合が20.0%に達しています。国民5人に1人が65歳以上 の高齢者ということで、すでに「超高齢社会」に突入してるといっていいでしょう。人口の2割を超える高齢者の活用は、社会のあらゆる分野において、大きな 課題となりつつあります。食育においても、高齢者に対して食育を実施し、健康意識の向上をはかることで、日本の食文化を次の世代に伝えていくことが重要で す。 高齢者に対する介入試験は、次のような考え方に基づいて行われました。現代の健康問題の多くは、免疫能の低下にその一因があるのではないか。実際に現代 人、特に高齢者の免疫能は著しく低下していることが分かっています。免疫能の低下を模式図的に表すと、肥満や加齢、ストレスによって酸化ストレスが増大 し、活性酸素による細胞障害が起こって免疫が老化し、免疫能が低下すると考えられます。 menekino-teikasiteru

[食育-11] 核酸化栄養素・魚介類の摂取が日本型食生活の特徴

日本型食生活のどこに世界一の長寿国を生み出す原因があるのでしょうか。特に免疫能に影響を及ぼす栄養因子を探索する必要があります。免疫能に関係する因 子としては、蛋白質、セレン、銅、マンガン、亜鉛といった微量元素、それから抗酸化栄養成分であるビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール類、フラボノ類 などがあります。特に蛋白質が足りなくなると胸腺の萎縮が起こり、免疫能が著しく低下することが知られています。 まず、日本型食生活の特徴である、豆類・果実類、きのこ類、蛋白質について、年齢階層別に摂取量を調べました。豆類、果実類については、7~14歳と 60~69歳の2階層に摂取量のピークが見られます。7歳代については学校給食の開始が影響しているものと思われます。これを見る限り、現在の中高年は豆 類、果実類を比較的よく摂取しているといえます。きのこ類についても、ピークの年齢層が若干ずれますが、同様の傾向を示しています。 蛋白質については、日本人とアメリカ人それぞれについて男女別年齢階層別に摂取量を見ています。日本人については、男女で摂取量のピークとなる年齢階層 にずれがありますが、やはり成長期にいったんピークを迎えその後中高年期に再びピークが訪れています。ところがアメリカ人男性では20歳代でピークを迎え た後、ずっと摂取量が減少しつづけています。またアメリカ人女性では、特にピークと呼べるものは存在しませんが、加齢にしたがって減少していきます。 日本人の男女について、蛋白質をどのような食品から摂取しているかについても調べました。日本人の場合、男女とも30歳代から40歳代で蛋白質摂取源が 肉類から魚介類に移行していました。アメリカ人の場合、蛋白質源を圧倒的に肉類に依存しており、加齢とともに蛋白質の摂取量は減少しますが、魚介類の摂取 量がそれを補って増加することはありません。これが食生活に関する日米の大きな違いです。 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、オランダの先進5カ国について、栄養・食料摂取を調べた結果をご紹介します。日本を100として比較した場 合、どの国も魚介類の摂取量は非常に少ないことがわかります。欧米先進国では相変わらず肉類、乳製品の摂取類が多く、エネルギー摂取量に占める脂肪の割合 が40~50%に達しています。日本では脂肪のエネルギー依存率は、昨年のデータで約25%ですから、日本人に比べいかに多くの脂肪を摂取しているかが分 かると思います。これからも、日本人の長寿の理由が、魚介類の摂取にあることが推察できます。

[食育-10] 日本型食生活の解析(10-3)

神奈川県某町で、抗酸化ミネラル量の血中濃度を計測しました。調査した170人はいずれも疾病を持たない健常者ですが、加齢にしたがって抗酸化元素である 銅、クロム、マンガン、セレン、亜鉛が減少しています。特に抗酸化元素の減少と、頭痛、めまい、手足のしびれといった身体の変調に関する自覚症状との間に 有意差をもって逆相関がみられます。加齢により抗酸化元素量が減少し、抗酸化酵素活性も減少することが、自覚症状と関連しているのではないかと推測できま す。こうしたミネラル類の不足に対しては、魚貝類、海藻類、野菜、果物を十分に摂取することが必要になります。 抗酸化ミネラル類の間には相互作用があり、その摂取は難しい面があります。肝臓中の元素相関を例に、体内のミネラルバランスについて見てみました。たと えばセレンが不足している人は、身体の変調についてさまざまな自覚症状を持っていますが、セレンが足りなくなると、銅や亜鉛も不足してきます。先ほど魚介 類にメチル水銀が蓄積しているので妊婦は摂取を控えるように基準が出されているという話がありましたが、マグロの場合セレンを多く含んでおり、メチル水銀 との間に相殺効果があります。ところがキンメダイにはセレンが少ないそうですので、マグロ以上に危険性が高い可能性があります。 以上、日本型食生活の解析を行った結果、日本人では加齢に伴って豆類、果実類、きのこ類の摂取が増えていることが分かりました。また図には示しませんで したが、海藻類の摂取量も同様に増加していることが分かっています。こうした食品には、抗酸化に関係する栄養素を多く含んでいます。また加齢により、蛋白 源が肉類から魚介類へ移行しており、このことが日本人の長寿に大きく関係しているのではないかと推測できます。一方、加齢にしたがって抗酸化ミネラル量は 減少していますが、野菜などミネラル分を多く含む食品の摂取量を増やせば、もっと健康になり、長生きできるのではないかと推測できます。 日本人では、年齢に応じて食べ物の嗜好が変化することが分かりましたが、今の子供たちが同じように将来嗜好を変化させるとは限りません。子供のころの記 憶がずっと残っており、味覚というのは歳をとっても子供のころに戻るといわれます。その意味で、子供たちに対する食育は、緊急を要する課題といえるでしょ う。

[食育-9] いまこそ食育

このように食育の重要性が見えてきたわけですが、では「食育」とは具体的に何を伝え、教えるのでしょうか。食育とは、食を通して幼児・子供の健やかな心と身体を育むことを意味します。その場合、教育的アプローチと環境的アプローチの両面から取り組む必要があります。 imakoso-shokuiku 教育的アプローチとは、食べ物を選ぶ能力、つまりどういうものを食べたらいいのかが分かる力を養うことがまず重要です。さらに食べ物の大切さを知る能力、 料理をする能力、元気な身体が分かる能力なども必要になってきます。つまり子供自身が食べる力を獲得するようにしなければなりません。一方、環境的アプ ローチとは、子供たちが正しい食生活を送れるようにするための環境を作ることで、家族が食事を共にする、あるいは一緒に食事を作ることによって、他人に対 する思いやりの心、命あるものをいただくことへの感謝の気持ちが芽生えてくるのだと思います。つまり、食育とは人としての基本を育てるものであり、人間形 成の根幹であると考えます。

[食育-8] 日本型食生活で食育

まさに食べることは命を育むことにつながることから、家庭、学校、地域において食の伝承を行うことが重要になってきます。 nihongata-seikatude 特に学校においては、子供たちが自ら学ぶ「育自」と、教育者が子供と一緒に食べ、料理を作ることで「共育」することが大切です。また食育は職育につながる ことから、子供に限らず大人に対しても食育が必要だと思われます。私自身の経験から、日本人に対する食育を進める際には、日本型食生活の習慣化が何よりも 重要です。 人間には、神経化学伝達物質による神経調節、サイトカインによる免疫調節、細胞内の情報伝達系による内分泌調節という三大情報連絡系があります。この3つ が正しく作用したとき、心と身体の健康が得られます。食事を美味しく食べることにより、自律神経機能、中枢神経機能がホメオスタシスを保つことができま す。また食事を楽しむことによって、ナチュラルキラー細胞などの免疫細胞が増加します。さらに、正しい食生活のリズムが習慣化されることで、サイロキシン などのホルモン物質の分泌が正しく行われ、それがリズムを持つようになります。 一方、健康食品については、さまざまな問題点があります。たとえば、健康食品だけで健康になったという科学的根拠はほとんど見当たりません。逆に栄養バラ ンスの乱れを促進する危険性があり、摂取方法が難しいという問題もあります。また先ほど板倉先生のお話にあったように、自分の身体の状態、体質に合った健 康食品を選択しなければなりませんが、その基準が明らかになっていないという問題もあるでしょう。そして何より、健康食品はあくまで栄養補助食品であると いうことです。こう考えると、日本型食生活を習慣化することにより、基本的な食材から必要な栄養素を摂取し、免疫機能などを正常に保つようにした方が、容 易に健康維持につながるように感じます。

[食育-7] 最近の子供の好きな料理、嫌いな料理

最近の子供の好きな料理、嫌いな料理に関する調査から、興味深い結果が得られています。 saikin-kodomo 昔からこうした調査を実施すると、カタカナ名の料理が好きなものの上位を占め、日本語名の料理が嫌いなものの上位にくることが多いのですが、最近は焼肉が 好きなものの上位に食い込むなど、若干変化が見られます。もっと重要なことは、サラダやカレーライス、寿司など、同じ料理が好きなものと嫌いなものの両方 で上位にあがっていることです。こうした嗜好の二極化は、家庭における食環境あるいは食育の影響ではないかと思われます。つまり、お父さん、お母さんが好 んで食べるものを、子供たちも好んで食べるようになっているのではないか。まさに「食育の基本は家庭から」であり、さらに家族、友達と楽しく食事すること により、食べ物に対する嗜好や味覚、感謝の気持ちが芽生えてくるのではないかと考えられます。

[食育-6] 食生活の乱れ

私の例ですが、日本型食生活を送っていた20歳代までは非常に健康な数値となっています。しかし徐々に食生活が乱れ、44歳のとき完全に洋風型の食生活に 変わります。その結果、48歳のときには中性脂肪が850mg/dlと非常に高い数値を示し、臍周囲径も88cmと内臓肥満状態になっています。尿数値も 7.6mg/dlとなり、痛風予備軍といっていい状態です。48歳のとき、食生活を以前の日本型食生活に戻すことで、49歳では体重を12kg減らすこと に成功し、今年8月の人間ドックではすべて30代の数値に戻っています。実際にどのような食生活にしたかというと、ご飯、味噌汁、納豆、リンゴ1個、これ にシラスなどの和え物を加えた朝食を毎日きちんと摂るようにしました。 朝食をしっかり摂ると、その日一日を元気に過ごせ、健康食品などもいらなくなります。まさに約750年前、鎌倉時代の僧侶・道元禅師が『典座教訓』にあらわした「正しく食事をすることは、よい薬を服用するのと同じであり、人の身体を養い育てる」ということに他なりません。 食生活のリズムが乱れることによって生体リズムを乱し、病気につながっていくわけですが、私自身の体験からも明らかなように、原因である食生活リズムの乱れを取り除く、つまり朝食を毎日きちんと摂ることによって、生体リズムの回復が得られるわけです。 shokuseitatu-midare これを放置すれば、免疫能が低下し、生活習慣病になり、ひいては体質が変化し、それが次の世代に引き継がれていきかねません。食は命の根源であり、すべて の食べ物には命が宿っていること、日本人の体質にあった食事を摂ることが大切であり、正しい食生活を守ることで正常な生体リズムが獲得でき、それによって はじめて健康・長寿の体質がつくられることになります。その意味で、食育が非常に重要になってくるのです。

[食育-5] 生活リズムの乱れと食生活の乱れ

生活リズムの乱れと食生活の乱れは、互いに影響を及ぼしあいながら習慣化していきます。 funo-spiral その結果、生体リズムが乱れ、病気へと進行していくのです。食生活の乱れが生じる背景として、時間がない、食に対する興味がない、美味しくない、楽しくな い、多様なストレスといった身体的・精神的・社会的不健康があります。これが食欲の減退、食欲はあっても食べたくないといった現象を生み、朝食の欠食、 「こ食」を生じさせます。医療技術が高度に発達したにもかかわらず、生活習慣病が増加し、さまざまな生体機能が低下する理由として、食にその原因があるの ではないか。いわゆる「食原病」ではないかと容易に想像できます。

[食育-4] こ食

現代人は、誰しも何らかの「こ食」を経験しています。「こ食」とは一人で食事する弧食、自分の好きなものしか食べない固食、家の外で食事をする戸食などの8種類です。 8no-koshoku これらは明らかに偏食、奇食であり、こうした食事を長く続けていると生体のリズムが乱れ、味覚障害、学習・記憶能力の低下、体力の低下、免疫能の低下、対 人関係の障害、精神・神経障害などを引き起こします。これが最近若い世代に、子供の生活習慣病、アディクション、働く意欲の減退・喪失といった問題を生ん でいる原因の一つと考えられます。

[食育-3] 最近の日本人の食生活

ところが、最近の日本人の食生活を見ると、栄養バランスが崩れ、米消費の減退、脂質摂取量の増加といった豊食・飽食・崩食が起こっています。さらに1日3 食の食習慣が乱れ、団欒のない貧しい食事、際限のない食の多様化・自由化を招いています。これまで日本人が築いてきた伝統的な食文化が失われ、食料自給率 の減少、肥満、生活習慣病などの増加、学習能力・思考能力の低下、いじめ・引きこもり、膨大な食品ロス、地産地消の崩壊といったさまざまな問題が噴出して いるのです。 ima-nihonde また食生活の乱れからくるさまざまな問題に対処するため、多様な健康食品が生み出されていますが、そうしたものの大量かつ長期的な摂取が、将来、私たちの 健康に及ぼす影響についてまだ科学的なエビデンスが得られないのが現状です。こうした現象の背景には、命に対し感謝する心が欠如しているからではないかと 考えられます。

食育-2日本の食文化について概観

ここで、古来から培われてきた日本の食文化について概観してみます。 nihon-shokubunkakara 日本の食の特徴は、多様な自然、風土、四季から得られる豊かな食材を活用し、粗食あるいは素食と呼ばれるご飯を中心とした伝統食を長年続けてきたことにあ ります。こうした日本型食生活が、日本を世界一の長寿国にした重要な要因の一つであることは誰もが認めることでしょう。こうして得られた健康・長寿によっ て、日本は世界でもトップクラスの多様な文化、科学技術、経済力を獲得することができました。

食育-1生活の乱れが生む生体リズムの乱れ

国立健康・栄養研究所の近藤です。本日は、現代の健康問題を日本人が古来から獲得してきた「日本型食生活」の観点からとらえなおすとともに、日本型食生活 が欧米型の食生活と比べてどう優れているのか、さらに高齢者に対する食育啓蒙が食育全体に及ぼす効果に関する介入試験の結果をご紹介し、最後に健康食品の 現状と食育について簡単にご紹介したいと思います。 戦後の60年間で、日本人の衣食住は劇的な変化を遂げました。その流れを一言でいってしまえば「スローライフからファーストライフへの移行」ととらえる ことができます。特に人の健康の根幹をなす食については、いわゆる日本型から洋風型へと変化し、これが生活のリズムに変化を与え、ひいては生体リズムにも 影響を及ぼしていると考えられます。これが生活習慣病増加の原因といっていいでしょう。 日本文化の変遷

食生活と栄養

戦後60年における「住」と「食」環境の変化がもたらせたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次世代をになう乳幼児・子供の生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子供の発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子供たちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子供の知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。また、OECD(経済協力開発機構)が32カ国の15歳児、約26万5千人を対象に行った学習到達度調査(2000年)では「毎日趣味で読書をしている」という問に対して日本の子供の55%がしていないと回答し、参加国中最も少ない結果が報告されている。
 さらに、最近の子供および若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
 一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子供たちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子供は成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開しいる。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子供であれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 ここで、面白い科学的根拠を述べると、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期は生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「健康生活」の見直し・教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる。
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。この美しい地球の上で展開されるすべてのストーリーは人の力によって起こることを知るべきである。

本書の作成と利用に当たって
 健康とは、健康を「意識」することによってはじめて獲得することが可能である。その意識の確立は生体の機能を維持し、そして健全な健康生活リズムを獲得し、ヒト、生物、社会、組織、家族、国家、民族、地球を愛するこころを持つことができる。このような背景を基に本書を作成した。
 本書は「健康」に興味を持つ一般人を対象としてまとめたが、多少専門的で、難解な箇所もある。しかし、内容を熟読いただき、少しでも「食と栄養・健康生活」の重要性をご理解いただければ幸甚である。また、本書に対する忌憚のないご批判、ご助言をお寄せいただき、今後とも時代に応じて本書の内容を書き改め、ますます使いやすい教科書として成長していくことを切に希望している。
 本書の構成は、全3章からなり、第1章では「食生活と健康」と題し、公衆栄養学の権威者である梶本雅俊氏に執筆いただき、ここでは「食育」に対して、専門家の立場から広範囲に「食生活と健康」に関して洞察いただいた。第2章の「栄養と健康」は食品・栄養学の専門家である柘植光代氏に基礎的な栄養素の知識についてご執筆いただいた。そして第3章「サプリメント」は編者が担当し、サプリメントの行政的な対応を含め、最近注目されている栄養成分について整理した。
 文尾になったが、本書の趣旨に賛同して、研究教育に多忙な中を執筆いただいた各章の執筆者の方々に心から感謝する。また、第2章の「必須性が認められないミネラルやミネラルの歴史・概要のまとめ」については太田麗氏と栗原典子氏に、第3章の「主なハーブ類とその効能」は東栄美氏に、「アロエ、アガリスク、プロポリス食品、ウコン」は玉應聡子氏に、それぞれ資料の収集及び執筆を頂いた。ここに深く感謝する。さらに、本書作成に当たり、計画・実行・ケアーといった全過程において極めて綿密・緻密にご指導いただいた日本実業出版社の松尾由子に深謝する。さらに、本書作成にあたり、㈱ダーツ皆様にきめの細かい配慮をいただいた。ここに厚く御礼申し上げる。
近藤雅雄編著(全174ページ、2005年1月10日発行)、オリエント・メディカル出版 「著者:近藤雅雄、梶本雅俊 柘植光代、玉應聡子、東栄美、太田麗、栗原典子」

本書の内容は以下の通りです。

第1章 食生活と健康(梶本雅俊)
1.健康と栄養
2.現代社会の健康と公衆栄養
3.健康日本21
4.栄養学総論
5.栄養状態の判定
第2章 栄養と健康(柘植光代)
1.食品と食物
2.食品の種類と成分
3.主な栄養素
第3章 サプリメント(近藤雅雄)
1.サプリメントの概説
2.特定保健用食品
3.栄養機能食品(ビタミン類とミネラル)
4.健康補助食品
5.主な健康補助食品
6.主な栄養成分
7.健康食品Q&A