東洋医学において皮膚は最も重要な器官である。皮膚の生理作用は保護作用、感覚作用、体温調節作用、吸収作用、分泌・排泄作用、呼吸作用などが知られているが、近年の分子生物学の発展によって、内分泌作用の発見など新たな展開を迎えている。
近年、皮膚のケラチノサイトがオキシトシンなどのホルモンを生産・内分泌し、他の細胞にいろいろ働きかけていることや様々なホルモンに皮膚が応答することが相次いで報告された。すなわち、グルタミン酸やγアミノ酪酸(GABA)、アセチルコリンやドーパミン、アドレナリンなどの生体物質にケラチノサイトが反応すること。さらに、記憶や学習に関与する脳の海馬にNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)グルタミン酸受容体が局在し、これが表皮でも見出されたこと。これらの結果から、皮膚はこれまでの生体情報連絡系である神経‐内分泌‐免疫の三大システムに皮膚が加わり、「皮膚と脳」「皮膚と免疫」「皮膚とこころとからだの健康」など、生体機能との関連性に興味が持たれる。
近藤 雅雄(東京都市大学)平成31年4月2日掲載
以下のPDF参照
PDF:こころとからだの健康(17)皮膚とこころ
こころとからだの健康(14) 遊びから学ぶ幼児教育、子育て習慣および期待される人材
この数十年の間に子育てに関する社会環境は大きく変化しました。核家族化や男女共同参画社会の進展など、例を挙げればきりがありません。そうした現代社会において最も懸念されるのは、子育てをする親が孤立してしまうことです。そこから多様な悲劇が起こるとも限りません。昔は大家族、そして近所に子どもの遊び場が沢山あり、親子ともども自然に地域コミュニティーが形成されていました。しかし、都市化と共にそうしたコミュニティーは徐々にその姿を消し、結果として子育てについて気楽に相談できる環境も減少しています。子育てには周囲のサポートが不可欠です。家族の協力は勿論のこと、地域社会の協力も必要です。どれだけ時代や社会環境が移り変わっても、「子どもは一人で育てるものではない」ことに変わりはありません。
そこで、幼児教育の基礎と子育て習慣について考えました。現在、子育て中の保護者の参考になれば嬉しいです。(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)
幼児教育の基本~人間形成の基盤を成すこころの教育とは
この地球上にて生を受けた人間は地球の恵みに感謝し、自然の恵みを大切にする。そして、自分自身を愛し、家族、友だちを愛し、社会、地球を大切にできる。そんな人間らしさと幸福感に満ちた環境にて子どもを育て、次代に繋いで行く。それが親の責任だと思います。子育て並びにヒトの本質はいつの時代も同じであり、それは「遊ぶこと」です。遊びの環境を設定し、育てるのが保護者の役割です。
多様な遊びは様々な体験・体感を通して、生きるこころと力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころを学びます。これが人間形成の基盤を成すこころの教育であり、人としての基礎となります。
そのためにも、「教育」を共に育むとした「共育」のこころを持つことです。父親、母親の育った環境とこれからその子どもが育つ環境では20年以上の隔たりがあり、それと共に成育環境は大きく変化しています。したがって、子どもの目線で子どもの育つ時代の環境にて子どもを育むことが大切です。
遊びから学ぶ子育て
人間には「言語的知性」「音楽的知性」「絵画的知性」「論理数学的知性」「身体運動的知性」「感情的知性」「社会的知性」という8つの知性があると言われています。これらの知性は就学前の4~5歳前後をピークとして形成されるもので、「遊び」によって育まれます。人間の知性、こころは脳の活動に直結していますので、就学前こそ、幼児教育に必要な多くの遊びや体験・体感によって、豊かな知性を育むことが重要で、それが成人になって一つまたは複数の知性が大きく育つ要因になります。
多くの親が子どもの「教育」について悩んでいるようですが、子育てには迷いや不安はつきものです。難しく考える必要はありません。なぜなら、子どもの成長に最も必要なのは、この「遊び」だからです。とくに幼少期の教育は「遊びの場を用意してあげること」くらいに考えて丁度良いのではないかと思います。お父さん、お母さんはまず、子どもと一緒に遊んであげることから始めましょう。楽しそうな親の姿を見ると、子どもはもっと楽しくなります。そうすると図に示しましたが、好奇心・集中力が増し、さらに多くの事を遊びから吸収するようになります。それが創造力や自発性、課題発見力、さらには生きる力へとつながっていくのです。
もちろん、親も子どもが遊ぶ中から学ぶことは沢山あります。よく言われることですが、やはり教育は「共育」、育児は「育自」なのです。ぜひ「子どもと」遊ぶ中で「子どもを」学んでください。学びに対する親の姿勢は、必ず子どもに受け継がれていきます。“共育の質の向上は人生の質の向上を担保する”ように子どもとその家族はそれぞれの道、人生に一つの目標・志を持ち、前向きに生きるこころを身に付けます。そして、“社会が求める人間力”が育まれます。
社会が求める人材
“社会が求める人間力”とは図に示しましたように、3つのパワーから成ります。これは社会・国家が求める人材であり、この基礎が幼児期の「遊び」から養われます。人間社会で生きる上で重要なこの3つのパワーとは、①前に踏み出す力(action power);すなわち、主体性を持って前向きに働きかける力、実行力、②考え抜く力(thinking power);すなわち、課題発見力、計画力、創造力、③チームで働く力(teamwork power);すなわち、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、起立性、ストレスコントロール力が身に付きます。これらの基礎力を身に付ける上で基本となるのが、以下に挙げた家族の子育て習慣です。
父親・母親の良い子育て習慣
1.家族の間で、朝起きたら「おはようございます」と言い、毎日挨拶を欠かさないようにしましょう。また、一日に最低一度は食事など団欒の時間を作りましょう。
2.家族は毎日きれいな言葉を使うように努力しましょう。子どもに「お前」「てめえ」「がき」などの汚い言葉で呼ばず、一人の人間として人格を尊んで名前で呼んでください。
3.家族はすべて一人ひとり、お互いに人として尊敬し合い、お互いが感謝のこころを持って接するように努力しましょう。
4.家族は一つの組織です。一人で頑張らないで家族で協力・分担して、日常的に楽しく笑顔を絶やさないよう前向きに生きる努力をしましょう。また、子育てを応援してくれる良い友達を複数持ち、コミュニティーを大切にしましょう。
5.子どものこころの痛みを自分のこころの痛みとして感じる「思い遣り」のこころを持ちましょう。また、子どもとのスキンシップによるコミュニケーションを大切にしましょう。
6.お互いを理解し合い、人の言うことをよく聞きましょう。また、何でも相談し合える環境を創るよう努力しましょう。こ れらが人間関係を形成していく上で大切になります。
7.子どもを泣かすより笑顔を引き出すように努力しましょう。子どもが病気でもないのに泣くのは、悲しいか、怖いかのどちらかです。子どもの気持ちを理解することが大切です。
8.子どもが良いことをしたときや、言うことを聞いたとき、頑張ったときなどは積極的にほめてあげましょう。叱りつけるよりもほめることを優先し、子どものやる気・意欲・能力を引き出すように努力しましょう。「教育」とは「引き出す」という意味でもあります。
9.自然に接する機会をたくさん作り、体験・体感を豊かに育てましょう。ノーベル賞学者など世の中の偉人と呼ばれる人のほとんどが、幼児期には遊びの多い自然の中で育っています。
10.「sense of wonder」という言葉があります。これは「不思議さや神秘さに目を見張る感性」を指し、子どもの教育に大変重要です。子どもは成長過程で様々な体験・体感を通して好奇心、自発性、創造力をからだとこころで育みます。
参考図書
1.近藤雅雄:子育てハンドブック、Tokyu Child Partners、東急グループ、2015
2.澤口俊之:幼児教育と脳、文春新書、2004
3.浜尾実:子どもを伸ばす一言、ダメにする一言、PHP文庫、2001
(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)
そこで、幼児教育の基礎と子育て習慣について考えました。現在、子育て中の保護者の参考になれば嬉しいです。(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)
幼児教育の基本~人間形成の基盤を成すこころの教育とは
この地球上にて生を受けた人間は地球の恵みに感謝し、自然の恵みを大切にする。そして、自分自身を愛し、家族、友だちを愛し、社会、地球を大切にできる。そんな人間らしさと幸福感に満ちた環境にて子どもを育て、次代に繋いで行く。それが親の責任だと思います。子育て並びにヒトの本質はいつの時代も同じであり、それは「遊ぶこと」です。遊びの環境を設定し、育てるのが保護者の役割です。
多様な遊びは様々な体験・体感を通して、生きるこころと力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころを学びます。これが人間形成の基盤を成すこころの教育であり、人としての基礎となります。
そのためにも、「教育」を共に育むとした「共育」のこころを持つことです。父親、母親の育った環境とこれからその子どもが育つ環境では20年以上の隔たりがあり、それと共に成育環境は大きく変化しています。したがって、子どもの目線で子どもの育つ時代の環境にて子どもを育むことが大切です。
遊びから学ぶ子育て
人間には「言語的知性」「音楽的知性」「絵画的知性」「論理数学的知性」「身体運動的知性」「感情的知性」「社会的知性」という8つの知性があると言われています。これらの知性は就学前の4~5歳前後をピークとして形成されるもので、「遊び」によって育まれます。人間の知性、こころは脳の活動に直結していますので、就学前こそ、幼児教育に必要な多くの遊びや体験・体感によって、豊かな知性を育むことが重要で、それが成人になって一つまたは複数の知性が大きく育つ要因になります。
多くの親が子どもの「教育」について悩んでいるようですが、子育てには迷いや不安はつきものです。難しく考える必要はありません。なぜなら、子どもの成長に最も必要なのは、この「遊び」だからです。とくに幼少期の教育は「遊びの場を用意してあげること」くらいに考えて丁度良いのではないかと思います。お父さん、お母さんはまず、子どもと一緒に遊んであげることから始めましょう。楽しそうな親の姿を見ると、子どもはもっと楽しくなります。そうすると図に示しましたが、好奇心・集中力が増し、さらに多くの事を遊びから吸収するようになります。それが創造力や自発性、課題発見力、さらには生きる力へとつながっていくのです。
もちろん、親も子どもが遊ぶ中から学ぶことは沢山あります。よく言われることですが、やはり教育は「共育」、育児は「育自」なのです。ぜひ「子どもと」遊ぶ中で「子どもを」学んでください。学びに対する親の姿勢は、必ず子どもに受け継がれていきます。“共育の質の向上は人生の質の向上を担保する”ように子どもとその家族はそれぞれの道、人生に一つの目標・志を持ち、前向きに生きるこころを身に付けます。そして、“社会が求める人間力”が育まれます。
社会が求める人材
“社会が求める人間力”とは図に示しましたように、3つのパワーから成ります。これは社会・国家が求める人材であり、この基礎が幼児期の「遊び」から養われます。人間社会で生きる上で重要なこの3つのパワーとは、①前に踏み出す力(action power);すなわち、主体性を持って前向きに働きかける力、実行力、②考え抜く力(thinking power);すなわち、課題発見力、計画力、創造力、③チームで働く力(teamwork power);すなわち、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、起立性、ストレスコントロール力が身に付きます。これらの基礎力を身に付ける上で基本となるのが、以下に挙げた家族の子育て習慣です。
父親・母親の良い子育て習慣
1.家族の間で、朝起きたら「おはようございます」と言い、毎日挨拶を欠かさないようにしましょう。また、一日に最低一度は食事など団欒の時間を作りましょう。
2.家族は毎日きれいな言葉を使うように努力しましょう。子どもに「お前」「てめえ」「がき」などの汚い言葉で呼ばず、一人の人間として人格を尊んで名前で呼んでください。
3.家族はすべて一人ひとり、お互いに人として尊敬し合い、お互いが感謝のこころを持って接するように努力しましょう。
4.家族は一つの組織です。一人で頑張らないで家族で協力・分担して、日常的に楽しく笑顔を絶やさないよう前向きに生きる努力をしましょう。また、子育てを応援してくれる良い友達を複数持ち、コミュニティーを大切にしましょう。
5.子どものこころの痛みを自分のこころの痛みとして感じる「思い遣り」のこころを持ちましょう。また、子どもとのスキンシップによるコミュニケーションを大切にしましょう。
6.お互いを理解し合い、人の言うことをよく聞きましょう。また、何でも相談し合える環境を創るよう努力しましょう。こ れらが人間関係を形成していく上で大切になります。
7.子どもを泣かすより笑顔を引き出すように努力しましょう。子どもが病気でもないのに泣くのは、悲しいか、怖いかのどちらかです。子どもの気持ちを理解することが大切です。
8.子どもが良いことをしたときや、言うことを聞いたとき、頑張ったときなどは積極的にほめてあげましょう。叱りつけるよりもほめることを優先し、子どものやる気・意欲・能力を引き出すように努力しましょう。「教育」とは「引き出す」という意味でもあります。
9.自然に接する機会をたくさん作り、体験・体感を豊かに育てましょう。ノーベル賞学者など世の中の偉人と呼ばれる人のほとんどが、幼児期には遊びの多い自然の中で育っています。
10.「sense of wonder」という言葉があります。これは「不思議さや神秘さに目を見張る感性」を指し、子どもの教育に大変重要です。子どもは成長過程で様々な体験・体感を通して好奇心、自発性、創造力をからだとこころで育みます。
参考図書
1.近藤雅雄:子育てハンドブック、Tokyu Child Partners、東急グループ、2015
2.澤口俊之:幼児教育と脳、文春新書、2004
3.浜尾実:子どもを伸ばす一言、ダメにする一言、PHP文庫、2001
(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)
子どもとくすり~くすりの正しい使い方と安全管理
くすりについての知識は経験上知り得たものが殆どであり、改めて学ぶことはないと思う人が多いのが現状ではないでしょうか。しかしながら、子どもに対しては保護者がくすりの安全性を十分認識した上で投与することが責務となり、くすりに対する知識が必要となります。その理由は、医師または薬剤師から処方される薬にはすべてリスク(副作用、危険性)があり、処方を間違えるといのちにかかわる重大事故につながりかねないからです。
したがって、誰でも一度はくすりについての基礎的知識を学び、病気の治療・予防、さらに医薬品の管理について学んでおく必要があります。とくに、子どもを持つ保護者、保育園や幼稚園など保育・教育に関わる先生および施設では必ず学習してほしいと願っています。
そこで、本論文では医薬品に関する基礎知識、くすりの正しい使い方、くすりの副作用と相互作用、妊娠・授乳とくすり、くすりの保管、くすりの記録についてまとめました。以下のpdfを参照して下さい。(掲載年月:平成28年4月23日) 子どもとくすり,pdf
したがって、誰でも一度はくすりについての基礎的知識を学び、病気の治療・予防、さらに医薬品の管理について学んでおく必要があります。とくに、子どもを持つ保護者、保育園や幼稚園など保育・教育に関わる先生および施設では必ず学習してほしいと願っています。
そこで、本論文では医薬品に関する基礎知識、くすりの正しい使い方、くすりの副作用と相互作用、妊娠・授乳とくすり、くすりの保管、くすりの記録についてまとめました。以下のpdfを参照して下さい。(掲載年月:平成28年4月23日) 子どもとくすり,pdf
人間として生きる力を育てる
地球上には数千万種の生物(生命体)が生息しているといわれるが、遺伝子の構造と原理はすべて共通している。
この遺伝子の本体であるDNAの構造 が発見されてから約50年経つ。その間の分子生物学の発展は驚異的で、生命のしくみが分子レベルで解明され、2003年4月には人の全遺伝子情報の解読、 2007年11月には人の皮膚細胞からさまざまな組織・臓器の細胞に生長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功している。
しかし、自然科学者の一人として、研究者の飽くなき未知への探求を考えた場合、万能細胞や遺伝子技術はひとたび方向性を間違えなければ、生命系の混乱を惹き起こす。この ことは、地球環境の問題がそうであるように。最終的には人間に及ぶことを忘れてはならない。いま、人類が早急に定めなくてはならないことは、これら技術を 人類の叡智で健康・医療などを目的として、人間社会の持続可能な発展に貢献しなければならないというルール(生命・地球倫理)を作ることである。
そのためには、基本的教養(人間としての品格)と健康(心身および社会的に健康であること)を身につけることが重要で、すべての人類が教養を持ち健康を意 識すれば、戦争や地球環境の悪化は起こらない筈である。私たちは人間として、地球の恵み、宇宙の恵みに感謝し、自然の営みを大切にする心を持って、次世代 を担う子どもを人間らしく、幸せになるように育てる責任がある。宇宙の中で、人間が住むたった一つのこの美しい地球を次世代に引継ぐべく様々な運動を展開 する必要がある。
人間は約5000万年前にチンパンジー類の系統から分かれ、250万年前に音声言語を獲得し、現代人へと進化してきた。そして、人間だけが哺乳動物の中で大脳皮質の前頭連合野を大きく進化させ(チンパンジーの約6倍ある)、発達し、地球上の生物界を支配するようになった。
最近の脳科学の発展によって、人間としての言語、思考、創造、意思、感情、理性、感性などの様々な機能、人格形成はこの前頭連合野にて行われ、その基本的な神経およびシナプスの回路は8歳頃(遅くとも12歳頃)までにほぼ完成されるという。
この領域が障害すると、統合失調症、うつ病、強迫神経症、注意欠陥/多動障害などのこころの病気が生じる。また、生まれてから8歳くらいまで狼に育てられ たカルマや、幼児の頃から12歳頃まで精神異常の父親によって監禁されたジニーの、人間としての言葉の喪失、前頭連合野に障害を受け、人格が崩壊したファ ニアス・ゲージ、そしてノーベル医学生理学賞を受賞したアントニオ・E・モリスの「前頭葉ロボトミー」による性格(人格)の喪失などでも明らかなように、 人間としての生きる力を失う。
日本では高度成長期の終焉を迎えた70年代後半から、核家族、少子高齢化、地域コミュニティーの崩壊、地域格差、教育の荒廃が生、その結果、孤立、エゴ、孤食、不登校、陰湿ないじめ、暴力などといった社会問題が起こり、育児放棄や身体的・心理 的・性的虐待などといった児童虐待へと連鎖している。この頃から、子どもや若者は感動すること、感動して涙を流すことが少なくなったように思える。
涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間特有の生理現象である。涙を流すことによってこころが洗われるとよく言うが、それは脳 内の良い遺伝子が働き前頭連合野を成長させるからである。したがって、人間として生き、人間として育むためには幼児期における教育がいかに重要であるかがわかる。
私の幼少の頃は父親あるいは母親に映画や演劇・歌舞伎を観によく連れて行かれたものである(しかし、両親と一緒に行った記憶はない)。そこには感動も含めて、人間として成長・発達していくための多くの要素を含んでいたように思われる。
演劇は、演じる者、見る者が一体となって、人と人との間のコミュニケーションを基盤に、様々な知恵の伝承、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕す るといった素直な心を養う。個を取り巻く様々な事象(人、社会、自然)を知覚するための知性と感性が育まれ、そこから自主性、独創性、創造性、集中力、積 極性、幸福感、達成感などを感じ取り、将来へ向けた計画、展望、夢を見るようになる。そして、人間として生きる力(自助、共助の精神)を獲得し、相手を思 いやる気持ち、自然を守ることの大切さを知る。これらの前頭連合野の働きはやがて大人になって、「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和(社 会)」に貢献し、様々な技術を善用できるこころと体力を持つようになる。
人間の本質は遊びである。演劇も遊びである。遊びの基本は自発性であり。好奇心であり、脳の働きそのものである。人間として正しく生きる力を育むためには、幼児期に体系的な感性を育む遊びを中心とした総合的教育が大切である。
子どもたちの未来のため、人類が平和と環境を堅持するためにも、演劇を通して幼児教育に様々な形で貢献されている児童・青少年演劇の活動に期待したい。
(近藤雅雄:2008年3月25日、児童・青少年演劇ジャーナル「げき6」巻頭言掲載;編集・発行=児童・青少年演劇ジャーナル編集委員会、発売=晩成書房)
この遺伝子の本体であるDNAの構造 が発見されてから約50年経つ。その間の分子生物学の発展は驚異的で、生命のしくみが分子レベルで解明され、2003年4月には人の全遺伝子情報の解読、 2007年11月には人の皮膚細胞からさまざまな組織・臓器の細胞に生長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功している。
しかし、自然科学者の一人として、研究者の飽くなき未知への探求を考えた場合、万能細胞や遺伝子技術はひとたび方向性を間違えなければ、生命系の混乱を惹き起こす。この ことは、地球環境の問題がそうであるように。最終的には人間に及ぶことを忘れてはならない。いま、人類が早急に定めなくてはならないことは、これら技術を 人類の叡智で健康・医療などを目的として、人間社会の持続可能な発展に貢献しなければならないというルール(生命・地球倫理)を作ることである。
そのためには、基本的教養(人間としての品格)と健康(心身および社会的に健康であること)を身につけることが重要で、すべての人類が教養を持ち健康を意 識すれば、戦争や地球環境の悪化は起こらない筈である。私たちは人間として、地球の恵み、宇宙の恵みに感謝し、自然の営みを大切にする心を持って、次世代 を担う子どもを人間らしく、幸せになるように育てる責任がある。宇宙の中で、人間が住むたった一つのこの美しい地球を次世代に引継ぐべく様々な運動を展開 する必要がある。
人間は約5000万年前にチンパンジー類の系統から分かれ、250万年前に音声言語を獲得し、現代人へと進化してきた。そして、人間だけが哺乳動物の中で大脳皮質の前頭連合野を大きく進化させ(チンパンジーの約6倍ある)、発達し、地球上の生物界を支配するようになった。
最近の脳科学の発展によって、人間としての言語、思考、創造、意思、感情、理性、感性などの様々な機能、人格形成はこの前頭連合野にて行われ、その基本的な神経およびシナプスの回路は8歳頃(遅くとも12歳頃)までにほぼ完成されるという。
この領域が障害すると、統合失調症、うつ病、強迫神経症、注意欠陥/多動障害などのこころの病気が生じる。また、生まれてから8歳くらいまで狼に育てられ たカルマや、幼児の頃から12歳頃まで精神異常の父親によって監禁されたジニーの、人間としての言葉の喪失、前頭連合野に障害を受け、人格が崩壊したファ ニアス・ゲージ、そしてノーベル医学生理学賞を受賞したアントニオ・E・モリスの「前頭葉ロボトミー」による性格(人格)の喪失などでも明らかなように、 人間としての生きる力を失う。
日本では高度成長期の終焉を迎えた70年代後半から、核家族、少子高齢化、地域コミュニティーの崩壊、地域格差、教育の荒廃が生、その結果、孤立、エゴ、孤食、不登校、陰湿ないじめ、暴力などといった社会問題が起こり、育児放棄や身体的・心理 的・性的虐待などといった児童虐待へと連鎖している。この頃から、子どもや若者は感動すること、感動して涙を流すことが少なくなったように思える。
涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間特有の生理現象である。涙を流すことによってこころが洗われるとよく言うが、それは脳 内の良い遺伝子が働き前頭連合野を成長させるからである。したがって、人間として生き、人間として育むためには幼児期における教育がいかに重要であるかがわかる。
私の幼少の頃は父親あるいは母親に映画や演劇・歌舞伎を観によく連れて行かれたものである(しかし、両親と一緒に行った記憶はない)。そこには感動も含めて、人間として成長・発達していくための多くの要素を含んでいたように思われる。
演劇は、演じる者、見る者が一体となって、人と人との間のコミュニケーションを基盤に、様々な知恵の伝承、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕す るといった素直な心を養う。個を取り巻く様々な事象(人、社会、自然)を知覚するための知性と感性が育まれ、そこから自主性、独創性、創造性、集中力、積 極性、幸福感、達成感などを感じ取り、将来へ向けた計画、展望、夢を見るようになる。そして、人間として生きる力(自助、共助の精神)を獲得し、相手を思 いやる気持ち、自然を守ることの大切さを知る。これらの前頭連合野の働きはやがて大人になって、「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和(社 会)」に貢献し、様々な技術を善用できるこころと体力を持つようになる。
人間の本質は遊びである。演劇も遊びである。遊びの基本は自発性であり。好奇心であり、脳の働きそのものである。人間として正しく生きる力を育むためには、幼児期に体系的な感性を育む遊びを中心とした総合的教育が大切である。
子どもたちの未来のため、人類が平和と環境を堅持するためにも、演劇を通して幼児教育に様々な形で貢献されている児童・青少年演劇の活動に期待したい。
(近藤雅雄:2008年3月25日、児童・青少年演劇ジャーナル「げき6」巻頭言掲載;編集・発行=児童・青少年演劇ジャーナル編集委員会、発売=晩成書房)