闘病記 “血液のがん”「原発性マクログロブリン血症」

本書は2回目の新型コロナウイルスmRNAワクチン接種後、医師から“血液のがん”「原発性マクログロブリン血症」、5年生存率36~40%を告げられた筆者の診断、治療、予後に関する記録集です。執筆に至った経緯(趣旨)は
①100万人に数人という超稀少疾患を広く知って欲しい。
②人生の終活の目標。
③大学医学部附属病院でのがん治療の意義。
④新型コロナウイルスmRNAワクチン接種のリスクと政治・行政。
⑤病は気から、健康と病気、自発的治癒。
などについて、記録として残したいことが主な理由です。

 本書は、病気療養中に調査、執筆、デザイン、表紙・背表紙・裏表紙の作成、本文の作成などすべて一人でノートパソコンを使って作成し、印刷・製本のみ業者に委託してできた自費出版物です。

PDFがん闘病記、目次2024.3.31

君が見る夢、4つの夢とその生理

人は生涯を通して多彩な夢を見る。広義には記憶に関わる「睡眠中に見る」ものと生きるための活力となる「将来の希望」といったものの2種類があり、どちらも社会生活上重要である。本稿では、これに2つを加えた4つに分類し、筆者の経験に基づき、その生理について解剖した。
第1の夢はレム睡眠中に見る無意識の夢であり、喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲の7情に関するものが多い。
第2の夢は睡眠中に見るものではなく、将来の希望や人生の目標と言ったものを指す。目標を設定し、強い意志でそれに立ち向かえば夢は叶えられることが多い。
第3の夢は寝る前とレム睡眠時に強く意識したことが夢となって現れ、新たなアイデアや発想が浮かんでくることがある。強い意志が夢を呼ぶのだ。
第4の夢は死に直面した無意識の夢「忘却の物語」である。現実世界と死後世界の境界である。臨死体験だが、「川」「光」「闇」の出現は広く知られている。
「人生は夢と共にあり、夢と共に消えゆく」夢が人生を変える。ならば、楽しい夢のある夢を見て生きて行きたいものだ。
PDF:夢23.10.22.vir1doc

単行本「前へ」出版

本書は、学びの路線「研究職と教育職」を生涯の職として選択し、それを走破、たどり着いた我が学者人生を追懐した。昭和から平成、令和の3時代を生き、そして、古希を過ぎ、終の人生を迎えるにあたって、過去の多くの出来事を記録し、後世に遺すことは、次代に生きる人の「人生の道しるべ」として役立つかもしれない。また、生きるヒントになるかもしれない、終の人生を世話になった人への感謝と次代への引継ぎとして本書の創作を企画した。 人は誰にでも死は訪れるものだ。これまで幸せな生活を送り、突然に「死を宣告」された時、大切な言葉を一つ挙げるならば、それは「前へ」であった。死に行く者も、生きていればさまざまな喜怒哀楽、ストレスが日々変化して訪れる。それをうまくコントロールし、「前へ」突進む努力をする。人間は、前向きで、大切なものをこころに持ち、素直に社会に貢献する謙虚な姿勢を持ち続けることが大切だ。それを行動に移し、新たな道を拓き生きて行く。そして、「1日でも長く健康で、前へ生きる」、「家族のため、社会のために頑張る」が最も基本的で豊かな人生といえる。さらに、そこに「感謝する人がいて、そして、感謝される」そういう人生は真に幸せである。
本書は、勉強が嫌いな子どもが、高校に進んでから勉強が好きになり、多くの良き人間に恵まれ「学び」を生涯の職として生きる人生の記録集である。第1章は過去の忘れられない時代を検証した。第2章は筆者の主な先駆的な研究の成果を記し、次代への参考とした。第3章は健康寿命の延伸とQOL向上を目指し、自発的治癒の重要性と新たな病気に侵された筆者の挑戦について記録した。第4章は平成19年以降、教育機関などで行った挨拶を「こころのメッセージ」として綴った。第5章は昭和、平成、令和の時代を駆け巡った教育・研究者としての実録と「人生の道しるべ」となった人々との出会いを回想した。第6章は家族、恩人、友人などへの感謝と伝えたい言葉、夢を見ることの重要性、そして、多くの人への感謝をこころ込めて綴った。(B5版、216頁)
令和5(2023)年8月 近藤 雅雄

医学書「指定難病 日本のポルフィリン症」1, 2, 3 を出版

ポルフィリン症について、3部作で纏めました。
まず、第1部はポルフィリン症の診断・治療、患者の権利、指定難病・未承認薬獲得までの経緯など医学・医療の総合的書物として纏めました。
2022年7月、「ポルフィリン症」の歴史、病因、診断法、診断基準、治療法、疫学・臨床統計、予防法、生活実態などについて、40年以上に亘る研究の成果を独自の視点から科学的に纏めました。また、未承認薬や指定難病の承認の経緯などについて纏めました。(B5版、321ページ)

構成は「Ⅰ.医学編」と「Ⅱ.患者編」に分け、医学編(第1章)ではポルフィリン症の医学と題し、遺伝性ポルフィリン症が「指定難病」認定のきっかけとなった調査研究として、2009年、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)の「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療法の開発に関する研究」研究班(研究代表者:筆者)を中心に纏めた診断基準および治療指針を編集・修正して記載すると同時にポルフィリン・ヘム生合成機序ならびにその調節機序、遺伝性ポルフィリン症の発症機序などについて纏めました。患者編(第2~5章)では患者を中心とし、第2章は患者さんの権利獲得に向けた活動(指定難病、未承認薬承認)を中心に書きました。第3~5章は患者さんの治療後の現状、診療体制の問題点、患者さんの生活習慣改善、健康維持に関する諸情報を纏めました。

本書が医師などの医療関係者、医学研究者等々の目に留まり、ポルフィリン症患者の診断の向上並びに臨床研究の発展に繋がることを期待しています。そして、何よりもポルフィリン症患者さんのQOLの向上と健康寿命の延伸、そして、患者さん方が未来に向かって安心・安全な社会活動が送れるよう、病気が根治可能な社会となることを願っています。
そして、第2部、第3部については、2023年4月、「ポルフィリン症2」(B5、200ページ)の診断と治療について、臨床研究用に纏めました。
また、「ポルフィリン症3」(B5,252ページ)は臨床医用に即診断と治療に利用できるよう纏めました。
PDF

植物内ポリフェノールの増量方法の発見

現代人の免疫能は低下し、特に高齢者の免疫能は著しく低下している。その主な原因として、急速な食生活の変化、肥満、加齢、ストレスなど、各種酸化ストレスによる影響が示唆されている。この活性酸素が原因で起こる各種疾病の防御を目的としてフラボノイド類の摂取が注目されている。フラボノイド類には約5-7,000種ともいわれる多数の物質が報告され、その構造は極めて似ているが、その抗酸化機能は各種異なる。これらフラボノイドの標準統一分析方法は未だになく、各々の抗酸化物質の抗酸化能についてもはっきりしていない。
そこで、約30種類の抗酸化物質についてその作用を検討すると同時に、世界に先駆けてUV検出器とHPLC分析による各種フラボノイドの一斉同時自動分析法の開発を行った。さらに、各種野菜・果物のフラボノイドを分画定量し、その含有量およびペンタキープ(ALA肥料、コスモ石油(株))投与による影響を検討した。その結果、これまでに多くの抗酸化物質の中で、ルテオリンが細胞内・外での活性酸素消去能が最も高いことを証明し、さらに、ALAを投与し栽培した植物のフラボノイドおよびミネラル量に及ぼす影響について検討を行った。その結果、ルテオリン(図)をはじめフラボノイド類が平均約10倍増量することを見出した。
PDF:ALA-ポリフェノール

二つの脳、右脳と左脳

脳は大脳(皮質、辺縁系、基底核)、間脳(視床、視床下部)、脳幹(中脳、橋、延髄)、小脳からなりますが、人では他の哺乳動物と異なって大脳皮質が大きく発達し、知的な活動もコントロールできるようになりました。この皮質については、①全ての人が同じ数の神経細胞(約140億個)を持つ。②心身(こころとからだの働き)の司令塔である。③感覚、運動の統合、意志、創造、思考、言語、感情の中心となる。④成長に従って発達し、ゆっくり退化する。⑤一日、週、月、四季、摂食・消化、神経・ホルモンの各リズムが存在する。⑥心身の疲労を回復し、記憶に役立つ睡眠のリズムが存在する。⑦男と女との違い等、脳の中で最も重要ですが、その中で人として最も大切なのが、前頭連合野です。この部位は思考、言語、理解、理性、感性と8つの知性など人間としてのこころの働き(精神活動)の中心となっているので、人としての「こころの中枢」と言えます。 PDF:右脳と左脳

内リンパ水腫(蝸牛型メニエール病)の治療評価法の新規作成と治療体験

 近年、蝸牛型メニエール病(急性低音障害型感音性難聴, ALHL)の発症が増加している。本症は「内リンパ水腫」を原因とするのでメニエール病の不全型ともいえる。症状は激しい回転性のめまいはなく、低音が聞こえにくい難聴、耳鳴り、耳閉塞感を主とし、状態がよくなっても再発を繰り返すのが特徴で、メニエール病に移行することが多い。病気が完成すると難治性となるため、早期の治療が重要である。しかしながら、現代の医療では治療法は確立していない。一般的によく言われているのが、安静の確保とストレスを取り除くこと。そして、基本的な薬物療法を行うことである。薬物療法の第一選択は強い浸透圧による脱水力で内リンパ水腫を軽減させるイソソルビドなどの利尿剤が用いられる。内耳の血液循環改善薬が使われることも多い。また、炎症を抑えるためにステロイド剤や精神安定剤、ビタミンB12製剤も使われることがある。

 本論文では、筆者自らALHLを発症したのを契機に、治療に対する評価法を新たに作成し、科学的に原因究明と治療の経過を追及したので報告する。また、本疾患を体験して、大学病院の耳鼻咽喉科における医療の現状についても報告した。(2022年8月1日執筆)

PDF:メニエール病論文  

グローバル社会に生きる-海外に行き、海外を知り、海外で活躍そして日本に貢献-

 たった一つの新型コロナウイルスによってすべての価値が一変しました。あっという間に、このウイルスは世界中に拡散して私たちを自粛の世界へと導き、オンライン勤務、物の売買や教育など、社会生活を一変させ、日本経済の破綻を加速させました。社会生活においてはコンピュータ(PC)やスマホが日常生活上不可欠となり、この2つがあればどこでも仕事ができ、オンラインやテレワーク、在宅という言葉が日常化しました。また、情報や生活必要品はいつでも自宅にいながら得ることができるようになりました。一方で、飛行機やリニアなどの交通の利便性により、世界が身近になり、さらに空飛ぶ自動車やドローンの開発など、すでに現代はグローバル社会であることに気付きます。

 グローバル化とは、社会的あるいは経済的な事象などが国や地域などの境界を越えて地球規模で拡大し、多様な変化を起こす現象ですが、現代はすでにグローバル社会(国際化時代)といえます。そして、国境を越えた市場の時代を迎え、グローバルビジネスや企業はもとより官公庁、大学でも必須となっています。

 このようにグローバル21世紀を生きる私たちは、急速な時代の変化を理解し、それ対応する能力を持ち、さらに、海外で多様に活動する気概も必要です。日本人はこのグローバル時代に、海外に行き、海外を知り、海外での活躍に呼応していかないと、日本の地位は更に低下するでしょう。

 私たちはグローバル社会を理解し、その実態を自分の目で見て、異文化を理解する必要性があります。私も、44歳時に米国ニューヨーク州マンハッタンにあるロックフェラー大学にて友人の藤田先生と共に血液生化学のプロフェッサーと共同研究を行うために2~3か月間の研究生活を体験しました。滞在中に世界に先駆けて患者の遺伝子の異常を発見し、発症機序を解明しました。その時の経験は日本ではまったく得ることができないほど貴重なもので、その後の人生(教育・研究)は大きく変わりました。私が海外生活を送ったのは中年期でしたが、海外生活は若ければ若いほどその体験は大きな広がりを見せます。しかし、中・高齢期であっても得られる価値観は同じで、その後の人生、社会が大きく良い方向に変わっていくものと信じます。

 海外で活躍したい人、海外での生活に興味がある人、外国人と接したい人、海外留学したい人は勿論のこと、日本国内でこれから頑張ろうという人もグローバル時代に国際人として活躍し、生きる資質を身につけることが当然の如く必要となってきます。

 現在、日本の経済力、科学技術力、教育力などが低下、GDPも2010年に中国に抜かれてから急速に低下し、しかも「国の借金」は1,200兆円を超えています。このように、現代日本社会はいつ崩壊してもおかしくない不安定なバランスの上に成り立っています。すでに「日本の未来予測年表と医療」に記載しましたが、2065年以降日本は経済が破綻し、外国人によって無人の日本国土が占拠される(もう始まっている)。日本国はどこに向かっているのだろうか?50年後、100年後といった未来への展望がみえません。現在の日本組織はかなり脆弱になっています。現金(ポイント)のバラマキが横行している今日、年金介護問題、少子高齢社会、国家財政の破綻などの多くの問題を抱えている日本ですが、日本国民として、歴史を重んじ平和で幸せな活力ある国家となるよう期待したいです。

 グローバル社会は1975年松下幸之助氏曰く、「国際化時代とは一国一民族という垣根をはなれて、多くの国、多くの民族、あるいは多くの言語や習慣の違う人々と交わり、共同作業をすることが多くなる時代です。その時に最も大事なのは、世界人類が共々に持っている人間としての本質と共に、国や民族、あるいは時代によって違っている面を、正しく見つめ、理解し、これを生かし合っていくことであろう。」と述べています。科学分野では、この70~90年代は多くの若手博士研究者が海外に留学に出ました。米、英、仏、独国などが多く、帰国後は大学や研究所で活躍しましたが、その後は研究者の留学は減少し、逆に留学した経験を基に大学のグローバル授業の一環として海外大学協定校への留学システムを構築し、学生の留学数が増加しています。これは日本にとって大変良いことと思います。

 一方、東洋医学におけるICD-11第26章活用およびICF, ICHIの導入として、伝統医学のグローバル化が注目されています。伝統医療は多数あり、多様な文化的背景に根差す風土固有の規範、信念、経験に基づく知識、技術、実践法が集約されたものであり、人々の健康維持と共に、心身の病を診断、治療する手段として利用されてきたものです。そこで、大志を掲げるあはき師も、日本の伝統精神と療法をしっかりと受継ぎ、東洋医学療術師として現代および次代のグローバル時代を生き、国際人として大いに活躍していってほしいと願います。(近藤雅雄:2022年7月8日)

日本の未来予測~これから80年

 新型コロナウイルス(COVID-19)は昨年末(2020年12月8日)中国武漢で発生以来、南極大陸を除く全ての大陸に瞬く間に広がりました。この世界的大流行は今後の世界及び日本の未来に大きく影響を与えることは確実です。事実、流行地域のすべての国において、甚大な社会的、経済的、そして政治的危機を引き起こし、医療・福祉、教育、食糧・食生活、地域社会、レジャー、仕事、働き方等々、日常生活に大きな影響を与えています。同時に、今回のパンデミックから新たな感染症や地球環境の異常、経済の大恐慌、覇権統治・覇者の誕生、国家間の紛争など、この地球上でいつ起きてもおかしくない状況にあることを学びました。
 さらに、現在のGAFA(4つの巨大企業グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に依存したIT社会、汎用AI、デジタル化など、このコロナ禍によって一気に加速することが考えられます。高齢者にとっては益々住み難い社会となるでしょう。人間らしい生き方、人間社会のあり方、社会・経済・政治のあり方等、国家のあり方について、私たちが生活を営む「地球環境と生物多様性」の保全を基本に、真摯に考え直す時期が今です。
 私は地球規模的に、いつどのような危機が到来しても子どもと高齢者が住みやすい、健康で人間としての尊厳を失わず、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕する素直なこころ、さらに、前向きに生活技術の工夫を行う知恵と将来を夢見るこころを持って「自由」なこころで、「正当性」「責任」を持って、「平和」に貢献できる人間社会の構築を願っています。
 そこで、今後80年間の日本の未来について検討し、PDFに予測年表として掲載しました。内容は今回のコロナ禍によって変わることが予測されます。(近藤雅雄:2020年10月18日掲載)
PDF:日本の未来20.10.18

こころとからだの健康(14) 遊びから学ぶ幼児教育、子育て習慣および期待される人材

 この数十年の間に子育てに関する社会環境は大きく変化しました。核家族化や男女共同参画社会の進展など、例を挙げればきりがありません。そうした現代社会において最も懸念されるのは、子育てをする親が孤立してしまうことです。そこから多様な悲劇が起こるとも限りません。昔は大家族、そして近所に子どもの遊び場が沢山あり、親子ともども自然に地域コミュニティーが形成されていました。しかし、都市化と共にそうしたコミュニティーは徐々にその姿を消し、結果として子育てについて気楽に相談できる環境も減少しています。子育てには周囲のサポートが不可欠です。家族の協力は勿論のこと、地域社会の協力も必要です。どれだけ時代や社会環境が移り変わっても、「子どもは一人で育てるものではない」ことに変わりはありません。
 そこで、幼児教育の基礎と子育て習慣について考えました。現在、子育て中の保護者の参考になれば嬉しいです。(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

幼児教育の基本~人間形成の基盤を成すこころの教育とは
この地球上にて生を受けた人間は地球の恵みに感謝し、自然の恵みを大切にする。そして、自分自身を愛し、家族、友だちを愛し、社会、地球を大切にできる。そんな人間らしさと幸福感に満ちた環境にて子どもを育て、次代に繋いで行く。それが親の責任だと思います。子育て並びにヒトの本質はいつの時代も同じであり、それは「遊ぶこと」です。遊びの環境を設定し、育てるのが保護者の役割です。
 多様な遊びは様々な体験・体感を通して、生きるこころと力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころを学びます。これが人間形成の基盤を成すこころの教育であり、人としての基礎となります。
 そのためにも、「教育」を共に育むとした「共育」のこころを持つことです。父親、母親の育った環境とこれからその子どもが育つ環境では20年以上の隔たりがあり、それと共に成育環境は大きく変化しています。したがって、子どもの目線で子どもの育つ時代の環境にて子どもを育むことが大切です。

遊びから学ぶ子育て
 人間には「言語的知性」「音楽的知性」「絵画的知性」「論理数学的知性」「身体運動的知性」「感情的知性」「社会的知性」という8つの知性があると言われています。これらの知性は就学前の4~5歳前後をピークとして形成されるもので、「遊び」によって育まれます。人間の知性、こころは脳の活動に直結していますので、就学前こそ、幼児教育に必要な多くの遊びや体験・体感によって、豊かな知性を育むことが重要で、それが成人になって一つまたは複数の知性が大きく育つ要因になります。
 多くの親が子どもの「教育」について悩んでいるようですが、子育てには迷いや不安はつきものです。難しく考える必要はありません。なぜなら、子どもの成長に最も必要なのは、この「遊び」だからです。とくに幼少期の教育は「遊びの場を用意してあげること」くらいに考えて丁度良いのではないかと思います。お父さん、お母さんはまず、子どもと一緒に遊んであげることから始めましょう。楽しそうな親の姿を見ると、子どもはもっと楽しくなります。そうすると図に示しましたが、好奇心・集中力が増し、さらに多くの事を遊びから吸収するようになります。それが創造力や自発性、課題発見力、さらには生きる力へとつながっていくのです。
 もちろん、親も子どもが遊ぶ中から学ぶことは沢山あります。よく言われることですが、やはり教育は「共育」、育児は「育自」なのです。ぜひ「子どもと」遊ぶ中で「子どもを」学んでください。学びに対する親の姿勢は、必ず子どもに受け継がれていきます。“共育の質の向上は人生の質の向上を担保する”ように子どもとその家族はそれぞれの道、人生に一つの目標・志を持ち、前向きに生きるこころを身に付けます。そして、“社会が求める人間力”が育まれます。

社会が求める人材
 “社会が求める人間力”とは図に示しましたように、3つのパワーから成ります。これは社会・国家が求める人材であり、この基礎が幼児期の「遊び」から養われます。人間社会で生きる上で重要なこの3つのパワーとは、①前に踏み出す力(action power);すなわち、主体性を持って前向きに働きかける力、実行力、②考え抜く力(thinking power);すなわち、課題発見力、計画力、創造力、③チームで働く力(teamwork power);すなわち、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、起立性、ストレスコントロール力が身に付きます。これらの基礎力を身に付ける上で基本となるのが、以下に挙げた家族の子育て習慣です。

父親・母親の良い子育て習慣
1.家族の間で、朝起きたら「おはようございます」と言い、毎日挨拶を欠かさないようにしましょう。また、一日に最低一度は食事など団欒の時間を作りましょう。
2.家族は毎日きれいな言葉を使うように努力しましょう。子どもに「お前」「てめえ」「がき」などの汚い言葉で呼ばず、一人の人間として人格を尊んで名前で呼んでください。
3.家族はすべて一人ひとり、お互いに人として尊敬し合い、お互いが感謝のこころを持って接するように努力しましょう。
4.家族は一つの組織です。一人で頑張らないで家族で協力・分担して、日常的に楽しく笑顔を絶やさないよう前向きに生きる努力をしましょう。また、子育てを応援してくれる良い友達を複数持ち、コミュニティーを大切にしましょう。
5.子どものこころの痛みを自分のこころの痛みとして感じる「思い遣り」のこころを持ちましょう。また、子どもとのスキンシップによるコミュニケーションを大切にしましょう。
6.お互いを理解し合い、人の言うことをよく聞きましょう。また、何でも相談し合える環境を創るよう努力しましょう。こ れらが人間関係を形成していく上で大切になります。
7.子どもを泣かすより笑顔を引き出すように努力しましょう。子どもが病気でもないのに泣くのは、悲しいか、怖いかのどちらかです。子どもの気持ちを理解することが大切です。
8.子どもが良いことをしたときや、言うことを聞いたとき、頑張ったときなどは積極的にほめてあげましょう。叱りつけるよりもほめることを優先し、子どものやる気・意欲・能力を引き出すように努力しましょう。「教育」とは「引き出す」という意味でもあります。
9.自然に接する機会をたくさん作り、体験・体感を豊かに育てましょう。ノーベル賞学者など世の中の偉人と呼ばれる人のほとんどが、幼児期には遊びの多い自然の中で育っています。
10.「sense of wonder」という言葉があります。これは「不思議さや神秘さに目を見張る感性」を指し、子どもの教育に大変重要です。子どもは成長過程で様々な体験・体感を通して好奇心、自発性、創造力をからだとこころで育みます。

参考図書
1.近藤雅雄:子育てハンドブック、Tokyu Child Partners、東急グループ、2015
2.澤口俊之:幼児教育と脳、文春新書、2004
3.浜尾実:子どもを伸ばす一言、ダメにする一言、PHP文庫、2001
(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

旧国立公衆衛生院にて創設された旧ポルフィリン研究会に出席

 2016年4月22日、31年間通った港区白金台の旧国立公衆衛生院を久し振りに拝観しました。その後、本院の隣に位置する東京大学・医科学研究所にて開催された第6回ポルフィリンーALA学会年会に久しぶりに出席し、またその帰途、敷地内で国立公衆衛生院時代の同僚であった図書館の磯野威さんと偶然に出会ったことは驚きでした。

本学会設立の経緯
 私は旧国立公衆衛生院にて、31年間、厚生行政に関わる研究・教育活動を行いました。その間、今から30年前の1986年にALAの代謝を行うALA-D酵素が亜鉛酵素であることが分かり、臨床医学、公衆衛生学・衛生学・産業衛生学、生化学、植物学、栄養学など多分野から注目され、そこで、職場の仲間と共にALAD研究会を創設しました。4年後の1990年には、研究領域を拡大・全国組織として、ポルフィリン研究会と名称変更・規約を作成し、国立公衆衛生院にて第1回の学術大会総会を開催すると同時に査読付論文掲載雑誌「PORPHYRINS」を定期的刊行物(季刊)として出版を始めました。当時は年に2回研究発表会、4年に1回国際学会を行っておりました。
その後、時代は変わり、2011年にALA研究会を主宰する先生方とポルフィリン研究会を主宰する先生方によって、両研究会が統合され、「ポルフィリン‐ALA学会」が誕生しました。

 写真の建物は旧国立公衆衛生院
 2002年(平成14)4月に、旧厚生省の付属試験研究機関再編成によって64年の歴史を閉じました。建物は現在もそのままの状態で残っています。この建物は米国ロックフェラー財団の寄付によって建てられ、竣工当時は国会議事堂の次に高い建物で大変眺望が良かったそうです。日本建築学会が編集した日本建築物総覧(1980年)には特筆に値する建築物14000件および特に重要な2000件の中に本院建物は含まれ、同会長名による「近代日本の進歩と地域景観に寄与した」として、永く保存されたき旨の依願状を受けています。本院で31年間、教育・研究活動に身を投じて行ってきた一人として、重要文化財に近いものとして永く保存されることを願っています。本院は日本の公衆衛生学発祥の地です。
 現在、本施設は港区の郷土歴史館複合施設「ゆかしの杜」として新たなスタートをし、一般公開されておりますので、ぜひご見学下さい。(近藤雅雄:平成28年4月25日掲載)

日本人の食生活解析

はじめに
 日本の食生活は経済成長と共にこれまでの米を中心とした日本型食生活から欧米など世界中の料理、ファーストフードや健康食品というものを自由に取捨選択し、食べたいときに好きなものが食べられる豊かな自由型へと変った。このような豊食(飽食、崩食)の時代になると共に、アレルギー、がん、生活習慣病、認知症などの増加といった新たな課題が出現してきた。
 本稿では、最新の主な食生活事情について分析・考察を行った。

1.食生活の変遷と食のあり方
 現代人は、食あるいは栄養に関する科学的な知識は殆ど持ち合わせることなく、好きなものを好きなときに好きなだけ、あるいは今あるものを寄せて食べる傾向が増えている。食生活はと言えば少子・高齢・核家族化の進展と共に「こ食」(孤食、小食、固食、個食、粉食、濃食、戸食など)が習慣化している。このような生活習慣は成人並びに次代を担う子どもたちの学習・記憶・体力の低下、免疫能の低下、対人技術の発達障害などと言った心身の問題や生活習慣病、摂食障害などを誘発し、さらに、これが体質として次代へも引継がれかねない。これらの現状を鑑み、最も重要な課題が乳幼児期から生涯にわたっての「食」のあり方である。

2.多くの病気が食源病
 日本人の免疫能はこの数十年間で低下してきている。免疫の中心である胸腺は酸化ストレスや加齢によって萎縮し、免疫能が低下する。これが、近年の生活習慣病、がんや自己免疫性疾患、感染症などといった様々な病気の発症要因の一つとして広く指摘されている。その主たる原因が前述した戦後の食生活の劇的な変化が挙げられる。すなわち、私たちの住む地球には時間的リズムがあるように、生体にも同じ時間のリズムがある。一日のリズム(概日リズム)には生命を維持するのに重要な働きとなる睡眠、自律神経、免疫、内分泌、摂食(食生活)などの各リズムがある。これらリズムの中心となっているのが「食」である。近年、この「食」を中心とした生活習慣の変化が生体のリズムを変え、肥満、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、がんなどの生活習慣病が起こることが分かってきた。その原因の主なものとして、食塩と脂肪の摂取過剰と食物繊維、ミネラル類の摂取不足が挙げられる。したがって、これらの疾病は食が原因で発症する「食源病」といっても過言ではない。

3.日本人の食生活の実態と次代を担う子どもの食育
 厚生労働省が毎年行っている国民健康・栄養調査の結果を基に食生活の実態を解析した結果、免疫能に重要な影響を及ぼすタンパク質の摂取量は男・女共に生涯にわたって大きな変化が認められなかったが、タンパク質をどの様な食品群から摂取しているかを年齢別にみると、40歳代以降から肉類と魚類の摂取量が逆転することを見出した。すなわち、若年者は肉類、中・高齢者は魚類の摂取が高いことでタンパク質摂取が生涯にわたって保持できていることがわかった。一方、米国人の食生活パターンは生涯のタンパク質源を肉類に依存し、これが加齢と共に摂取量が減少することで1日に必要なタンパク質摂取量が減少する。この減少は免疫力の低下を惹き起こす。これが日米の寿命の差となっているのかもしれない。
 一方で、我われは日本人の中・高齢者の血中微量元素濃度を測定した結果、免疫能および抗酸化能に影響を及ぼす銅、亜鉛、セレン、マンガンなどが加齢に伴って減少する傾向を見出した。さらに、これら元素の変動が不定愁訴や循環障害などの各種自覚症状と関係していることを見出した。これらの結果をもとに、中・高齢者が抗酸化・免疫能を強化する微量元素やビタミン、フラボノイドなどを多く含む豆類、野菜、果物、魚介類などを積極的に摂取することによって、これらの自覚症状がなくなり、ますます健康寿命の延伸を図ることの可能性を見出している。
 これらの結果に対して、現代の子どもが将来高齢者となった場合に、現在の高齢者と同じような食事摂取パターンとなるかについては疑問である。すなわち、味覚や嗜好は乳幼児期に形成されるためである。したがって、安心・安全な食物を選別できる能力、食物の大切さを知る能力などを小児期に育てることは重要である。

4.免疫能を高める栄養素・食品の解析
 各種酸化ストレスからの防御を目的として、我われは食品中に含まれるミネラルやビタミン、フラボノイドなどの抗酸化成分を胸腺(免疫)細胞に投与し、活性酸素の消去能について検討したところ、各抗酸化物質によって細胞内外での抗酸化能力が異なっていることを見出した。このことは、抗酸化成分の効果的な摂取法として、細胞内外にて抗酸化作用を発揮する成分を摂取することの方が、細胞を酸化ストレスから防御するにはより効果的であることを示す。事実、細胞内外にて抗酸化能を発揮するフラボノイド(ルテオリンなど)を多く含む野菜(ピーマンなど)を高齢者に食べていただくという介入試験を国立健康・栄養研究所の研究倫理規定にしたがって行った結果、摂取前(介入前)と比較して摂取後(介入後)は抗酸化能および免疫能は統計学的に有意に上昇することを見出している。

5.日本型食生活の変遷と栄養行政
 日本人の食生活は主食、主菜、副菜、汁物で構成されているが、主食としては米を中心とした食生活が連綿と引き継がれてきた。そこから誕生したのがみそ汁、漬物、塩蔵品といった米と合う塩分と砂糖の多い食生活である。しかし、今日のITおよび乗り物社会といった運動量の少ない社会構造が確立してから肥満を始め、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病など欧米に多い病気が我が国でも増加するようになってきた。これに対して、厚生労働省は「健康日本21」、「健康増進法」など様々な政策を打ち上げ、健康に対する対策を行ってきたが、現在までに成功したと言えるのは禁煙と減塩政策である。これら健康増進行政の基本は「栄養」「運動」「休養」の三位一体の遂行であることはいつの時代も変わらない。

6.最新食生活事情~糖質摂取制限に関する話題
 最近、糖質摂取(白米やパン、麺類など)を制限すると肥満、糖尿病(1型、Ⅱ型)などの生活習慣病だけでなく、妊娠糖尿病、がん、アルツハイマー病や認知症、虫歯、歯原性菌血症などが改善・予防されるといった書物が現在の食生活に対する混乱を惹き起こしている。いわゆる糖質ダイエットと称されるものである。これに対する異論・反論も多く、安易に信用することは控えたい。これら多くの話題には科学的根拠に欠けているのもあり、それらの課題は医学・栄養学・食品学等の学会、厚生労働省・農林水産省などの行政側で話題・議論すべき内容であり、これを国民に直接一般書物などマスメディアを通して訴えることは国民の不安を煽るだけでなく、食行政を混乱させるだけであり、売名行為とも受け取らわれかねない。これら内容については専門家の間でしっかりと議論し、科学的に確立したものを一般国民に公表すべきである。また、今日様々なダイエット法がメディアを通して宣伝されているが、もしもダイエットなど自分の食生活を変えたい場合には、必ず信頼できる人と相談することが大切である。このように、日本の食事事情が混乱している現代社会においては糖質、タンパク質、脂肪の摂取比率などを含めて、早急に総合栄養学的な観点から生涯にわたっての日本型食生活と健康について医学、農学、栄養学、経済学、工学などの広領域分野にて科学的に再検討する必要があると思われる。

7.望ましい食生活の在り方
 「食」は国家の基盤、文化や教育の根幹であることから、国は国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育む事ができるよう、家庭、学校、地域社会における食育推進行政を徹底してほしいものである。「食育」は「職育」であり、各々のlife stageにおいて知力、体力、抵抗力、作業能率、正しい判断力、感性を育むために不可欠な教えである。人間の一人ひとりのゲノム(遺伝子)の差は0.1%であり、これが免疫など様々な個体(人)差となっている。したがって、年齢、性、運動量、作業量、各ストレス量、体質などが各個人によって異なるように、食事の質と量も当然異なってくる。望ましい食生活とは、個人個人が正しい知識を持って、賢く食事を楽しむことである。それによって、酸化ストレスも減少し、免疫能が強化され、健康寿命の延伸が図られる。我われは、「今こそ」栄養学・食品学の知識を身に付け、一つの栄養素・食品におけるミクロ的な視点ではなく、総合栄養といったマクロ的な視点から自分自身の食生活について真剣に考える必要がある。厚生労働省などの公的機関は国民に対する正しい栄養教育の一層の普及が望まれる。

おわりに
 戦後70年間で日本社会のあり様が著しく変貌し、今後もさらに変化していくものと思われる。いつの時代も生命・健康維持において最も重要なものが「食のあり方」である。正しい「食生活」を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。また、「食」に対する知識を得ることによってからだと心を大切にし、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕するといった素直な心を持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。内容の貧しい食事であっても団欒のある楽しい食生活や四季の旬のおいしい物を食べた時の自然と笑みがこぼれる幸福感・こころのゆとりが得られ、そこからさまざまな知恵が伝承されることを忘れてはならない。
(近藤雅雄:平成28年3月2日掲載)

栄養学と医師

 栄養学の基本を学ぶことによって生命、生体の恒常性(ホメオスタシス)、生体リズムおよび動的平衡の重要性を理解できるようになります。そして、栄養の過不足状態における体内代謝への影響や遺伝学の観点から生活習慣病と栄養現象との相互作用などを正しく理解することによって、保健・医療・福祉・文化(食文化)・環境(食環境)との相互関連性を理解し、人間力を身に付けるようになります。
 栄養は生命維持に不可欠な現象であることから、栄養学はその基本である栄養の意義、健康の保持・増進、疾病の予防・治療における栄養の役割、エネルギーと栄養素の代謝とその生理的意義など、ヒトの生涯にわたって健全な健康学の在り方を追究します。そのためには生命維持に必須な各種栄養素の生理学的作用、栄養素の体内相互変換やその機能、栄養と健康および疾患との関わり、栄養と食生活の関係、体構成成分としてのエネルギー源の役割、摂食行動から消化・吸収、栄養素の体内運搬など、これら栄養学の基本的概念を疫学統計、理学、医学、社会科学などを駆使して、年齢別、性別、個別・集団別、運動と生活活動別、各種疾病と栄養との関連を追究し、人間のQOL向上と健康寿命の延伸を図るべく、総合的・学際的に教育・研究を行うことを使命としています。
 このような教育・研究を学修してきた管理栄養士が健康、医療などヒトの生命に関わる仕事に携わる場合には、栄養学に対する正しい幅広い知識と技術を駆使して病院、学校、企業、その他社会的な様々な場面で人々の健康の保持・増進、疾病の予防や治療・予後などの指導・管理にあたってほしいと願います。

 しかしながら、近年、少数ですが栄養学を学修していない医師が栄養・食事に関して自ら様々なメディアを介して、あるいは医師が書いた書物が氾濫し、自説を説く人が多くなりました。それらの中には①栄養学の基本を覆すものが多くみられる。②栄養学的な根拠のない個人的な感想が多く、危険なものもたくさん見られる。また、③統計学的に有意差があるからと言って、あたかも全人的に科学的根拠があるように指導する。さらに、④動物実験の結果をそのまま人に当てはめようとする。医師は栄養学については素人同然です。その医師が自分の体験・感情から広く一般向けに栄養学的な根拠なしにマスメディアに向かって自説を公表することは無責任と言えます。その場合は医師という肩書を外して公表すべきです。医師の使命は病気の治療です。
 一般人からすれば、医師ということで、その言動を丸呑みにし、それを行動に移そうとします。とくに医師の言葉は重たく、責任がありますので、話題性を狙った軽はずみな言動や著作は控えるべきです。医者は医師としての自覚を十分に持ち、その責任を全うしてほしいものです。

 現在、病院におけるチーム医療が求められていますが、医師主体の我が国にあっては、医師が医療のリーダーとなり、すべて医師の指導の下に進められているのが現状です。また患者にとっても、医師は「お医者様」と言われるように尊敬され、絶対的な立場にあります。しかしながら、本来のチーム医療の考えからすれば、チーム医療に携わるスタッフ全員(医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など)が十分に意思の疎通を図り、共通理解のもとに治療を進めることが大切と思います。一方、管理栄養士などの栄養の専門家は十分に誇りを持って、当該専門領域のさらなる向上のための勉学に日々努めてほしいと思います。
 今後は、医療に携わる医師以外の看護師、管理栄養士などの国家資格者の待遇と責任をさらに強化し、少なくとも医師と同等の発言力を高め、本来の姿であるチーム医療の進展を目指してほしいと思います。また、国民の保健・健康、医療、福祉にかかわる行政において、医師が万能であるといった時代はもう終わりにしたいものです。(近藤雅雄:平成27年9月20日掲載)

人間と地球環境問題

 生物がこの地球に誕生して以来、気の遠くなるような長い時間をかけて地球環境のもたらす様々な変化に適応・順化し、今日の人間を中心とした文明社会を築き上げてきた。しかし、この百年単位の短い期間で先進国における大量消費、大量破壊型の社会構造、途上国における爆発的な人口増加、急激な都市化・工業化などによって私たちの住む恵の地球環境が大きく変貌しようとしている。いわゆる地球環境問題として、オゾン層の破壊、地球の温暖化、酸性雨など越境大気汚染、海洋汚染(地球規模の化学物質汚染を含む)、自然資源の劣化(熱帯林の減少、生物の多様性の減少、砂漠化など)など生物の生命に直接関わる深刻な問題が多数発生しているが、これらはすべてお互いに関連しあっている。 (近藤雅雄:平成27年9月5日掲載) 以下のpdfに原稿を掲載した。 人間と地球環境問題

伝統医学と日本の医療の方向

 戦後の急速な社会変化から、次代に向かっての社会と共に歩む幅広い医療の改革が進められている。一方で、世界各地で伝統医学従事者を中心とした「伝統医学(traditional medicine)」を見直す機運が起こっている。こうした中で、日本の伝統医学の今後の方向性を考える動きも起こり始めている。

1.世界での伝統医学の現状 
 西洋医学はギリシャ、ロ-マで発祥し、そしてそれが西洋に芽生えた伝統医学の一つである。この西洋で誕生した一伝統医学である西洋医学が今日の世界の主流をなしてきた背景の一番大きな要因は近代科学的手法(分析的手法)を取り入れるのに成功したことによる。すなわち、西洋医学では、臨床と基礎の各研究がうまく合体し、その成果は現在の多くの病気の原因やその発症機構を明らかにし、病気の診断・治療・予防など医療のあらゆる面で大成功を収めてきた。この事実は誰も否定することはできない。
 しかし、近年の病気の多様性や文化の多様性から(原因の明らかでない慢性的な疾患、ストレスなどの精神的な要素が反映される疾患、再発性疾患などは西洋医学的手法では困難な場合が多い)、これまでの近代科学的手法に基づいた西洋医学だけで、全人類的医療が行えるかの疑問が世界中で沸き起こってきた。そこで、近年、世界各地の伝統医学、民族医学を見直そうとする機運が国際的に起こってきている。
 中国では数千年の歴史を有する中国医学主体の医療から、文化大革命(1966~1976年あるいは1977年)以降、西洋医学と中国伝統医学の融合政策に政府が積極的に推進し、一応の成功を収めている。しかし、近年の急速な経済発展・開発に従い、此れまでの中国の伝統療法に変わって西洋医学が主流になりつつあることは否めない。
 一方、他国ではしだいに積極的に民族医学を取り入れ、その土地、風土に合った医療を推進しようとする国が増え、国際機関も積極的にこれを支援する方向にある。すなわち、現代西洋医学以外のすべての医療を含む多種多様な治療法である補完・代替医療が急速に進展している。日本では漸く他国での伝統医学を含む代替療法の調査・研究が行われ、現代の医療に活用するためのプロジェクトが動きだし、伝統医学(東洋医学:主に漢方)を正規カリキュラムに取り入れているところも増えてきた。しかし、これらはすべて医師教育(日本では、医師はすべて大学の医学部での医学教育を受けたものだけを指す)の一環として取り組まれており、一般的に東洋療法に携わる専門家(あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師などの治療師)の身分は残念ながら極めて低い。その最大の理由は、わが国の医療行政が西洋医学の医師主体の構造国家として機能しているためである。

2.欧米での民間医療ブ-ム(代替・補完医療)の背景
 1998年に米国国立衛生研究所(NIH)に国立補完代替医療センター(NCCAM)ができたことをきっかけに広まり、世界各地で現代医学を補完・代替する医療として利用されている。1999年の11月に米国・ワシントンで「第1回チベット医学国際会議」が-伝統医学と西洋医学の対話-と題し、世界中から2500人の参加で開催された。日本でも、1998年に「日本代替・相補・伝統医療連合会(JACT)」、2000年「日本統合医療学会」などが結成され、伝統医学および補完・代替医療(complementary medicine, alternative medicine)が世界的なブ-ムにあることは事実である。このような背景としては、これまでの西洋医学主体の医療は①検査、薬などの医療費が高く、副作用が多い、②即効性があるが、病気の局所しか診ない、③検査の結果が中心で全体(とくに患者のこころ)を診ない、④貧しい人は西洋医学にかかれない、⑤医師の職業意識に対する個人差が大きい、⑥その土地の風土・文化に則した医療が欠けている、⑦患者の健康・医療に対する意識の高まりなどであるが、その最大の根拠は⑧医療費の高騰と思われる。そこで、現在、厚生労働省、医師会を中心とした病気の予防、健康増進という健康政策が民間企業および国民における健康医学ブ-ムを起しているものと思われる。

米国と日本の現状
 米国では6種の医療職 ①医師 ②歯科医、③オステオパス、④カイロプラクタ-、⑤ポタイアトリスト、⑥検眼師があり、これらは大卒あるいは短大卒後4~6年の専門課程の履修を経た後授与される学位であり、学位取得後に国家試験にパスして免許を受けなければその業務が行えない。この内、日本的な感覚で、いわゆる普通の医者と呼べるのは医師とオステオパスであり、投薬・手術を含む人体に対するありとあらゆる医療行為が法的に認められている。検眼師は眼科医の業務から投薬・手術を除いたものすべてを行うことができる。ポタイアトリストは足の医者で、足のみを治療の対象として、麻酔を含む投薬及び手術も行うことができる。
 一方、米国で生まれたカイロプラクティクは、今日では多くの国で正規医療の一部となっている。カイロプラクタ-は一般的診断権とX線撮影権を持ち、州によっては簡単な外科手術や死亡診断書の作成なども認めているが、自由競争・独占禁止を国是とする米国ならではの住み分けぶりといえる。さらに、米国では「インディアン伝統医学」、「仏教医学」、「アロマテラピ-」が現在静かなブ-ムとして広まっている。

 日本では国家資格として国が一般開業(独立)権を認めた職種として、歯科医師以外に、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師があり、日本の伝統療法と言える。このうち、指圧は昭和15年に現在の日本指圧専門学校浪越学園の前身である指圧学院を設立した浪越徳治郎氏によって普及され、現在に至る。柔道整復術は日本古来固有の伝統医療、民間療法、代替医療であり、柔道整復師は、骨折・脱臼・打撲・捻挫の治療を行うことができる。ただし、これらの療法については、医師はすべてについて実施可能であるが、日本独自のこれら伝統療法の発展並びに治療師からなる医療行政の今後の進展が期待される。

3.日本の医療の方向性
 米国ではアメリカ人の健康づくりをまとめた米国健康政策の指針である「ヘルシーピープル2000」が10年ごとの見直しで米国保健社会福祉局より提出された。一方、日本の医療も西洋医学を基軸に進化してきたが、米国と同様に近年の生活習慣病を始め慢性疾患の増加に関連した健康政策が重要視されるようになり、米国に追従した形で、厚生労働省から「健康日本21」と題し、21世紀における国民の健康寿命の延伸を実現するための新しい考え方による国民健康づくりの策定に対する取り組みが行われるようになった。
 また、これまでの医療は、プライマリ・ケアについては軽視の傾向であったが、プライマリ・ケアの専門医として、2013年4月に厚生労働省は「総合診療専門医」という新しい専門医を養成・認定することを決定した。2017年から後期研修がスタートし、2020年に新制度の下で、初めての専門医が誕生する。すなわち家庭医(family doctor)制度とも言える。これによって、①患者中心の医療、②家庭志向型のケア、③地域包括プライマリ・ケア、④健康問題の心理社会的アプローチ、⑤共感できる人間関係の維持・強化等が図れることが推測される。
 したがって、これからの医療は各種疾病に対する治療対策は勿論のこと、健康向上・疾患予防(予防医学)という概念が大きく広がってきていることは癌、生活習慣病の概念でもすでに証明されていることから、これを家庭医にて個人の健康管理を徹底しようとする時代にあると言える。
 一方、日本独自の伝統療法の充実についての対策は未だにみられない。これを早急に充実させ、西洋医学と東洋医学(日本の伝統医学)の両者の発展を目指した日本独自の総合医療の発展を期待したい。
参考文献:①今西二郎編集:補完・代替療法、金芳堂、2003、②葛西龍樹著:医療大転換―日本のプライマリ・ケア革命、ちくま新書、2013、③アンドルーワイル著、上野圭一訳:癒す心、治る力、角川書店、1995年。(近藤雅雄:平成27年9月2日掲載)


主な世界の伝統医学
①中国:中国医学(気功などを含む:黄帝内経、神農本草経、傷寒論を基本典籍とする)漢方、鍼灸、チベット医学、太極拳など、②インドその他:ア-ユルヴェ-ダ、ユナニ、ヨガなど、③ミャンマ-:ビルマ伝統医学(土着医学)、④インドネシア:スクン・バイ(伝承治療薬:ジャムウ、ウコン)、⑤アラブ諸国:ユナニなど、⑥アフリカ:薬草学など、⑦欧州諸国:アロパシ-、ホメオパシ-、鍼灸、温泉療法、カイロプラクティク、アロマテラピ-など100 種類以上、⑧米国:インディアン伝統医学、カイロプラクティクなど、⑨日本:あん摩マッサージ指圧、柔道整復、鍼灸など

補完・代替医療の種類(今西二郎編集:補完・代替療法,2003)
①食事・ハーブ療法:栄養補助食品、絶食療法、花療法、ハーブ療法、菜食主義、メガビタミン療法、②心を落ち着かせ、体力を回復させる療法:睡眠療法、瞑想療法、リラクゼーション、バイオフィードバック、イメージ療法、漸進的筋弛緩療法、③からだを動かして痛みを取り除く療法:太極拳、ヨガ、運動療法、ダンスセラピー、④動物や植物を育てることで安楽を得る方法:アニマルセラピー、イルカ療法、園芸療法、⑤感覚受容器を介した療法:アロマセラピー、芸術療法、絵画療法、ユーモアセラピー、光療法、音楽療法、⑥物理的刺激を利用した療法:温泉療法、刺激療法、電磁療法、⑦外力で健康を回復させる療法:指圧、カイロプラクティック、マッサージ、オステオパシー、リフレクソロジー、頭蓋骨調整療法、⑧宗教的療法

こころとからだの健康(9)治療と治癒

 生体には様々なバイオリズムがあり、そのリズムの乱れは、脳の視床下部を中心とした体内の恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)によって常に無意識的に自己診断、修復、再生の3つの機能が働き、健康状態に戻そうとする治癒力が働いています。
 健康とは完全にバランスの取れた状態であり、これが崩れたときに健常な状態に戻そうとします。この勢いは人為的に作用させることが可能であり、それは治療によって成すべきです。治療と治癒との関係は、治療は受身的であり、病を外部から叩くのに対して、治癒は能動的であり病を内部から除去することを指します。

1.医学誕生における2つの神話
1)医神 アスクレピオス(Asclepius)
 病気の治療は基本的に抗医学であるというのが現在西洋医学思想の根本であり、病気のプロセスを内部に押しやるという本質的に対抗的・抑圧的な医学です。

2)健康神 ヒュギエイア(Hygeia)
 治癒力の強化(自発的治癒、spontaneous healing)は東洋医学をはじめとした西洋医学以外の伝統医学の根本思想です。この思想は現在の西洋医学の一分野である衛生学に見られ、衛生学を健康神の考えを取り入れHygieneと命名されましたが、現代の衛生学は疫学や中毒学が主流であり、ヒーリングシステム(治癒系)、すなわち、自己診断、修復、再生の機序解明に関する研究はこれまであまり行われてきませんでした。また、衛生学は予防医学としての代替、補完、相補医療の領域が重要と思われますが、広く公衆衛生学という見地からすれば、医学部のみで究明できるものではなく、理工学、人文科学、家政学、栄養学、人間科学など多領域に渡る学際的研究分野であるべきです。

2.主な伝統医療 
 日本には貝原益軒(1630~1714)の「養生訓」が有名ですが、明治時代以降医師の権力が著しく増大し、西洋医学一辺倒となっていきました。一方、世界では、アーユルヴェーダ医学、鍼療法、バイオフィードバック、ボディーワーク、中国医学、カイロプラクティック、イメージ療法、生薬医学、ホリスティック医学、ホメオパシー、睡眠療法など多数が知られています。このうち、よく知られているのがインドの伝統的医学であり、ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)、中国医学と共に世界三大伝統医学の一つでるアーユルヴェーダです。サンスクリット語で長寿の知恵と言います。問診、触診、脈診など患者の様子を細かく観察して診断し、食事療法、薬草療法(生薬、動物薬、鉱物薬)、スチームバスやオイルマッサージなどがあり、インドの庶民の医学となっています。

3.ボブ・フルフォードの教え 
 フルフォードの医学は病気を抑圧するのではなく、からだに備わっている潜在的な治癒力の発現を助長する、非侵襲的な医学であり、古代ギリシャの医師であったヒポクラテスの2大訓戒「①Primum non nocere:傷つけてはいけない、②Vis medicatric nature:自然治癒力を嵩めよ」を遵守し、「①からだは健康になりたがっている、②治癒は自然の力である、③からだはひとつの全体であり、全ての部分は1つに広がっている、④こころとからだは分離できない、⑤治療家の信念が患者の治癒力に大きく影響する」の五つの知恵を実践した。このフルフォードの教えについてはアンドルーワイル著の「癒す心、治る力」は、「自発的治癒とは何か」、「8週間で甦る自発的治癒力」の2冊からなる書物に記載されています。医師をはじめとする治療家には一度は必読されることを望みます。

参考文献:①アンドルーワイル著、上野圭一訳:癒す心、治る力、角川書店、1995年。 (近藤雅雄:平成27年9月2日掲載)

こころとからだの健康(8)肥満対策

 肥満とは単に体重が多いということではなく、脂肪量(中性脂肪)が過剰に蓄積した状態をいい、脂肪が増量している組織および場所(分布)によって皮下脂肪型(下半身型、洋梨型)肥満と内臓脂肪型(上半身型、りんご型)肥満に分類されます。生活習慣病との関わりがあるのは内臓脂肪型肥満です。
 肥満発症の原因は①食べ過ぎ、②誤った食事パターン、③運動不足、④遺伝、⑤熱産生機能障害などが挙げられますが、生活習慣による影響が多いことが分かっています。

1.肥満のメカニズム
 肥満のメカニズムの研究は1994~1995年に肥満の遺伝子およびその受容体遺伝子などが相次いで発見され、漸く肥満のメカニズムの概要がわかってきました。ヒトの体重は身長に対して設定されたように遺伝子によって食欲や消費エネルギーが調節されています。その調節には主に①レプチン(白色脂肪細胞から内分泌される蛋白質で摂食中枢を抑制する。すなわち、もう食べなくても良いという信号を脳に伝える。レプチンとはギリシャ語で“やせ”の意味です)、②レプチン受容体(視床下部の摂食中枢に存在する)、③β3アドレナリン受容体(エネルギー倹約遺伝子)、④脱共役蛋白(UCPファミリー;ミトコンドリア内膜に局在する蛋白で、ATP生産を伴わずに熱産生を行う)などが関与し、これらの遺伝子の異常と様々な環境要因が肥満を発症させる原因となります(肥満に関連した遺伝子は約70種類存在するという)。
 近年、急速に肥満者が増加(とくに小児の肥満が多い)し、社会問題となっていますが、その原因は過食や運動不足などが考えられます。

2.小児肥満の対策
 小児肥満の問題点として、①成人肥満への移行、②生活習慣病の発現、③いじめの対象となるなどがありますが、これらの対策として、こころの教育が最も大切です。小児肥満は、①家族、学校での教育(共育)、育児(育自)、②食生活改善、③糖質、脂質の摂取量を減らす、④積極的に運動を奨励する、⑤ダイエットの自重などによって予防することができます。

3.食事と健康
 こころとからだの健康を堅持していくために最も重要なのが食です、日頃から食に対する考え、興味を持ち、栄養についての正しい知識を身に付けたいものです。
 栄養は生命を維持するために必須な行為であり、その目的は生体機能の調節、生体組織の修復・再生、体温生産およびエネルギーの獲得などです。栄養素の摂取が十分であるかないかは、年齢に適した発育(身長・体重)、日常作業に十分見合った体力(作業能力)、病気に対しての抵抗力(免疫力)、などによって栄養状態が判定されます。
 これらの栄養状態が適正であるためには栄養素の過不足がないようにバランスよく食事摂取することが重要です。特に、食事は日常の生活習慣に欠かせない現象であり、生活習慣と深くかかわる病気の予防や改善のためには、毎日の食生活、食事に気を配ることが重要です。

4.肥満を誘発する原因が氾濫
 近年、24時間営業のコンビニエンスストアで外国の食材、加工食品、健康食品が氾濫し、気安く購入できることから需要が急増しています。しかし、これらの食品には一時のファッション的な、科学的裏づけのないものが多く出回っています。また、外食産業が発展し、今や欧米と同じように日本人の食生活並びに健康管理は個人に委ねる時代となりましたが、その結果、日本人の肥満人口が増加し、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病が蔓延することとなりました。

5.太らないための10か条
 肥満は①生活習慣病に直結する、②免疫力が低下する、③動きが鈍くなる、④息切れがするようになる、⑤やたらに汗をかく、⑥寿命が短くなる等、デメリットが多く、メリットがあまりありません。私も、青年期に56㎏であった体重が、中年期には過食と運動不足によって70kgと過体重となり、様々な生活習慣病を発症すると共に、先に挙げたデメリットが出てきました。そこで、健康について意識するようになり、これまでの生活習慣、特に食に対する意識を変え、日本人本来の日本型食生活に変えてから体重が減少し、現在は青年期の56㎏に戻すことに成功すると同時に生活習慣病もなくなりました。以下に、私の経験に基づき作成した太らないための条件を挙げます。

太らないための10か条
1)自分の体質を知る
2)1日3食、時間をかけて楽しくいただく
3)食塩、脂肪類は控えめに
4)刺激物、甘物、アルコール類などの嗜好品は控えめに
5)毎日野菜、海産物を多く食べる
6)寝る2~3時間前までに食事を終える
7)1日30分以上の運動(有酸素運動、徒歩1万歩)を行う
8)からだをこまめに動かす
9)体重計に乗る習慣をつける
10)入浴中は腹式呼吸を行い、ストレス解消を図る

6.健康度に対する健康指数
 標準体重は身長(m)×身長(m)×22によって、また、肥満度(BMI:体格指数)は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によって求められます。評価は、BMI 18.5~25が正常で、18.5以下がやせ、25以上が肥満です。やせすぎの場合も病気の罹患率が高く、BMI=22が最も病気の罹患率が低いと言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(7)摂食障害

摂食障害 拒食や過食などの摂食障害は年々増加の傾向にあります。その病因は成熟恐怖や家族問題などの心理的要因(心因説)、摂食調節因子異常などの生物学的要因(身体因説)、ダイエット流行などの文化・社会的要因(文化・社会因説)などが考えられ、また、これらの要因が相互に関連しあって発症する多元的モデルが広く受け入れられています。
 一方、拒食と過食は相反するもののように捉えがちですが、拒食症から過食症に移行するケースが約60~70%出現し、「極端なやせ願望」あるいは「肥満恐怖」などが共通し、病気のステージが異なるだけの同一疾患と考えられています。

1.拒食症(神経性食欲不振症、神経性無食欲症)
 とくに若年層(思春期)の女性に多く、また、先進国に多いことから文化的要因も含まれていることが推測されます。
 この病気は体重増加への強い恐怖心を持つものが多く、その発症には第2次性徴期における特有のこころとからだの成熟のアンバランスからくる不安定な心理状態が関与しているといわれています。症状としては、女性の場合は拒食のために体重減少(標準体重の-20%以上)、無月経、性ホルモン低下、糖質コルチコイド(ステロイドホルモン)上昇などを引き起こし、「うつ」に移行することもあります。また、時には隠れ食いをしては嘔吐を繰返すこともあります。重症例では死亡することもあります。

2.過食症(神経性大食症、神経性過食症)
 過食症の場合は1週間に2回以上ヤケ食いやドカ食い(俗に週末過食症候群などと言われる)が見られ、結果的には肥満(単純性肥満)となりますが、体重増加を止めるため食べたあと吐くこともあります。原因は不明ですが、認知行動療法(体重と自己評価)や抗うつ剤が効く場合もあるということです。
 拒食症や過食症はこころの病が中心であることは間違いなく、その治療には、体重を調節するだけではなく、摂食障害についてよく理解し、ストレスとなる原因を早期に発見、その対処を考えることがなによりも大切です。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(6)ストレスと心身の障害

ストレス 現代社会はストレスに満ち溢れ、社会生活上、学校、会社、家庭内などでよく遭遇する不安、悲しみ、失望、恐怖、また、突発的な事件に巻き込まれたり、大きな災害に遭遇したりなど、後天的にこころが傷害されることが多く見られます。これは日本が抱える課題の一つである自殺者の増加と決して無縁ではありません。
 こころが健康であるということは、感情(気持ちや気分)と精神(理性)が健全で、社会と調和した生活を営んでいる状態と言えます。このような状態から外れるとこころの健康に異変が生じ、やがて「こころの病」へと進展します。
 ストレスが原因で起こる「こころの病」の代表が「心身症」「神経症」「うつ病」ですが、これらは関連している部分も多く、厳密に区別できないことがあります。この中で、「うつ病」はこころの風邪と言って誰でもなる病気ですが、年々患者数が増加し、放置すると自殺へと進展するので、予防医学上早期対策が望まれています。
 一方、からだの疲労がこころの疲労に移行する「累積疲労」が知られています。また、「慢性疲労症候群」も知られていますがこれらこころとからだの疲労には必ずその原因が存在します。まずは、睡眠時間を十分に確保し、成長ホルモンの分泌を高め、疲れを解消してから、疲労の根本となる原因について相談し、早めに除去または対策を講じることが必要です。

1.心身症
 心身症はどの年齢層でも発症しますが、特に働き盛りの中高年齢者に多く見られ、こころの過度の負担(心理的、社会的ストレスが過剰に加えられた状態)が、内臓諸臓器に器質的ないし機能的障害となって現れる病気を言います。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、神経性狭心症、自律神経失調症、円形脱毛症、睡眠障害、片頭痛、高血圧症、糖尿病、気管支喘息、更年期障害、性機能不全症、メニエール症候群、単純性肥満、慢性関節リュウマチなど多くの病気が関連し、ヒトによって病状は様々です。心身症はストレスとうまく付き合うように工夫し、早めに病気の原因を取り除くことによって、様々な病気の発症を未然に防ぎたいものです。

2.神経症
 神経症は性、年齢に関係なく発症しますが、特に10歳代後半から30歳代にかけて起こりやすい病気です。神経症の発症には心理的・社会的ストレスが大きく関与し、精神・神経症状として現れるもので、一般にノイローゼと言われています。心身症と異なり、内臓諸臓器には異常が認められません。また、躁うつ病や統合失調症のような内因性の精神病と異なって幻覚や妄想は見られません。
 神経症には①絶えず漠然とした不安感を持つ不安神経症(パニック障害)、②ささいな病状でも重病と思い込む器官神経症(心気症)、③自分の意思に反してまるで強迫観念に取り付かれたようにある行為や考えから抜け出せない強迫神経症、④対人恐怖や赤面恐怖、異性恐怖などの恐怖症、⑤健忘状態になったり、人柄が急に変わったり、無表情になったりする精神的症状および座れなくなるなどの運動麻痺や物が見えない、耳が聞こえないなどの知覚麻痺が起こり、これがヒステリーとなって現れることがあります。これらの根底には不安が共通して見られますので、不安となる原因を除去または考え方を改めることが早期治療につながります。

3.うつ病
 うつ病は近年増加傾向にあり精神心理的、社会的ストレスが発症や増悪に深く関与する病気で、脳の心身症とも言われています。発症年齢は時代と共に低年齢化し、20歳から50歳代で発症し、女性の方が男性に比べ約3倍高く、我が国の自殺増加との関係からもその対策が急がれます。女性では産褥期や更年期に比較的発症頻度が高いと言われています。
 うつ病の発症機序は不明ですが、こころとからだを活性化するセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経化学伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。したがって、薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)を投与し、シナプス内セロトニン濃度を増やすための療法が中心となります。診断基準としては、米国精神医学会が作った診断マニュアルやWHO(世界保健機構)が作ったものがあります。
 表に示した様に、うつ病の症状は神経症や心身症とうつ病と神経症似た点も多く見られますが、生きる気力がなくなり、こじらすと自殺につながることが特徴です。うつ病患者の自殺率は高く、患者の14~37%が自殺企図し、15~25%が自殺する。合併症として不安障害、アルコール・その他の薬物乱用、社会恐怖、人格障害、摂食障害などが知られています。うつ病の場合は薬(抗うつ剤)や休養をとり、安心(癒し)を与え、治る病気であることを認識することが重要であり、励ましや叱責は本人の気持ちを追いつめることになり逆効果となります。予後は良好ですが、患者の約20~30%は慢性化すると言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(4)男女の寿命差

 介護の必要がなく健康に生活できる期間を「健康寿命」と言いますが、平成25年(2013年)の日本人の健康寿命は男性71.19歳(同年の平均寿命は80.21歳)、女性74.21歳(同86.61歳)でした。平均寿命からすると女性の方が男性よりも約6年長く、健康寿命は女性の方が約3年長い。しかし、介護を要する期間は男性よりも女性の方が約3年長いという結果でした。
 健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を図るためには、健康増進の3原則である栄養、運動、休養を生活習慣にうまく取り入れることが大切です。しかし、仕事を抱えた男性はなかなか困難で、惰性になりがちですが、健康に対する意識改革が必要です。一方、女性は介護を必要とする期間が長いことから、老後自立できるような工夫を早期に講じることです。

1.男女の寿命の違い
 男女の違いはY染色体の有無で決まります。性を決定する遺伝子であるY染色体上のSRY(Sex-determining region on the Y chromosome)は男性ホルモンであるテストステロンを生産し、男性生殖器への分化や男性の性格形成を促進すると言われています。例えば、染色体(XX)は女性でありながら性格が男性の場合は男性ホルモンが胎児期の脳に入った場合に起こり、反対に染色体(XY)は男性なのに男性ホルモンが脳に入る量が少ない場合は女性の性格になるといった、いわゆる性同一性障害となることが知られています。
 さて、世界中の国において男性の方が短命です。その理由は、①男性は免疫の中枢である胸腺(免疫器官)の萎縮が早い、②筋肉量が多いため基礎代謝量が高い、③染色体の違い(Y染色体は傷つくと回復しない)等が挙げられます。男性は、一般的に生活のリズムが不規則、仕事によるストレス、不適切な食生活(偏食が多い)などによる生体リズムの乱れや筋肉をたくさん持つことから、女性に比して酸素の摂取量が多く、それだけ多くの活性酸素を発生する。これが酸化ストレスとなって免疫力の低下、病気や孤独に弱い、デリケートである等の理由によって短命となると言えます。したがって、男性は日常的にビタミンA、C、Eやポリフェノールといった抗酸化・免疫増強物質を摂取し、ストレスとうまく付き合う生活習慣を身に付ける等、酸化ストレスからの防御が必要です。

2.夫婦の寿命の差
 長年、夫婦が幸せに暮らし、ある日どちらかが先に亡くなった場合を想定します。もし、夫を亡くした妻は1年位落ち込みますが、それ以降は、のびのびと暮す場合が多く見られます。逆に、妻に先立たれると5年寿命が短くなり、離別するとさらに10年寿命が短くなるそうです。また、50歳からの平均余命は、妻のいる男性では約30年なのが、妻のいない男性は約21年と短い。さらに、60歳以上の自殺による死亡者数は離婚した男性が妻のいる男性に比べ46倍も多いと言われています。
 結婚は夫婦それぞれのこころとからだの健康に大きく影響し、特に、男性は配偶者・家族の存在の恩恵を強く受けます。男女ともに健康寿命と平均寿命をまっとうし、介護の必要のない生活を送るのが理想的な寿命と言えます。
 夫婦が幸せに暮らしている姿はだれが見ても微笑ましいものです。夫は妻を、妻は夫を、お互いに理解し、末永く幸せに暮らす方法を若い時から考えていきたいものです。
(近藤雅雄:平成27年8月26日掲載)